賞レース総なめ絵本「かぐや姫が虫」が親子を魅了する理由! 絵本ナビ編集長が分析

絵本『月虫の姫ぎみ』はなぜ高い評価を得たのか? 磯崎園子さんへインタビュー (2/3) 1ページ目に戻る

ライター:山本 奈緒子

大人と子どもの視点で、まったく違う物語に

写真/講談社キッズエンターテインメント企画編集チーム
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──『月虫の姫ぎみ』は、不思議なストーリーとリアルな虫の絵が魅力的でもあり、一方でゾワッとするものもあり、やや戸惑いも覚える絵本です。だけど高い評価を得ている理由は何なのかな、と気になりまして。磯崎さん自身は、どのようにこの一冊を読まれましたか?

磯崎さん:手に取ったとき、月や姫ぎみ、竹などが登場するので『竹取物語』をモチーフにしているのかな? と思ったけれど、一貫して虫が主人公になっている。やっぱり違うのかな、と不思議に感じて何度も読んだのですが、読むたびに違う魅力が伝わってくる。これは読者の年代によって印象の受け取り方や楽しみ方がかなり変わってくる絵本なのではないか、と感じました。

そこで思ったのは、大きく2つの視点で読むと面白いのではないか、ということ。

1つは、子どもの視点で読むとどうなるか、です。設定としては『竹取物語』を想起させるものがあるけれど、物語の中には登場するヒトの感情が一切見えないんです。子どもの視点からは、むしろ虫の生態を描いた物語として興味を惹かれるのではないでしょうか。

ソリソリソリ……という、およそヒトが発するとは思えない音を感じながら、ヒトに擬態した月虫が美しい姫へと変化していく様子が描かれています。子どもは虫の習性を観察するかのように、その生態を素直に楽しむことができるのではないか、と。そして、クライマックスとして繭の場面が登場し、ここで一気に惹きつけられる。大人がギョッとしてしまう場面でもありますけどね(笑)。

『月虫の姫ぎみ』より

磯崎さん:そういう虫そのものの不思議さと魅力に惹き込まれる一方で、大人の視点で読むと、また全然違う不思議感に惹きつけられます。

おそらく多くの大人の方は、この絵本を読み始めたとき、「竹取物語?」と思うはず。けれど、とくにおじいさんおばあさんとの会話があるわけでもなく、求婚のくだりも登場しない。ただただ時期が来れば月に帰っていく。あれ、『竹取物語』ってこんなお話だったっけ? それとも全然別の物語にしているのかな? テーマを変えているのかな? などと戸惑ってしまいます。

つまりこの時点で、大人は大人の視点で完全に惹き込まれているのです。

虫が先か、物語が先か。無限に広がる想像

『月虫の姫ぎみ』より

──たしかに子どもの視点になってみれば、まったく違う世界が見えてきますね。そんなふうに視点を変えるとさまざまに変化し、広がっていくところが、多くの読者に支持されているのかもしれませんね。

磯崎さん:実際に私はこの絵本を読んで、気になって『竹取物語』を読み返してみたんです。そうすると、当時なんとなく抱いていた疑問がよみがえってきて。世にも美しい姫ぎみというけれど、実際にはどんな美しさなんだろう? とか、どんなにハイスペックな男性たちに求婚されても全く心を動かされないのはなんでなんだろう? とか、結局月に帰ってしまうならそもそもなんで地球に来たの? とか。

ところが、この絵本を読んで「本当にかぐや姫は虫だったんじゃないか!?」と納得してしまった。そうすれば当時の引っかかりが腑に落ちるところがある。ヒトとして見るから違和感があったんだ、なんて(笑)。そんなふうに、「この不思議な設定ってじつはあり得るな」というところにも新鮮な面白さを感じました。

──絵本の裏表紙には現代の飛行場が描かれていて、そこにかかる月に虫の影が映っている……。今も月虫は地球に来ているのかも!? というSF的視点にも広がっていきますよね。

磯崎さん:そうやって見ると、そういえば平安時代の十二単って蝶に似ているよねとか、髪の毛を横一筋垂らすのも触角っぽいよねとか思ってしまって。本当に虫って宇宙からやってきたのかも、じつはそっちが先で物語があとから生まれたのかも……、なんてところまで想像が膨らんで、楽しんで読みました。

『月虫の姫ぎみ』より

なぜさまざまな絵本賞に選ばれたのか?

──その想像がどんどん広がるところが、「第17回 ようちえん絵本大賞」や2026年の「えほん50」、「第31回 日本絵本賞」の最終候補絵本30点に選ばれた理由のひとつかもしれませんね。正直、個性的な一冊だけに、こんなふうに広く支持されたことに驚いているところもあるんです。

磯崎さん:子どもたちに読んでもらいたい、喜んでくれるに違いないという思いもあるでしょうし、おそらく父母にも読んでもらいたいということで「ようちえん絵本大賞」に選ばれたのかもしれませんよね。

「えほん50」のほうは、もう少し対象年齢の幅が広いこともあって、立体的に読み解くタイプの絵本が多く選ばれている印象があります。子どもの想像力が広がるような絵本、といいますか。『月虫の姫ぎみ』も、美しさもあるけどゾワゾワするものもあり、一方で図鑑のようにもSF物語のようにも見える。読む子によって広がり方が多様なところが、子どもに推薦したいと思われた一因じゃないかと感じています。

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