【こども基本法・お悩み相談】法律が「子どもをわがままにする」って本当?
教育学者・末冨芳先生の「こども基本法お悩み相談」~子を守り、親を救う答えとは?~#1「こども基本法でわがままになる?」
2023.03.30
教育学者・日本大学文理学部教育学科教授:末冨 芳
2023年4月1日、「こども家庭庁」が発足し、新たな法律「こども基本法」が施行されます。このふたつのスタートは、子どもと保護者にどんな変化をもたらすのでしょうか。
子どもからの悩み相談を例に、「こども家庭庁」と「こども基本法」の意味するところを、子どもと保護者それぞれへ向けて、わかりやすくお伝えします。
第1回は「『こども基本法』は、子どもをわがままにする」と親に言われたという6年生けんじさんからの相談。答えるのは、教育学者の末冨芳(すえとみかおり)先生です。
末冨芳(すえとみ・かおり)PROFILE
教育学者・日本大学文理学部教育学科教授。専門は教育行政学、教育財政学。文部科学省・中央教育審議会臨時委員をつとめ、「こども家庭庁」と「こども基本法」設立にも尽力。2児の母。
〈今回のお悩み〉
【パパが「『こども基本法』は、子どもをわがままにする法律でもある」と言っていました。法律って正しいことなのに、それで子どもがわがままになっちゃうって矛盾してませんか?(6年生 けんじ)】
『こども基本法』はキミの「権利」を守る法律だと知ろう
■子どものキミへ
「こども基本法」は、子どもの権利を守るための法律です。
日本では、子どもが権利を知るとわがままになる、と言う大人がいます。けんじくんのお父さんも、きっと「こども基本法」ができて、子どもの権利が守られる(保障される)と、「子どもが好き放題を言うようになって、わがままになるのでは」と考えているのでしょう。
ですが、それはまちがいです。では、権利とはそもそも何か、そこからお話ししましょう。
権利というのは、まず、子どものキミが自分を大切にするためのルールです。女性、障がいを持つ人や、子どもなど、弱い立場の人であっても、ひとりの人間であり、権利をもっています。
子どもだって、差別やいじめ、虐待から自分を守ったり、自由に生きることがあたりまえ、というのが権利の大切なところです。
だから、「こども基本法」では、子どもが「個人として大切にされ(人として大切にされ)」、こどもの「最善の利益が優先して考慮される(子どもにとって、いちばんよいことが、大人の都合より優先される)」などのルールが法として決められてます。
子どもが意見を言う(表明する)権利や、虐待やいじめなどから守られる権利、教育を受ける権利など、キミ自身が使いこなすことができる権利もたくさんあります。
同時に、権利とは相手や見知らぬ誰かを大切にするルールです。キミのもつ権利は、キミ以外の「すべての人間」も持っているのです。
「すべての人間は生まれながらにして自由、権利において平等」、これがフランス革命において生み出された大事な考え方であり、いまも世界中の民主主義に共通する大事な考え方です。
たとえば、「こども基本法」には、子どもが意見を言う(表明する)権利がありますが、その意見を大人がスルーするのではなく、子どもの意見を大人が尊重する(大切にする)ところまでがセットです。
子ども同士でも同じことです。
YouTubeやテレビでも、自分が目立つことばかり、自分の意見ばかりで、他の人の意見を聞かない、聞いたふりをして「はい論破」などと、自分だけをかしこく見せたり、誰かをバカにすることに他人を利用する有名人もいますよね。
それをマネする人もいますが、かっこよくもないですし、美しくないなあと思います。
権利というものは、キミが自分の意見を大切にしてほしい、おもしろがってほしいと思うなら、他の人も同じ気持ちを持っているはず、そこを尊重しよう(大切にしよう)というルールなのです。
自分の権利も、「すべての人」の権利も、お互いに大切にすることが、権利の大事なポイントです。
このように、権利のことがわかっていれば、子どもも大人も「わがまま」になるはずがありませんね。
もっとも日本では、このような、権利について、ごくあたりまえの基本を知っている大人も少ないので、大人も、権利のことを正しく学んでおく必要がありますね。
なのでお父さんには、「『こども基本法』は子どもをわがままになんてしないよ。子どもや、周りのみんなを大切にして、権利を守るための法律なんだよ」と優しく教えてあげましょう。
大人でも知らないことや、気づいてなかったことは、たくさんあるのです。