ニース&モナコ取材旅行記 ~オーシャンズ2の冒険~ 第9回

はやみねかおる先生と担当編集が行く珍道中の旅!

第9回

Scene05 10月28日(日曜日)  “鷲の巣村”探訪からの続き~

午後3時ごろ、ニースに戻る。一度ホテルに荷物を置いてから、いよいよお土産探し。

最初、大きなデパートへ行く。山室さんの話では、日本のイオンのような店とのこと(そう教えてくれる山室さんは、「WAONカード」を知らなかった。ぼくは、来年になったら55歳から使える「G.G WAON」のカードを作るのを楽しみにしてるのに……)。

山室さんは、編集部へのお土産を、慎重に選ぶ。

ぼくは、琢人への土産――タイピンを探す。店員さんに、日本語で「すみません、タイピンを見せてください」と言ったら、やっぱり伝わらない。

いろいろ手振りを交えて説明して、ようやくタイピンを出してくれる(約10分経過)。

琢人は地味なものを希望と言っていたので、一番地味なタイピンを選び、お金を払おうとしたら、現金はダメでカードオンリーとのこと。カードで買い物なんて、日本でもやったことがない。頭の中で、「ドレミファだいじょーぶ」が響き始める。

店員さんの出す機械に、カードを差し込む。小さなディスプレイに2行ほど文字が出る。眼鏡をしてないので、読めない(正確に書くと、眼鏡をしていてもフランス語なので読めない)。

「ドレミファだいじょーぶ」の音量が、だんだん大きくなる。ぼくは、日本語で店員さんに訊く。

「なんて書いてあるんですか?」

「円で払いますか? ユーロで払いますか? 円で払うのなら、1番のキーを押してください」

と、フランス語で言われる。このころになると、お互いに、なんとなく何を言ってるのか理解できるようになっていた。

ぼくは1番のキーを押し、続いて暗証番号を押す。領収書が出てきて、買い物成功! 頭の中で、近石真介さんが、「よくがんばったねぇ~! えらかったねぇ~!」と褒めてくれた。

最後にサインをして、タイピンを受け取り、店員さんに日本語でお礼を言う。

別れ際、店員さんに「おうぼう」と言われる。これは、ぼくのことを「横暴」と怒っているのではなく、「オ・ルボワール(さようなら)」というフランス語だと、さすがにわかるようになっていた。
アピールしてるのに、金があるように見えない……
ぼくは、買ったものを入れるために、風呂敷を持っていた。だけど、タイピンの入ったデパートの紙袋を、風呂敷の中には入れず、外から見えるように吊す。

これは、デパートで買い物できるお金は持ってるんですよというアピール。

よく海外では、「お金を持ってることを、周りに知られないように。強盗に狙われます」という注意がある。しかし、ぼくの場合は、「お金は持ってるんですよ」というアピールをしないと、店員さんから怪しまれるということをフランスで学んだ。

強盗? 大丈夫、ぼくには山室さんがついている。

(真似する方は、自己責任で――)


デパートの次は、初日に言った展望台の近くへ行き、塩やコショウ入れを買う。塩は、ガラスの細長い瓶に入れて売っていた。

英語を話せる店員さんと山室さんが会話し、いろいろ説明を聞いていた。

塩は、瓶3本の値段で4本買えるとのこと――。テレフォンショッピングみたいな売り方は、フランスでもやってるんだと思った。

夕食は、近くの店で、牡蠣とワイン。牡蠣には、レモンやビネガーをかけて食べるのだが、はっきり言って、醬油がないのが哀しい……。フランス人にも、一度、醬油で牡蠣を食べてもらいたい。

ホテルへ帰る途中、ネオポリ(※←モノプリです。)のスーパーマーケットへ寄る。

巨大なサラミとビールを買う。これは、フランス最後の夜を、部屋で楽しむための食料。あと、夜食にバンザイヌードルを買う。山室さんは、テリヤキヌードル。

そして、お土産用にグミ。このグミは、家族から不評だった。第一に、ものすごく甘い。あと、後味がスパイシー。確かに、袋の表には「SPICE」と書いてある。

「なんで気づかなかったの?」と非難を受けたが、はっきり言って、もう横文字は見たくなかったのだよ。 

山室さんと別れて、一人で買い物を続ける。奥さん用のお土産にシャネルの5番を買う。というか、他にフランスらしい土産を思いつかなかったので、これで勘弁してもらうことにする。

