自治体から問い合わせが急増! 老舗遊具メーカーが追求するインクルーシブ公園作りの哲学
シリーズ「インクルーシブ公園」最新事情#3‐1 遊具メーカー「コトブキ」福田英右氏インタビュー ~メーカーとしてできること~
2022.10.21
障がいの有無や国籍、年齢、ジェンダーなどにかかわらず、すべての子どもが一緒に遊べる「インクルーシブ公園」。
ユニバーサルデザインの遊具や設備を配するなど、多様な子どもが遊べる工夫があちこちに施されています。
公園の遊具を作るメーカーは、公園のインクルーシブ化をどのように捉えているのでしょうか。
老舗の公園遊具メーカー「株式会社コトブキ」でマーケティングを担当する福田英右さんに、メーカーとしての取り組みを伺いました。
※全2回の前編
福田英右(ふくだ・えいすけ)PROFILE
遊具メーカー「株式会社コトブキ」マーケティング本部プロダクトマーケティング課。インクルーシブな遊具を含めた遊具の事業部などを担当。障がいの有無など関係ない“みんなが一緒”の社会実現を目指している。
交流を生むインクルーシブな遊具とは
──遊具メーカー「コトブキ」は、1916年の創立以来、ベンチやテーブル、パーゴラ(つる性の植物などを絡ませるための棚、日陰棚)といったストリートファニチャー、公園の遊具など、パブリックスペースにまつわる事業を展開していますが、近年はインクルーシブな遊具も積極的に提案されていますね。
福田英右さん(以下、福田さん) 日本で「インクルーシブ公園」がフィーチャーされるようになったのは、都立砧(きぬた)公園内に「みんなのひろば」(東京都世田谷区)がオープンした2020年ごろだと思います。
私たちはもう少し前、1990年代後半からユニバーサルデザインの遊び場を手掛けていました。
その第1号が、1996年に開園した「藤野むくどり公園」(北海道札幌市)です。
園内はバリアフリー。メインの複合遊具には、高いデッキからすべるダイナミックなすべり台、低いデッキからすべるゆるやかなすべり台の2つが並んでいます。
別々のすべり台からすべっても、最終的には同じ場所に下りられて「みんなで一緒に遊んでいる」という感覚が得られる遊具です。
ほかにも、当時はめずらしかった背もたれとベルト付きのブランコ、車いすのまま遊べるテーブル状の砂場などもあります。
設計段階から地域の方々の声を聞いて一緒に作った公園なので、今思えば、インクルーシブ公園の先駆けと言えるかもしれませんね。
そうして今に至るまで海外の公園を視察したり、国内でのニーズを調査したりを続けてきましたが、2020年以降、全国的に「インクルーシブ公園になるよう整備しよう」といった機運が一気に高まったと感じます。
ベースにあるのは、障がいの有無や国籍、ジェンダー、年齢などに関係なく、一緒に集って社会参加すべきだという考え方です。
単なる「ユニバーサルデザインの公園」に留まらず、あらゆる人々との交流やふれあいが生まれるような整備が求められているなと思います。
さまざまな声を取り入れた公園づくり
──問い合わせの件数など、近年で感じる変化はありますか。
福田さん 私たちは遊具を作る以外に、公園づくりの提案なども行っているのですが、去年(2021年)あたりから都市部や郊外、地方を問わず、公園の新設や改修、遊具の入れ替えを検討する自治体からの問い合わせが増えています。
その中で感じるのは、今までは「公園課」など、公園を管理する部署とのやり取りがほとんどでしたが、最近は子育て支援や障がい福祉に関わる部署の方々ともお話しする機会が増えたということ。さまざまな立場の方が、公園づくりに関わるようになったのでしょうね。
──それは大きな変化ですね。いろいろな意見が集まりそうです。
福田さん 私たちが手掛けた事例でいうと、2021年7月にオープンした「うみどり公園」(岩手県宮古市)がまさにそうです。
市長や公園を管理する「都市計画課」だけではなく、「福祉課」、子育てや教育を支援する「こども課」「学校教育課」など、市全体がプロジェクトに関わり、たくさんの声を取り入れて作られました。
「うみどり公園」があるのは、2011年の東日本大震災で被災するまで、宮古市役所があった場所です。市民の方々にとって特別な思いのある場所で、今後どうやって活用していくか、何年もかけて大事に考えられてきました。
公園というと、どうしても子どもの遊び場がフォーカスされますが、「うみどり公園」は子育て世代の親子からお年寄りまで、【誰もが受け入れられる場所】をコンセプトに掲げています。
インクルーシブな遊具のすぐ横に、お年寄りも利用できる健康器具があったり、若者が楽しめるバスケットボールのコートがあったり……。
すべての世代が交流できる工夫がされた、非常にインクルーシブな公園だと思いますね。