「子どもには “調和”より“創造”を尊重」本橋麻里・メダリスト&2児の母の想い

ロコ・ソラーレ代表・本橋麻里さんインタビュー「スポーツと育児の相乗効果」1/4 ~“好き”の芽生えと育て方編~

竹田 聡一郎

母校の常呂小学校にて。所属した陸上部では高跳びと幅跳びなどがメイン。冬にはスケートにも挑戦したそうです
写真/森清 『0から1をつくる 地元で見つけた、世界での勝ち方』(講談社現代新書)より引用

「興味の種」が伸びるよう 親は口出しを我慢

妻となり母となったいま、自身の幼少時代を振り返り強く感じるのは「カーリングをする自分を見守ってくれた両親への感謝」だと本橋さん。

「私は幸せなことに、大好きなカーリングを軸にここまで生きてくることができました。今もチームの運営をしながら、アイスの上に立たせてもらっています。でも、実際に親になってみると『自分の子どもが見つけた好きなものに口出しをしない』っていう行為はものすごいガマンが必要なんだなと痛感しています。

『あ、これ楽しいかも』から『好きだから続けたいな』に変わるまでに下手な口を出したら、せっかく芽生えたポジティブな感情のじゃまになってしまうかもしれない。それは私も意識しています」

子どもたちにはなるべく多種の経験をしてもらい、受けた刺激が合うか合わないかを本人たちに決めてもらえるのが理想。そして子どもが抱く“興味の種”を親として敏感にキャッチしながら、それを育てていいものなのかという見極めは慎重にしていくべき。その考え方は実体験が反映されているのかもしれません。

実際に、本橋さんの長男が何に興味を持っているのかをたずねると、「まだ5歳なのでわかりません」と笑います。

「でも、私と似ていて、じっと座ってやるものより、身体を動かすことが好きみたいですね。お絵かきもばっとやってすぐペンを置くみたいな感じで、文化系ではないかもしれません。
まだ彼が何を選ぶかはわかりませんが、どこかでチームスポーツを経験してくれたらうれしいなとは思っています。集団とそのスポーツのルールの中で、友達に対して自分からアクションできるのか、新しい考えを増やせるのか。それらはスポーツだけでなく、生きていく中で必要なスキルだと私は思っています」

子どもは遊びの天才 “遊びを作り出す力”が世界進出には必要

そのようにして子どもの興味にアンテナを立てながら一緒に遊んでいると、子どもの「発想する力と創造のスピード」に驚かされると本橋さんは言います。

「ひとつのおもちゃでも、説明書に書いてある以外の使い方で何通りも遊ぶんですよね。『ちゃんとこうやって遊ぶんだよ』と正規の遊び方をアドバイスする親御さんも多いかもしれませんが、私はその発想は大切にしてあげたい」

例えばトランプがあれば、カードゲームよりも、子どもは手裏剣として使ったりします。紙吹雪のように宙を舞わせたり、壁にトランプを貼ってデコレーションをしたりと、大人では想像のつかない遊びを思いつき、実行します。それを本橋さんは「才能」と言い切りました。

「子どもというのは誰しも遊びの才能があると私は信じています。もちろん、例えばみんなで神経衰弱をしているときにひとりで手裏剣をしたら、調和という意味では成長がないので話をしないといけないかもしれません。
でも、危険なく遊べるのであれば私は止めません。遊ぶものを与えられて遊ぶよりも、遊びを作り出す力のほうが必要だな、と感じています」

本橋さんがそう考えるようになったのは、やはりカーリングを通して出た世界で痛感した経験がベースにあると言います。

「カーリングで大切な要素のひとつに“議論”があります。『このショットが成功すると、この形でチャンスが生まれる。もちろん、こういうリスクもあるけれど、それを含めてもトライする価値がある』というのをしっかり意思を持って言語化できること。
あるいは、他の人の意見に賛成でも反対でも、自分の言葉で議論に入っていく能力が求められます。世界のトップにいけばいくほど、そこで戦う選手はそれに長けています。

今後、世界のグローバル化はもっともっと進み、どんどん枠のない世界になっていくと思います。そこで求められるのは、説明書に従って選択する人間ではなく、自分でしっかり考えてアイデアを生んで、それを人に伝えることができる人材なのではないでしょうか。そういう意味でも遊びの天才である子どもの想像と創造は大切にしてあげたい。そう思っています」

本橋麻里さん(左)の生い立ちから五輪進出、チームの代表理事としてのビジネス論を記した著書(右)『0から1をつくる 地元で見つけた、世界での勝ち方』(講談社現代新書)
写真/森清 

本橋麻里

もとはしまり 1986年6月10日、北海道北見市常呂町生まれ。小学6年生のときにカーリングをはじめ、19歳で当時、トップチームだったチーム青森に加入。カーリング女子日本代表選手として、2006年トリノ五輪、2010年バンクーバー五輪を戦った。2010年に『ロコ・ソラーレ』を結成し、2016年世界選手権銀メダル獲得、2018年平昌五輪では銅メダル獲得と日本カーリング界の歴史を塗り替えてきた。現在は2児の母でありながら育成チーム「ロコ・ステラ」のメンバーとして活動中。著書に『0から1をつくる 地元で見つけた、世界での勝ち方』(講談社現代新書)がある。

ロコ・ソラーレHPはこちら https://locosolare.jp/

※本橋麻里さんインタビューは全4回。2回目は21年6月25日8:00~公開です(公開日までリンク無効)
【第2回】本橋麻里さんインタビュー「育児を育“事”と割りきるとラクになれた」

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たけだ そういちろう

竹田 聡一郎

スポーツライター

1979年生まれ。神奈川県出身。幼少の頃からサッカーに親しみベルマーレ平塚(現湘南)の下部組織でプレーする一方で、84年、広島市民球場でのプロ野球初観戦で高橋慶彦や山本浩二に魅せられ、カープファンに。 04年にフリーのスポーツライターになり、サッカーやカーリングを取材するフリをしつつカープも追う日々。

1979年生まれ。神奈川県出身。幼少の頃からサッカーに親しみベルマーレ平塚(現湘南)の下部組織でプレーする一方で、84年、広島市民球場でのプロ野球初観戦で高橋慶彦や山本浩二に魅せられ、カープファンに。 04年にフリーのスポーツライターになり、サッカーやカーリングを取材するフリをしつつカープも追う日々。