「漫画が子どもたちに届いている」と実感した瞬間
遠山:期限を設けなければ、漫画家の夢はかなえられないと思ったんです。「いつでもデビューできるからいいや」と思っていると、作品を書き上げられない気がして。漫画家のたまごは、1作品を仕上げられるかどうかで最初のふるいにかけられると言われているほど、お話を描きあげること自体が大変なんです。
だからその1年は、集中して漫画を描き続けました。1作品できるたびに「なかよし」編集部に持ち込みをして、アドバイスをいただいて。最初は漫画の「常識」と言われるようなこともわかっていない状態で、たくさんダメ出しされましたが、あきらめずに持ち込みを続けました。
──根気のいる作業ですね。1年間で何作を描いたのですか。
遠山:結局、6作品を仕上げました。本当は1ヵ月に1本描きたかったんですが、雑になってしまうのも嫌だったので……。でも編集さんから言われたことを全部直して、持ち込みを続けるうちに、自分でもわかるくらいどんどん漫画がよくなっていきました! 6作品目の「天使のタマゴ」で、なかよし新人漫画賞の特選を受賞することができ、晴れて漫画家デビューを果たしました。
遠山先生は「少女まんが家になるために生まれてきたような人」
(新人時代に遠山先生を担当していた「なかよし」編集部 潤間良子さん)
遠山先生は「一を聞いて十を知る」方。私がネームを読んで改善点などをご説明すると、いつも想像以上のハイレベルな修正ネームを戻してくださいます。生まれ持った「センス」の良さも相まって、投稿作品は回を追うごとにグングン上達していきました。
しかも、いろいろなジャンルが描けるところもスゴい! ラブコメ、ファンタジー、ホラーラブなど、新人時代からいろんなジャンルに挑戦し、すべての作品の世界観は、遠山えまならではのものでした。
受賞当時の編集長も「かわいいキャラクターのデザインが、遠山えまオリジナルになっていた」と評価。また「ストーリー構成も上手で、伝えたいことがちゃんとシンプルに描かれていたのが印象的でした」と言っております。
なかよし新人漫画賞では遠山先生以降、「特選」の受賞者は現れていません。それが遠山先生ご自身の「漫画センス」と、ストーリー構成力がいかにすごいかを物語っています。
「好き」の気持ちが強いほど漫画家に向いています
遠山:デビューしてからは、毎月の締め切りを乗り越えるだけでも大変で。慣れるまでは「もう何も思いつかない!」ということもありました。担当の編集さんからアドバイスをもらって、それまではあまり興味のなかったジャンルの小説を読んだり、映画を観たりして、話の幅を広げられるようにしました。
やりがいを感じたのは、初めて読者が私の作品のキャラクターを描いてくれたとき。私も小学生のころに「きんぎょ注意報!」のイラストを描いて、雑誌に応募していたんです。ちゃんと子どもたちに自分の漫画が届いている、夢がかなったんだ、と実感した瞬間でした。
──これから漫画家を目指すお子さんは、デジタルかアナログ、どちらで描く練習をするのがいいでしょうか。
遠山:ぜひデジタルで練習してほしいです! 私は12年前にアナログからデジタルに移行しました。慣れるまで大変でしたが、デジタルのほうが便利なことが多いですよ。
たとえば人の顔を描くとき、得意な向きと不得意な向きがある人が多いのですが、デジタルなら得意な向きを反転してつかうことができます。間違えてしまっても簡単に直すことができるし、娘がもし漫画を描きたいと言ったら、デジタルをすすめますね。
遠山:漫画家に向いているのは、「好き」の気持ちが強い人。私だったら、女の子を描くのが好きです。学生同士の恋愛が好きとか動物が好きとか、どんなことでもいいのですが、それを表現したい気持ちさえあれば、漫画家への道は遠くないと思います。
お子さんに具体的なアドバイスをするとしたら、毎日10分でもいいので、絵を描く時間をつくってほしいですね。私も小学生のときから漫画家になりたくて、絵を練習していました。続けていれば、必ず絵はうまくなります。「好き」をきわめて、夢を叶えてくださいね。
遠山えま
漫画家。代表作は『わたしに××しなさい!』『ココにいるよ!』『かみかみかえし』『青葉くんに聞きたいこと』『ヴァンパイア男子寮』『ぽちゃぽちゃ水泳部』『イチ・らぶ・キュウ』など。「なかよし」、「月刊少年シリウス」、「まんがタイムファミリー」「電撃マオウ」他、幅広い漫画誌で活躍している。『わたしに××しなさい!』(略称「バツしな」)は2012年開催の第36回講談社漫画賞児童部門を受賞し、同年にドラマCD化、2018年にはムービーコミック化、テレビドラマ化、実写映画化と多くのメディアミックスがなされている。
「たのしい幼稚園3月号」に遠山えま先生が登場!
遠山えま先生のネームや下絵を大公開! 「漫画ができるまで」をお子さんにわかりやすく解説します。
山口 真央
幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。
幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。