ごく限られた場所にしか生息しない! とても珍しい「雑種のカミキリムシ」とは?

【ちょっとマニアな季節の生きもの】昆虫研究家・伊藤弥寿彦先生が見つけた生きもののふしぎ

昆虫研究家:伊藤 弥寿彦

雑種のカミキリムシがいた!

フジコブヤハズカミキリ(左)とタニグチコブヤハズカミキリ(右)。上ばねの斑紋(はんもん)の色が全く違います。
上の写真を見てください。2種類のカミキリムシが写っていますよね。左の白っぽい紋があるのがフジコブヤハズカミキリ、右の黒い紋があるのはタニグチコブヤハズカミキリです。実はこの2種類が同じ場所にいるというのは非常に珍しいことなのです。
この写真を撮ったのは、奥秩父の増富温泉(ますとみおんせん)近くの木賊平(とくさだいら)という場所です。実は、増富温泉のまわりは、フジとタニグチの分布域の境目で、両方が見つかることが知られていました。でも、あるポイントではフジばかり、別のポイントではタニグチばかり。決して一緒には見つからないのです。場所によっては、川の右側と左側できれいにすみ分けていました。

研究者が何年もかけて丹念に調べた結果、木賊平でフジとタニグチが混生しているエリアが見つかりました。それは一見何の変哲もないカラマツ林の斜面で、広さはわずか数百メートル四方しかありませんでした。そしてその場所で、ついに「フジとタニグチの両方の特徴を持つ個体」が見つかったのです!

「生きものの種」とは何なのだろう?

フジコブヤハズとタニグチコブヤハズの雑種。フジの白っぽい斑紋の上にうっすらと黒いタニグチの斑紋が出ています。
これは雑種としか考えられません。
フジとタニグチの雑種が見つかっているのは、ほんの数ヵ所。奥秩父と長野県の八ヶ岳周辺のごく限られた場所だけでです。何時間もかけて探し回り、この2種類の特徴をもつ雑種を初めて見つけたときは、感激のあまり思わず「やったー!」と叫んで飛び上がりました。

この雑種は「生きものの種」とは何なのだろう? ということを考えさせられます。どうしてこんなことが起こったのでしょうか? ちょっとむずかしいかもしれないけれど考えてみてください。

コブヤハズカミキリの仲間は、日本に6種類(*注)いますが、みな飛ぶことができません。飛ぶための後ろばねが退化しているのです。だから移動するには歩くしかなくて、長距離の移動ができません。大昔(おそらく数千万年以上前)、元々1種類だったコブヤハズの祖先が、大地の地殻変動などで離ればなれになってしまい、さらに川などにへだてられて交流できなくなり、それぞれの場所で独自の進化をとげたのだと考えられています。

ところが、彼らは実はまだ「完全な別の種類」にはなっていなかった。見た目は違うけれど、交尾すれば子どもができ、子孫をのこせる状態だったのです。木賊峠のごく狭いエリアで2種が混じり合っていたのは、もしかしたら地すべりなどで、偶然、片方がもう片方のいる場所へ運ばれたからかもしれません。

雑種の発見によって、別種とされてきたコブヤハズカミキリの仲間ですが、最近では、たとえ見た目が違っても、全て同じ1種なのだと考える研究者もいます。

多くの場合、生きものは長い時間をかけて進化して、姿を変えていきます。それがどの時点で別の種類となるのか? コブヤハズカミキリの仲間の研究は、進化の不思議をひも解くカギのひとつになるのです。

*注:日本では、コブヤハズ、フジコブヤハズ、タニグチコブヤハズ、マヤサンコブヤハズ、セダカコブヤハズ、ヤクシマコブヤハズの6種類が知られています。

写真提供/伊藤弥寿彦

いとう やすひこ

伊藤 弥寿彦

Ito Yasuhiko
自然番組ディレクター・昆虫研究家

1963年東京都生まれ。学習院、ミネソタ州立大学(動物学)を経て、東海大学大学院で海洋生物を研究。20年以上にわたり自然番組ディレクタ...