――改めて、新型コロナとはどのような病気なのでしょうか。
石井先生:新型コロナが世界中に広がったことで、感染が広がる時の恐怖感を、日本はもちろん世界中の人が持ちました。そうして、世界中の人が病気やワクチンや薬を自分事として捉えざるを得ませんでした。そんな稀有な出来事だったのではないでしょうか。
――今、5歳から11歳の子どもへのワクチン接種が始まっています。子どもに「ワクチンってなあに?」と聞かれたら、なんと答えればよいですか。
石井先生:「本物の病気をまねてウイルスをやっつける練習をさせること」と答えると、5歳くらいの子どもでもわかってくれます。ほんとうの感染とは違うけれど、やっつけたときの方法を体が覚えていて、実際に感染したときに「どうすれば倒せるか知ってるよ」という状態にしておくのです。
――『はたらく細胞』では、ムンプスウイルス(おたふくかぜ)のワクチン接種の話として紹介されていました。
石井先生:弱毒化したよれよれのムンプスウイルスを、免疫細胞たちが倒して免疫を獲得していましたね。とても分かりやすかったです。
――新型コロナが蔓延してから、間もなくワクチンが開発されて接種が始まりました。それほどすぐに開発できるものなのですか。
石井先生:ワクチンは健康な大人や子どもたちに接種するものですから、世界中の薬の中でもっとも安全性が高くなければなりません。そのため、とことん安全性を追求しますから、一般的に開発製造に15年から20年くらいかかるものなのです。それが新型コロナでは、流行しはじめてから1年もたたずにできました。
なぜかというと、パンデミックが来ると予想して準備をしっかりしていたから。短期間でできたからといって、必要な手順を飛ばすことはしていません。手順を工夫して、必要な人や予算を確保できるキャパシティがあるアメリカ、イギリス、ロシア、中国の4ヵ国が作ることができたのです。
ただ、ひとつだけスキップしてしまったものがあります。それは時間です。遠い将来にならないとわからないものについては、まだ注意が必要です。世界中の何十億人もの人に、今までなかったワクチンを打ったのですから、まだいろいろなことが起きないわけではないということを肝に銘じて見守っていくのが、私たちの義務だと思っています。
石井 健
東京大学医科学研究所感染・免疫部門ワクチン科学分野教授、同研究所・国際ワクチンデザインセンター・センター長。横浜市立大学医学部卒業。臨...