大人が柔軟だと、子どもも柔軟に!?
「子どもたちは、大人が思っている以上に柔軟です。保育園でも、性別のイメージにとらわれず、自由に好みや遊びを選んでいます。とても大らかなところがあります。子どもには、互いの違いをそのまま受け止める力があるようにも感じます。“◯◯くん、男の子だけどスカートはいてるのね? ふーん、そっか”くらいに受け流す柔軟さを見せることもあります」(天野さん)
ただし、すべての現場がそうとは限りません。柔軟性の低い環境では、『男の子なのにスカート』という理由でいじめが起きることもあります。
「子どもたちが共有する規範や価値観は、子どもだけの世界で自然に生まれているわけではありません。テレビやSNS、家庭など、大人社会にある既存のジェンダー秩序を参照しつつ、周囲との関係の中で形成されていきます。つまり、“スカートをはいていることでいじめが起きる”といった状況も、子どもたち自身の問題というより前に、大人社会にある価値観が子どもたちの関係の中に持ち込まれている側面があると言い換えられます」(天野さん)
「この議論を裏返せば、大人のジェンダー規範がゆるくて、“それもいいね”“みんな違っていて面白いね”と多様性を受け止められていれば、子どもたちの規範や価値観も、案外ゆるやかに設定されていく。僕の実感として、保護者や担任保育者の受け止めが柔軟なクラスほど、子ども同士の摩擦が少ないように思います」(天野さん)
子ども同士の関係やクラスの空気は、周囲の大人の価値観とまなざしの影響も受けていると、天野さんは説明します。
「大人はついつい“正しさ”や“正解”を求めがちですが、状況に応じてジェンダーをめぐる価値や規範は揺れ動くものでもあります。ですから、ジェンダーの問題を一問一答式に“正解・不正解”で判断すること自体が、少し窮屈なのではないかと思います」(天野さん)
大切なのは、正しい答えを与えることよりも、大人がどんな姿勢で子どもを見ているか。
「ジェンダーを語ると、さまざまな縛りが生じて、あれもダメ、これは間違っているとなりがちです。しかし、本来は、その窮屈さや抑圧を減らし、自由になっていくことが大切だと思います。そう捉え直すことが、子どもたちにジェンダー教育をするよりもまず先に、私たち大人に求められることだと僕は考えています」(天野さん)
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天野諭さんに「子どもとジェンダー」をテーマにお話を伺う連載は前後編。今回の前編では子育てにおけるジェンダーの理想と現実の認識について解説していただきました。では、わが子のジェンダーに戸惑いを感じたとき、親はどうとらえ、どう対処していけばいいのか。後編では具体的な方法について考えていきます。
取材・文/佐藤 美由紀
『保育はジェンダーを語らない』(天野諭:著、かもがわ出版)
実践に基づいた、子どものジェンダーを紐解くための保育現場への提案
保育の世界には「ジェンダーの話がとんと苦手」という空気が漂っています。本書は、その沈黙がどこから生まれ、現場で何を見えなくしているのかを解剖。保育指針にわずか一文だけ書き込まれたジェンダー課題の重みを掘り起こし、子どもたち自身がジェンダー規範を再生産/再構築していくダイナミズムを、事例と最新研究で描き出します。さらに、《語り合いの環境構成モデル》など、現場でジェンダー問題を解決できるアイデアを提示。保育室で“語らない”まま不可視化されてきたジェンダーに、その不可避性を見出し、“語り合う”ための8章。
■本書のポイント■
◎保育とジェンダーを架橋する、注目の若手研究者による初の単著!——現場の保育者、保育を学ぶ学生、子どものジェンダーに関心のあるみなさんに向けて。
◎著者は2025年度・日本子ども社会学会「研究奨励賞」受賞。
◎子ども社会学、教育社会学、保育学、男性学/男性性研究——学際的な視点から、子どものジェンダー実践を捉える意欲作!
◎男の子の身体をめぐる諸問題を、事例とともにわかりやすく解説。
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佐藤 美由紀
広島県福山市出身。ノンフィクション作家、ライター。著書に、ベストセラーになった『世界でもっとも貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉』のほか、『ゲバラのHIROSHIMA』、『信念の女 ルシア・トポランスキー』など。また、佐藤真澄(さとう ますみ)名義で児童向けのノンフィクション作品も手がける。主な児童書作品に『ヒロシマをのこす 平和記念資料館をつくった人・長岡省吾』(令和2年度「児童福祉文化賞」受賞)、『ボニンアイランドの夏:ふたつの国の間でゆれた小笠原』(第46回緑陰図書)、『小惑星探査機「はやぶさ」宇宙の旅』(第44回緑陰図書)、『立てないキリンの赤ちゃんをすくえ 安佐動物公園の挑戦』、『たとえ悪者になっても ある犬の訓練士のはなし』などがある。近著は『生まれかわるヒロシマの折り鶴』。
広島県福山市出身。ノンフィクション作家、ライター。著書に、ベストセラーになった『世界でもっとも貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉』のほか、『ゲバラのHIROSHIMA』、『信念の女 ルシア・トポランスキー』など。また、佐藤真澄(さとう ますみ)名義で児童向けのノンフィクション作品も手がける。主な児童書作品に『ヒロシマをのこす 平和記念資料館をつくった人・長岡省吾』(令和2年度「児童福祉文化賞」受賞)、『ボニンアイランドの夏:ふたつの国の間でゆれた小笠原』(第46回緑陰図書)、『小惑星探査機「はやぶさ」宇宙の旅』(第44回緑陰図書)、『立てないキリンの赤ちゃんをすくえ 安佐動物公園の挑戦』、『たとえ悪者になっても ある犬の訓練士のはなし』などがある。近著は『生まれかわるヒロシマの折り鶴』。


































天野 諭
保育士。博士(人間科学)。福島大学人間発達文化学類特任准教授。 子ども社会学・保育学・乳幼児教育学を専門とする。実務経験をもとに子どものジェンダーに関心を寄せ、保育園でのビジュアル・エスノグラフィー調査を通じて、「戦いごっこ」などを手がかりに幼児期の男の子たちの仲間関係と遊び文化を研究している。2025年、日本子ども社会学会研究奨励賞受賞。NHK、朝日新聞、日本経済新聞などでインタビュー・コメントが掲載されている。 著書に『保育はジェンダーを語らない』(かもがわ出版)、共著に『名著でひらく男性学 〈男〉のこれからを考える』(著:杉田 俊介・西井 開・川口 遼・天野 諭/集英社新書)がある。
保育士。博士(人間科学)。福島大学人間発達文化学類特任准教授。 子ども社会学・保育学・乳幼児教育学を専門とする。実務経験をもとに子どものジェンダーに関心を寄せ、保育園でのビジュアル・エスノグラフィー調査を通じて、「戦いごっこ」などを手がかりに幼児期の男の子たちの仲間関係と遊び文化を研究している。2025年、日本子ども社会学会研究奨励賞受賞。NHK、朝日新聞、日本経済新聞などでインタビュー・コメントが掲載されている。 著書に『保育はジェンダーを語らない』(かもがわ出版)、共著に『名著でひらく男性学 〈男〉のこれからを考える』(著:杉田 俊介・西井 開・川口 遼・天野 諭/集英社新書)がある。