わかりやすい新型コロナワクチンの仕組みと、2023年冬以降はどうなる?

『びょうきとたたかう! はたらく細胞 ワクチン&おくすり図鑑』監修の免疫学者に感染症とワクチンのお話を聞いた vol.2

編集者・文筆家:高木 香織

写真:アフロ
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子どもたちの感染が目立つ中、いよいよ2022年3月1日から、全国で新型コロナウイルスの5歳から11歳向けの接種が始まりました。「ようやくワクチンを接種してもらえる」という安心感と「子どもへの影響は?」という不安感の間で揺れるパパやママも多いといいます。

そんなぴったりのタイミングで『びょうきとたたかう! はたらく細胞 ワクチン&おくすり図鑑』(講談社)が2月28日刊行。そこで、この本の監修者でもある東京大学医科学研究所 感染・免疫部門ワクチン科学分野の石井健教授に「新型コロナワクチンって、子どもにどうなの?」を伺ってきました!

ワクチンとは「本物の病気をまねてウイルスをやっつける練習をさせること」

――改めて、新型コロナとはどのような病気なのでしょうか。

石井先生:新型コロナが世界中に広がったことで、感染が広がる時の恐怖感を、日本はもちろん世界中の人が持ちました。そうして、世界中の人が病気やワクチンや薬を自分事として捉えざるを得ませんでした。そんな稀有な出来事だったのではないでしょうか。

――今、5歳から11歳の子どもへのワクチン接種が始まっています。子どもに「ワクチンってなあに?」と聞かれたら、なんと答えればよいですか。

石井先生「本物の病気をまねてウイルスをやっつける練習をさせること」と答えると、5歳くらいの子どもでもわかってくれます。ほんとうの感染とは違うけれど、やっつけたときの方法を体が覚えていて、実際に感染したときに「どうすれば倒せるか知ってるよ」という状態にしておくのです。

――『はたらく細胞』では、ムンプスウイルス(おたふくかぜ)のワクチン接種の話として紹介されていました。

石井先生:弱毒化したよれよれのムンプスウイルスを、免疫細胞たちが倒して免疫を獲得していましたね。とても分かりやすかったです。

――新型コロナが蔓延してから、間もなくワクチンが開発されて接種が始まりました。それほどすぐに開発できるものなのですか。

石井先生:ワクチンは健康な大人や子どもたちに接種するものですから、世界中の薬の中でもっとも安全性が高くなければなりません。そのため、とことん安全性を追求しますから、一般的に開発製造に15年から20年くらいかかるものなのです。それが新型コロナでは、流行しはじめてから1年もたたずにできました。

なぜかというと、パンデミックが来ると予想して準備をしっかりしていたから。短期間でできたからといって、必要な手順を飛ばすことはしていません。手順を工夫して、必要な人や予算を確保できるキャパシティがあるアメリカ、イギリス、ロシア、中国の4ヵ国が作ることができたのです。

ただ、ひとつだけスキップしてしまったものがあります。それは時間です。遠い将来にならないとわからないものについては、まだ注意が必要です。世界中の何十億人もの人に、今までなかったワクチンを打ったのですから、まだいろいろなことが起きないわけではないということを肝に銘じて見守っていくのが、私たちの義務だと思っています。

2023年冬からは、インフルエンザとの混合ワクチンになる⁉

――ちょっと『びょうきとたたかう! はたらく細胞 ワクチン&おくすり図鑑』からワクチンの仕組みをみてみましょう。

インフルエンザワクチンはワクチンの元になるウイルスを鶏の卵に入れ、卵の中でウイルスを増やしたのち、卵からウイルスの入った液を取り出して感染力を弱めるという不活化ワクチンです。

これに対し、新型コロナワクチンでは、イルスの周りの感染源である突起物(スパイク)の設計図であるmRNA(エムアールエヌエー)を作って体に送り込み、感染源だけを狙うのがファイザー社とモデルナ社のワクチンです。

