アンモナイトは泳ぐことができたの? 3Dロボット実験によってわかったアンモナイトの泳ぎとは?

【ちょっとマニアな古生物のはなし】古生物学者・相場大佑先生が見つけた古生物のふしぎ

古生物学者:相場 大佑

アンモナイトは泳げるのか、ロボット実験を紹介!

アンモナイトは大昔の海に生きた生き物です。しかし、泳げたかどうかはずっと謎のままでした。
1996年にカナダの古生物学者ヴェスターマン博士がひとつの仮説を発表しました。泳ぐことができたのかは殻の形によるという説です。
様々な形のアンモナイト。A:スリム型。オキシセライテス(ドイツ産・ジュラ紀)、B:ゆる巻き型。ダクティリオセラス(イギリス産・ジュラ紀)、C:ぽっちゃり型。ファゲシア(モロッコ産・白亜紀)。

その説では、スリムなアンモナイト(A)は水流の抵抗が小さく、海中を速く泳げた一方で、くるくるたくさん巻いた、ゆる巻きのアンモナイト(B)や、ぽっちゃりしたアンモナイト(C)は、水中で泳ぐ際の体の安定性や抵抗の大きさなどから、泳げずに海中をゆっくり漂っていたのではないかと考えられました。

しかし、アンモナイトはすでに絶滅してしまっているため、直接泳いでいるところを観察することはできません。この仮説の検証はとても難しいものでした。

3Dプリンターで作ったロボットで実験!

そんな中、2022年にアメリカの古生物学者、ピーターマン博士とリターブッシュ博士により新たな方法での研究が行われました。

その方法は、3Dプリンターでさまざまな形のアンモナイト・ロボットを作り、実際にプールで泳がせて観察するというものでした。アンモナイトはイカと同様に、海水を噴射して進むと考えられているので、ロボットも、水を噴射して進むように作られました。
ピーターマン博士とリターブッシュ博士により制作されたアンモナイトのロボットの仕組み。実際のアンモナイトの化石だけでなく、現生オウムガイを参考に、浮力と重力のバランスが調整されている。(Peterman & Ritterbush 2022, 図1より)

気になる実験の結果は……?

実験では、ロボットがどれくらいのスピードで泳ぐのか、一度の噴射でどのくらい泳ぎ続けられるか、方向転換がうまくできるか、などを調べて、形ごとに比較されました。

その結果、以前のヴェスターマン博士の仮説に反して、どんな形のアンモナイトも泳ぐことができるとわかったのです。さらに、形によってそれぞれ得意なことと苦手なことがあることもわかりました。
まず、スリムな形をしたロボットは、以前に予想されていた通り、一番速いスピードで泳ぐことができました。しかも、一度水を噴射するとしばらく止まることがなく、長い時間泳ぎ続けることができました。人間がボートを漕ぐ場合に例えるなら、一度漕ぐだけで、すごく速いスピードが出て、しかもその勢いでスイーと長い距離を何もしなくても進めるということになります。

逆に、苦手なことは、方向転換だとわかりました。方向転換のために噴射を横向きに変えてみると、スリムな殻が大きな抵抗となり、うまく体の向きを変えることができませんでした。
続いて、ゆる巻き型のロボットは、スピードがあまり速くならないということがわかりました。

なぜ速くならないかというと、水を噴射した時に体全体が前後に大きく揺れ、スピードを打ち消してしまうからでした。かつては、まさにこのことが予想されて、「泳げない」とされたのですが、ロボットによる実験により、泳げないわけではなく、速いスピードにはならないということがわかったのでした。

速いスピードが出ないおかげで、良いこともあります。一度の噴射で暴走せず、いつもちょうど良いスピードになるよう調整できるということです。ちなみに、この形も方向転換は苦手であるということがわかりました。
最後に、ぽっちゃり型のロボットは、ゆる巻き型のアンモナイトよりも、さらに遅いスピードしか出ませんでした。しかも、一回の噴射で進める時間が短いため、長い距離を泳ぐためには何度も噴射しなくてはいけないことがわかりました。

しかし、得意なこともありました。それは方向転換です。ボールのような形をしているので、噴射する向きを変えれば、体の向きを簡単に変えることができたのです。ぽっちゃり形のアンモナイトは、スピードはゆっくりですが、まっすぐだけでなく色々な方向に泳げるということがわかりました。
流れが速い浅い海では、高速で泳げるスリムな形のアンモナイトは泳ぎやすく、ぽっちゃり形のアンモナイトは流れに逆らうほどのスピードが出せないので、うまく生きられなかったかもしれません。

逆に、流れが弱い深い海では、色々な方向に自由に泳げたぽっちゃり形のアンモナイトや、速度をうまく調整して泳ぐことができたゆる巻き型のアンモナイトにとっては住み心地の良い環境だったかもしれません。

最初に紹介した研究では、速く泳げないということで、泳ぎが苦手だと判断されてしまいましたが、「アンモナイトの泳ぎのうまさ」には、速く泳ぐということだけでなく、安定したスピードで泳げるか、方向転換がうまくできるか、など様々な観点があること。そして、それぞれが何かしら得意なことと苦手なことがあるということもわかりました。

一つの視点だけで、「優れている」「劣っている」と決めてはいけないことを、アンモナイトのロボットは教えてくれました。

写真・イラスト提供(1、3〜5枚目)/相場大佑

参考文献:
Peterman, D.J. and Ritterbush, K.A., 2022: Resurrecting extinct cephalopods with biomimetic robots to explore hydrodynamic stability, maneuverability, and physical constraints on life habits. Scientific Reports 12, Article number: 11287.

Westermann, G.E.G. 1996: Ammonoid life and habitat. In Ammonoid paleobiology, 607–707. Landman, N.H., Tanabe, K. & Davis, R.A. (eds). New York: Plenum Press.

あいば だいすけ

相場 大佑

Daisuke Aiba
古生物学者

深田地質研究所 研究員。1989年 東京都生まれ。2017年 横浜国立大学大学院博士課程修了、博士(学術)。三笠市立博物館 研究員を経て、2023年より現職。専門は古生物学(特にアンモナイト)。北海道から見つかった白亜紀の異常巻きアンモナイトの新種を、これまでに2種発表したほか、アンモナイトの生物としての姿に迫るべく、性別や生活史などについても研究を進めている。 また、巡回展『ポケモン化石博物館』を企画し、総合監修を務める。

深田地質研究所 研究員。1989年 東京都生まれ。2017年 横浜国立大学大学院博士課程修了、博士(学術)。三笠市立博物館 研究員を経て、2023年より現職。専門は古生物学(特にアンモナイト)。北海道から見つかった白亜紀の異常巻きアンモナイトの新種を、これまでに2種発表したほか、アンモナイトの生物としての姿に迫るべく、性別や生活史などについても研究を進めている。 また、巡回展『ポケモン化石博物館』を企画し、総合監修を務める。