ごく限られた場所にしか生息しない! とても珍しい「雑種のカミキリムシ」とは?
【ちょっとマニアな季節の生きもの】昆虫研究家・伊藤弥寿彦先生が見つけた生きもののふしぎ
2023.09.29
昆虫研究家:伊藤 弥寿彦
雑種のカミキリムシがいた!
研究者が何年もかけて丹念に調べた結果、木賊平でフジとタニグチが混生しているエリアが見つかりました。それは一見何の変哲もないカラマツ林の斜面で、広さはわずか数百メートル四方しかありませんでした。そしてその場所で、ついに「フジとタニグチの両方の特徴を持つ個体」が見つかったのです!
「生きものの種」とは何なのだろう?
フジとタニグチの雑種が見つかっているのは、ほんの数ヵ所。奥秩父と長野県の八ヶ岳周辺のごく限られた場所だけでです。何時間もかけて探し回り、この2種類の特徴をもつ雑種を初めて見つけたときは、感激のあまり思わず「やったー!」と叫んで飛び上がりました。
この雑種は「生きものの種」とは何なのだろう? ということを考えさせられます。どうしてこんなことが起こったのでしょうか? ちょっとむずかしいかもしれないけれど考えてみてください。
コブヤハズカミキリの仲間は、日本に6種類(*注)いますが、みな飛ぶことができません。飛ぶための後ろばねが退化しているのです。だから移動するには歩くしかなくて、長距離の移動ができません。大昔(おそらく数千万年以上前)、元々1種類だったコブヤハズの祖先が、大地の地殻変動などで離ればなれになってしまい、さらに川などにへだてられて交流できなくなり、それぞれの場所で独自の進化をとげたのだと考えられています。
ところが、彼らは実はまだ「完全な別の種類」にはなっていなかった。見た目は違うけれど、交尾すれば子どもができ、子孫をのこせる状態だったのです。木賊峠のごく狭いエリアで2種が混じり合っていたのは、もしかしたら地すべりなどで、偶然、片方がもう片方のいる場所へ運ばれたからかもしれません。
雑種の発見によって、別種とされてきたコブヤハズカミキリの仲間ですが、最近では、たとえ見た目が違っても、全て同じ1種なのだと考える研究者もいます。
多くの場合、生きものは長い時間をかけて進化して、姿を変えていきます。それがどの時点で別の種類となるのか? コブヤハズカミキリの仲間の研究は、進化の不思議をひも解くカギのひとつになるのです。
*注:日本では、コブヤハズ、フジコブヤハズ、タニグチコブヤハズ、マヤサンコブヤハズ、セダカコブヤハズ、ヤクシマコブヤハズの6種類が知られています。
写真提供/伊藤弥寿彦
伊藤 弥寿彦
1963年東京都生まれ。学習院、ミネソタ州立大学(動物学)を経て、東海大学大学院で海洋生物を研究。20年以上にわたり自然番組ディレクター・昆虫研究家として世界中をめぐる。NHK「生きもの地球紀行」「ダーウィンが来た!」シリーズのほか、NHKスペシャル「明治神宮 不思議の森」「南極大紀行」MOVE「昆虫 新訂版」など作品多数。初代総理大臣・伊藤博文は曽祖父。
1963年東京都生まれ。学習院、ミネソタ州立大学(動物学)を経て、東海大学大学院で海洋生物を研究。20年以上にわたり自然番組ディレクター・昆虫研究家として世界中をめぐる。NHK「生きもの地球紀行」「ダーウィンが来た!」シリーズのほか、NHKスペシャル「明治神宮 不思議の森」「南極大紀行」MOVE「昆虫 新訂版」など作品多数。初代総理大臣・伊藤博文は曽祖父。