親のスマホチェックは憲法違反? 子どもを「自立した個人」に育てる心得を教育学者が伝授

教育学者・末冨芳教授「こども基本法」と「子どもの権利」#5~中学生編その1~

教育学者・日本大学文理学部教育学科教授:末冨 芳

総務省の2021年調査結果によると、スマホ所持率は小学校高学年が52.5%ですが、中学生になると87.8%、高校生は99.1%と一気に跳ね上がります。  写真:アフロ

乳幼児期から子どもの権利を大切に子育てをすると、子どもが幸せに自立する力が育つと唱える教育学者で、日本大学教授の末冨芳(すえとみ・かおり)先生。

反抗期も重なったりして難しくなる中学生の時期、親はどんな心構えでいるべきなのでしょうか。

末冨先生が経験した中学生長女のエピソードを交えつつ、伺います。

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末冨芳(すえとみ・かおり)PROFILE
教育学者・日本大学文理学部教育学科教授。京都大学教育学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。博士(学術・神戸大学大学院)。専門は教育行政学、教育財政学。現在、文部科学省・中央教育審議会臨時委員もつとめる。二児の母。

自分と他者の自由と権利を尊重する憲法第12条

中学生になると、子ども自身の成長も著しく、子どもが「自立した個人」として、社会で生きるための知識、考え方や行動力を身に着けていくことが大切です。

「こども基本法」では、自分たちの関わることについて、子どもたちが意見を伝える権利(意見表明権)が、そしてその意見を大人たちが尊重することが述べられていることは、このシリーズの中でも繰り返し述べてきました。

こども基本法第1条には「日本国憲法及び児童の権利に関する条約の精神にのっとり」、全ての子どもの権利の擁護がはかられ「生涯にわたる人格形成の基礎を築き、自立した個人としてひとしく健やかに成長することができる」社会の実現が、目的として掲げられています。

ところで、日本国憲法では「権利」をどのように定めているのでしょう。今回は「こども基本法」ではなく、日本国憲法第12条を紹介したいと思います。

第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負う。
(※一部、かなづかいを改めています)

全部で103条ある日本国憲法のうち、我が家でもっとも話題になるのがこの12条です。

まず自分自身の自由を、権利を大事にすること、そしてその基盤には、人間は自分自身の幸せを大事にする存在だ、という理念があります。

同時に、他者の自由と権利も尊重するために「公共の福祉のためにそれぞれの自由と権利を利用する責任」があるという、「自立した個人」として大切にすべきルールが書かれているからです。

中学生は18歳成年の今、「自立した個人」として成長していくことがいっそう大切になっています。

中学校で日本国憲法を習得することになっているのも、子どもではなく、大人として社会に参画していくための大切な知識だからです。

親による子どものスマホチェックは厳重注意

──子どものプライバシーや「尊厳」をふみにじっていないか?

中学生が「自立した個人」として成長していくためのステップを支えるときに、親が気を付けるべきことは、子どものプライバシーや「尊厳」をふみにじっていないか、ということです。

とくに子どものスマホチェックは要注意です。

中学生以上の子ども・若者は、ほぼ全員がスマホを持つようになります。
気を付けたいのは、子どものスマホチェックを「当たり前」だと思ってしまっている親です。

もちろん、小・中学生はスマホトラブルも多く、親が関与することは重要です。

しかし「スマホを見せなさい」「LINEを見せなさい」ということを一方的にしてしまうと、子どものプライバシーや尊厳を踏みにじる行為であり、中学生の心を深く傷つけることにもなってしまいます。

「こういうことが心配だから、スマホを親が確認したい」「お父さん(お母さん)も前にSNSでトラブルがあったから、あなたのことも心配なの」と、具体的な心配を伝えて、子どもに親の心配の理由がわかるようにしておくことが大切です。

また、毎日のチェックではなく、たとえば水曜日の夜にこのアプリを一緒に確認する、など、子どものプライバシーもある程度保たれる方法で、スマホチェックをするなどのルールづくりも必要ではないでしょうか。

子どもが納得しないルールを親がおしつけてしまうと、子どもの方がより巧妙に親にばれないやり方でスマホを使った結果、かえって大変な事態になってしまうなどのリスクもあります。

また、子どもが成長していくにつれ、友達や彼氏彼女のスマホを勝手に見ていいのだという誤った認識や行動を育ててしまうことにもなりかねません。

何よりも、親子の信頼関係が損なわれる事は、親にとっても子どもにとっても、幸せなことではありませんね。

我が家の長女(中学生)から子どものスマホチェックを平気でする同級生のママやパパもいる、と聞くと心配になってしまいます。

「私はあなたのことを信用していない」という、子どもを信じられない子育てをしてしまっていることを、親が自ら証明しているかのような行為にもなってしまっているのです。

「親がお金を出しているのだから見せなさい」、そのような声をかけてしまっている保護者は無意識のうちに「子どもは親の所有物」だとみなし、そもそも子どもを個人として尊重できていない危うい考え方だということを、知っていただければと思います。

そのような親をもってしまった若者たちは、親に不信を持ちながら成長していきます。

国がもし個人のスマホ情報について承諾なしにチェックすれば、日本国憲法で禁止されている「検閲」に当たります。

親子といえども、それぞれに人権を持ち、お互いを尊重していく個人と個人です。

成長しつつある子どもを尊重せず、傷つける安易なスマホチェックが、「自立した個人」として子どもの成長を促(うなが)す行為になるとは思えません。

そのような親子関係で、中学生が自分自身を大切に思う気持ち(自己肯定感)や、自分自身や社会を変革する力(エージェンシー)は育まれるでしょうか?

日本財団の2022年調査で日本の若者の国・社会への前向きな意識が6ヵ国中(インド、韓国、中国、イギリス、アメリカ、日本)最下位であることは、前に(#3)ですでに述べたとおりです。

日本の若者たちの前向きな意識が育まれないことは、果たして学校や社会だけの責任でしょうか?

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