親のスマホチェックは憲法違反? 子どもを「自立した個人」に育てる心得を教育学者が伝授

教育学者・末冨芳教授「こども基本法」と「子どもの権利」#5~中学生編その1~

教育学者・日本大学文理学部教育学科教授:末冨 芳

事なかれ主義の学校・親が子どもの「エージェンシー」をつぶす

実は今、我が家の長女(中学生)は、学校の校則や、LINE禁止ルールなどがおかしいと悩んでいます。

中学生になるとスマホも当たり前になり、友達と考えを言い合ってさらに考えたり、自分で情報を調べて、子どもたち自身がやっぱりおかしいと思うことも多くなると思います。

長女の学校ではクラスのLINEトラブルから、学校の友達とのグループLINEがすべて禁止と、先生から言い渡されて、長女はまったく納得がいかない様子です。

学校からは「保護者も協力してください」という連絡がありましたが、通学路を除く放課後のことは学校の管理責任外であることは、児童福祉法や民法にもとづく文部科学省や厚生労働省のガイドラインでも明記されています。

民法に定める私権である親の監護権の範囲なので、我が家は、「子どもの自由と権利を尊重しながら、心配なことがあったら学校に相談しますね」とお返事しておきました。

グループLINE禁止は一時的な措置という説明があり、学びながら、新しいルールを作りましょう、ということですが、多くの学校では、ここで生徒の提案した新しいルールを却下し続けて、心を折るというなかなか卑怯な作戦をとってきます。

長女の学校の先生とお話をしてみると、グループLINEのルールを話し合って再開される可能性もあると判断していますが、生徒の「エージェンシー」をつぶしにかかる残念な学校は多いと思います。

読者のみなさんにもそのような残念な学校に在籍された方がいるのではないでしょうか?

このような残念な日本で子ども・若者の「エージェンシー」は育つのでしょうか?
一律にLINE禁止とするような学校や親では、中学生の成長にはつながりません。

日本国憲法第12条が我が家でもっとも話題になる憲法の条文であると冒頭に述べました。

その理由は、個人の自由と権利を守るためには「不断の努力」が必要なこと、いっぽうで個人の自由と権利は「公共の福祉」のために使わなければならない、という2つの大事なルールが決められています。

「自由と権利は使わないとサビついちゃうんだよ、だからお父さんやお母さんは全力で自由と権利を使ってるんだよ。

でもそれは、自分のためでもあるけど、みんなの『幸せ』(公共の福祉)のため、ということも大事にしないといけないんだよ」


我が家ではわかりやすく、このように子どもたちに話しています。

納得がいかない長女の話を、私も夫も聞いて話し合いました。といっても深刻に話し合うのではありません。

「お母さんが校長先生とお話してあげようか?」と私が提案すると、夫が「それはまだ早いよ、まず生徒が先生に意見をいうところからだよ」と長女をけしかけたりもします。

小学生の次女も最近、難しい話がわかるようになってきて「それは先生に相談したほうがいいよ」と意見を言います。次女にとって小学校の先生は、安心して意見を言ったり、相談できる相手だからです。

中学校や高校の先生の中には、保育士や小学校の先生を下に見る方もいらっしゃいますが、私は子どもの意見を聞いたり、尊重するスキルは、保育士や小学校の先生のほうが長けている方が多いと感じることがあります。

中学校や高等学校の先生方は、ぜひ保育士や小学校の先生からも学んでいただきたいな、と思います。

こうしたやりとりの結果、長女は「それは困る」、「ムリ~」といいながらも、朝一番で先生と話したほうがすっきりするからと言って出かけました。

自分から先生に話しにいって、納得いったことと、納得いかなかったことがあるようですが、自ら対話をしにいくことは、我が家の長女に「エージェンシー」が育まれている証拠です。

私はそのような「自立した個人」に育ちつつある長女のことを誇らしく思っています。

次は中学生に大切な、エージェンシーとルールメイキングについて詳しくお話しします。

#3=「前向き意識」が最下位! 日本の子どもに「エージェンシー」が必要なワケ

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※この記事は子どもたちと夫の同意を得て執筆・公開されています。また記事の執筆にあたって友人の木野雄介さんとの対話にたくさんのアイディアをいただいたことに感謝申し上げます。

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すえとみ かおり

末冨 芳

教育学者・日本大学文理学部教育学科教授

日本大学文理学部教育学科教授。京都大学教育学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。博士(学術・神戸大学大学院)。専門は教育行政学、教育財政学。 子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。現在、文部科学省・中央教育審議会臨時委員もつとめる。 教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、子どもの権利・利益の推進、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。二児の母。 主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店)、『一斉休校 そのとき教育委員会・学校はどう動いたか』(明石書店)など。

日本大学文理学部教育学科教授。京都大学教育学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。博士(学術・神戸大学大学院)。専門は教育行政学、教育財政学。 子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。現在、文部科学省・中央教育審議会臨時委員もつとめる。 教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、子どもの権利・利益の推進、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。二児の母。 主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店)、『一斉休校 そのとき教育委員会・学校はどう動いたか』(明石書店)など。