一方、人間には感染しない別のウイルスに新型コロナウイルスの設計図を組み込んで体に送るワクチンもあります。アストラゼネカ社のウイルスベクター(運び屋)を利用したワクチンです。

来冬からは、インフルエンザと新型コロナの混合ワクチンになるという話も聞きます。今後はどうなるのでしょうか。

石井先生今、外国では新型コロナで培ったmRNAの技術をインフルエンザに応用した臨床試験が行われています。2023年の冬には、海外のどこかの国でインフルエンザと新型コロナを一緒に注射器に入れて打つ混合ワクチンが出てくるでしょう。日本では、まだインフルエンザワクチンを鶏卵で作っていますから、ちょっと間に合わないかもしれません。

――新型コロナワクチンについて、親が知っておきたいことはなんですか。

石井先生:疫学的には、確実に打った方がいいです。でも、そのために大事なのは、情報をしっかり集めて納得したうえで接種に行くことです。子どもの友だちが副反応で大変だったから気がすすまない、というケースもあるでしょう。その場合は、リスクとベネフィット(メリットの先にある満足感)について、親子でよく話し合って納得して接種することです。

――子どもを持つ親に伝えたいことがありますか。

石井先生:今回のことを親子のコミュニケーションのいいきっかけにしていただきたいのです。ワクチンを打つかどうかは小さな選択ですが、選択を積み重ねることが、「人生どう生きるか」につながります。

新型コロナのワクチン接種は、「目の前にリスクがあっても、その向こうにベネフィットがあるなら、リスクを取らなければならないこともある」ということを、経験を通して教えられる最高の機会です。ぜひ『びょうきとたたかう! はたらく細胞 ワクチン&おくすり図鑑』を子どもと一緒に読みながら、コミュニケーションを図っていただきたいと思います。
「びょうきとたたかう! はたらく細胞 ワクチン&おくすり図鑑」1540円(税込み)・講談社
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いしい けん

石井 健

Ken Ishii
医学博士・東京大学医科学研究所教授

東京大学医科学研究所感染・免疫部門ワクチン科学分野教授、同研究所・国際ワクチンデザインセンター・センター長。横浜市立大学医学部卒業。臨床経験を経て米国FDA・CBERにて7年間ワクチンの基礎研究、臨床試験審査を務める。帰国後、JST・ERATO審良自然免疫プロジェクトのグループリーダー、大阪大学・微生物病研究所・准教授、医薬基盤健康栄養研究所アジュバント開発プロジェクトリーダー、ワクチンアジュバント研究センター長を経て、平成22年より現在まで大阪大学・免疫学フロンテイア研究センター教授。また、日本医療研究開発機構(AMED)戦略推進部長、科学技術顧問を歴任。

東京大学医科学研究所感染・免疫部門ワクチン科学分野教授、同研究所・国際ワクチンデザインセンター・センター長。横浜市立大学医学部卒業。臨床経験を経て米国FDA・CBERにて7年間ワクチンの基礎研究、臨床試験審査を務める。帰国後、JST・ERATO審良自然免疫プロジェクトのグループリーダー、大阪大学・微生物病研究所・准教授、医薬基盤健康栄養研究所アジュバント開発プロジェクトリーダー、ワクチンアジュバント研究センター長を経て、平成22年より現在まで大阪大学・免疫学フロンテイア研究センター教授。また、日本医療研究開発機構(AMED)戦略推進部長、科学技術顧問を歴任。

たかぎ かおり

高木 香織

Kaori Takagi
編集者・文筆業

出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『子どもの「学習脳」を育てる法則』(ともにこう書房)、『部活やめてもいいですか。』『頭のよい子の家にある「もの」』『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』『かみさまのおはなし』『エトワール! バレエ事典』(すべて講談社)など多数。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)がある。

出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『子どもの「学習脳」を育てる法則』(ともにこう書房)、『部活やめてもいいですか。』『頭のよい子の家にある「もの」』『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』『かみさまのおはなし』『エトワール! バレエ事典』(すべて講談社)など多数。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)がある。