志の輔が「落語では表現できない」と感服した理由 対立するオオカミとヤギの「絆」を描いた物語

『あらしのよるに』30周年記念インタビュー 第2回

ライター:山口 真央

ガブとメイの関係は私たちの日常でも起こりうる

迫力満点で『あらしのよるに』を朗読する立川志の輔さん。
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志の輔:もうひとつの驚きは、一見交わることのない強者と弱者の対立を面白く、ときにシリアスさも加えながら、絶妙に描いていることです。

『あらしのよるに』で、オオカミとヤギがひとつ屋根の下にいるシーンにきたとき、読者が読んでまず思うのは「メイが危ない」「大丈夫かしら」という同情心です。

『あらしのよるに』でオオカミとヤギが暗闇のなか、初めて出会うシーン。

志の輔:これは常々、ニュースや人間関係においても生まれる感情ですが、強者側の気持ちを想像しづらい。しかし『あらしのよるに』では強者であるガブの胸の内が、事細かに描かれています。

空腹のときのガブは、メイの美味しそうなお尻を見ると、頭がクラクラしてしまう。そんなシーンに、読者は思わず「確かに美味しそうだな、ごっくん」と唾を飲み込んでしまうことでしょう。でもガブは、我慢する。自分の大好物のヤギのメイと、「友達でいたい」と願い、行動するのです。

『あらしのよるに』は、対立するはずの強者と弱者が、互いを思いやる物語です。不安定な世の中だからこそ、読まれるべきメッセージが込められています。この表現は、落語では難しい。絵本だからこそ伝えられる、はっとさせられる物語です。

動物園であべ弘士さんのグッズを買い揃えました

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