タイピンを買ったデパートに行き、シャネルの売り場へ――。看板が読めなくても、匂いのきつい方へ行けば、だいたい化粧品売り場だ。

日本でも化粧品売り場の匂いはきついが、フランスは2倍ぐらいきつい。早めに買い物をすませないと、鼻がおかしくなるレベルだ。

「CHANEL」という文字を見つける。さすがに、これが「シャネル」ということはわかった(少しだけ、「チャネル」というメーカーかもしれないという心配があったけど……)。

一番安い箱を2つ持って、店員さんに「これください」と日本語で言う。2箱もあれば、死ぬまでもつだろう。

このとき、すでに、カードを手に持っている。次に店員さんが言うのは、わかっている。機械を出してきたから、これにカードを差し込めと言うんだ。その次は、円で払うかユーロで払うか――。

相手の言動を完璧に先読みする。気分は、武道の達人だ。支払いを終えると、店員さんが、紙袋の中に、引き出しから出した小箱をダバダバと入れてくれた。

「何を入れたんですか?」と英語で訊くと、「ギフト」との答え(さらっと読まないでくださいね。英語で訊いたんですよ)。

「ギフト」が、頭の中で、「お歳暮」とか「贈り物」という言葉に変換される。

「えー、いいんですか! ものすごくうれしいです! ありがとうございます! フランスの人は、優しいですね!」

日本語で大喜びしたら、違う引き出しから、もう少し大きめの箱を3個入れてくれた。

「ありがとうございます!」

フランスが大好きになった瞬間だった。

次に買ったのは、彩人のベルト。あと、自分用の財布(100円ショップで買ったものを愛用していたのだが、さすがに人前で出せないほどボロボロになったので……)。

大量の紙袋を持っていたが、強盗には狙われなかった。
ホテルに帰り、一人で“フランスとのお別れ会”。バンザイヌードルの中身は、麺と粉スープ一袋のシンプルなもの。話のネタに買ったのだが、予想以上に美味しかった。

今夜は、妙に静か。サルサの店が営業していないことに気づく。今日は日曜日だから、おやすみなのだろう。

そういえば、山室さんの部屋にポルターガイストは出なかったそうだ。かなり残念。(※前日の騒々しい音の正体は、結局謎のままでした……。)

サルサの店が静かな代わりに、凄い雨の音。雷も鳴る。

でも、バンザイヌードルやサラミ、ビールでお腹がふくれたぼくは、安らかな気持ちで眠りにつく。
28日のヘルスケア
 ウォーキング+ランニングの距離   14.4km
 歩数    2万5477歩
次回、いよいよ最終回! お楽しみに!
※この連載は、2018年の「ニース&モナコ取材旅行記」を再構成したものです。

はやみね かおる

小説家

1964年、三重県に生まれる。三重大学教育学部を卒業後、小学校の教師となり、クラスの本ぎらいの子どもたちを夢中にさせる本をさがすうちに、みずから書きはじめる。「怪盗道化師」で第30回講談社児童文学新人賞に入選。 「名探偵夢水清志郎事件ノート」「怪盗クイーン」「都会のトム&ソーヤ」「少年名探偵虹北恭助の冒険」などのシリーズのほか、『バイバイ スクール』『オタカラウォーズ』『ぼくと未来屋の夏』『令夢の世界はスリップする』(以上、すべて講談社)『モナミシリーズ』(角川つばさ文庫)『奇譚ルーム』(朝日新聞出版)などの作品がある。 子ども自身が選ぶ、うつのみやこども賞を4回受賞。漫画版「名探偵夢水清志郎事件ノート」(原作/はやみねかおる、漫画/えぬえけい 講談社)で第33回講談社漫画賞(児童部門)受賞。第61回野間児童文芸賞特別賞受賞。

1964年、三重県に生まれる。三重大学教育学部を卒業後、小学校の教師となり、クラスの本ぎらいの子どもたちを夢中にさせる本をさがすうちに、みずから書きはじめる。「怪盗道化師」で第30回講談社児童文学新人賞に入選。 「名探偵夢水清志郎事件ノート」「怪盗クイーン」「都会のトム&ソーヤ」「少年名探偵虹北恭助の冒険」などのシリーズのほか、『バイバイ スクール』『オタカラウォーズ』『ぼくと未来屋の夏』『令夢の世界はスリップする』(以上、すべて講談社)『モナミシリーズ』(角川つばさ文庫)『奇譚ルーム』(朝日新聞出版)などの作品がある。 子ども自身が選ぶ、うつのみやこども賞を4回受賞。漫画版「名探偵夢水清志郎事件ノート」(原作/はやみねかおる、漫画/えぬえけい 講談社)で第33回講談社漫画賞(児童部門)受賞。第61回野間児童文芸賞特別賞受賞。