発達障害の特性がある子と暮らす家族へ 子育ての難しさと「頼る勇気」〔言語聴覚士/社会福祉士〕が解説

#20 発達障害の特性のある子どもの「家族」へ~最終回~ (3/3) 1ページ目に戻る

言語聴覚士・社会福祉士:原 哲也

しかし、「困った行動」に対処する方法はあるのです。それは発達障害の特性のある子について理解を含め、彼らが学びやすい方法を探り、彼らに理解できる方法で伝えることです。これまで連載でもその方法をお伝えしてきました。

そうすれば彼らは多くを学び、その結果、生活の中の「困った行動」は回数も規模も「小さく」なっていきます。

これは逆にいうと、発達障害の特性のある子が理解できない方法では、何度繰り返しても、𠮟っても叩いても、彼らは学ぶことはできないということでもあります。

私は言語聴覚士として、数千人の発達障害の特性のある子と関わる中でこのことを確信しています。

発達障害の専門職の助言を得ることの大切さ

では、家族が「発達障害の特性のある子について理解を含め、彼らが学びやすい方法を探り、彼らに理解できる方法で伝える」にはどうしたらいいか。

それは、専門家の助言をもらうことです。発達障害の診療を標榜する小児科医、児童精神科医、心療内科医などの医師は発達障害の特性についての知識を持っています。

受診にためらいがあれば、保健センター(乳幼児健診を行う場)の保健師、行政の発達相談やことばの相談、市区町村の担当課(児童福祉関係課、障害者福祉課)に問い合わせると適切な相談機関を案内してくれます。

また、近年は、児童発達支援事業所や放課後等デイサービスなども多く設置されています。中には公認心理師、言語聴覚士、作業療法士など専門知識を持つ専門職が在籍する事業所もあります。

ただ、忘れてはならないのは、あくまでも子育ての主体は家族だということです。

「発達障害の特性のある子と暮らす家族の生活」をよりよくする、そのために必要で適切な助言をもらい、実際に子どもの行動に対処できるようになる、生活がよくなる、親子の関係がよくなることが大事です。

専門職の技量はさまざまです。もちろん生活が変わるという結果はすぐに表れるものではありません。そのことを考慮したうえで「助言を得て生活はよくなったか、親子の関係はよくなったか」を振り返ってみることは大事なのではないかと思います。

頼りながら自立するという考え

発達障害の特性のある子の療育では「援助要求ができる力」を育てることを大切にしています。やりたいことがひとりではできなければ助けを求める。助けてもらってやりたいことができればそれでいいのです。

私は発達障害の特性のある子の子育てに悩む保護者の方にも同じことを思います。助けを求めて、助けてもらってほしいのです。

今の日本社会を見ていると、制度や人に頼ることを弱さと考え、中には「他人に迷惑をかけるな」と主張する人もいますが、私はそれはおかしいと思います。

子育てに限らず、私たち人間はそもそも互いに助けられ、頼り合って生きるものです。海外には「子どもは村全体の智慧(ちえ)で育てる」ということわざもあるといいます。

実際、子育ては大変な営みです。ましてや発達障害の特性のある子の子育ては、より大変です。

ですから子どものためにも、家族のためにも、自分のためにも、あらゆる制度を使い、知識と経験を持った人や機関を使い、周囲に大いに頼りましょう。

そうして発達障害の特性のある子の子育ての不安やストレスを少しでも軽くし、家族それぞれが少しでもご自身の喜びや幸せを感じてほしいと思います。

終わりに

発達障害の特性のある子の課題は、子どもを取り巻く家族や周囲の人の理解が深まり、物的な環境や周りの人の関わり方が変わることで大きく変わります。この連載がその一助になればうれしい限りです。

助け、助けられる中で、その子らしさが尊重され、多様な出会いを喜びあい、成長を支えあえる人の繫がりが、皆さんの周りで拡がることを切に願います。今までお読みくださいましてありがとうございました。

●発達特性の子どもが輝ける「写真アトリエ」設立のクラファン実施中!●

原哲也先生(言語聴覚士)と同姓同名の写真家・原哲也氏が、発達特性や不登校、HSPなどの小中学生を対象とした「写真アトリエ」設立をめざし、クラウドファンディングに挑戦中。子どもたちはシャッターを押すことで「できた!」を実感し、自分と周りの“ちがい”が輝ける取り組みです。原哲也先生(言語聴覚士)もアドバイザーとして参加しています。

支援期間:2025/12/11(木)12:00~2026/1/31(土)23:00終了予定

場所:セルフフォトスタジオ『ラシク』(横浜・元町)

詳細はHPへ
https://readyfor.jp/projects/kids-photo-atelier
セルフフォトスタジオ『ラシク』
https://lashiku.studio/

原哲也
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事・言語聴覚士・社会福祉士。
1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。

2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。

著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。

児童発達支援事業所「WAKUWAKUすたじお」

「発達障害の子の療育が全部わかる本」原哲也/著
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わが子が発達障害かもしれないと知ったとき、多くの方は「何をどうしたらいいのかわからない」と戸惑います。この本は、そうした保護者に向けて、18歳までの療育期を中心に、乳幼児期から生涯にわたって発達障害のある子に必要な情報を掲載しています。必要な支援を受けるためにも参考になる一冊です。

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はら てつや

原 哲也

Tetsuya Hara
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表・言語聴覚士・社会福祉士

1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。 2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。 著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。 ●児童発達支援事業「WAKUWAKUすたじお」

1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。 2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。 著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。 ●児童発達支援事業「WAKUWAKUすたじお」