「ゲームで親子関係が悪化」本当のワケをゲーマー児童精神科医が明かす

ゲーマー児童精神科医にインタビュー”ゲームと子どものホントの関係”#3

くりもと きょうこ

子どもにとって「相談できる親」なのか

――SNSやオンラインの世界で、悪い影響や嫌な思いをするリスクはどうすれば回避できるのでしょうか。

 結局は、親や身近な大人が「相談しやすい大人」かどうか、が重要です。

リアルな場面で嫌な人に出会うことは、相談される側も想像しやすいです。

自分の感じた嫌な思いを相談相手が共有してくれて、「それは嫌だったね、ひどい目にあったね」と受け止めてもらえる可能性が高いですから、相談もしやすい。

しかし、SNSやゲームの中で、「こういう嫌な目にあってさあ……」「こんなひどいヤツがいてね……」というのは、人によってはピンとこないかもしれません。

「え? それゲームの中の話でしょ?」

そう言われてしまうと、とりわけ子どもから大人に向けての相談がしづらいんですね。

――大人と子どもでネット上の世界との関わり方にギャップがある場合、相手の思いを想像するのが難しくなりそうですね。

 大人は、子どもがSNS上でどんな人と出会って、どんな会話しているのか、知らない場合が多いのではないでしょうか。

リアルでは話しにくいからこそTwitterなどのSNSの中でつぶやくわけで、多くの子にとって、そもそも身近な大人に相談しにくいという構造があります。

しかし、SNSはご存じのとおり匿名性が高いですから、犯罪に巻き込まれてしまうこともあり得ます。

もちろん、悩みを抱えている子どもたちを公的なオンライン相談に繋げられるようなシステム構築も大切ですが、親さんたちは、「いざというとき、息子や娘に自分は相談できる相手だと思ってもらえているのか」と、ときどき自分たちを振り返ることも大切なように思います。

子どもが大きな失敗をしたとき、叱ることも必要かもしれませんが、一緒に解決策を考えていけるような存在に自分がなっているかどうか。そこが、本当に大切なんです。

――ある専門家の方が「味方だよと言ってしまうと、味方じゃなくなる可能性を含んでしまうので、『少なくとも敵じゃない』と思ってもらえれば上出来では」とおっしゃっていました。

 たしかに、自分から「味方だよ」と言ってしまうのは諸刃の剣ですね。ウソくさく感じられるかもしれません。あえて「きみの味方だよ」とは言わない、本当の味方もいるでしょう。

子どもにも、自分にとって相談しやすい人かどうかは自然とわかります。これは、言葉ではない部分で感じるものだと思います。

相談しやすい人の特徴をあえて挙げるとすれば、

①こちらの話をさえぎらない
②意見を押し付けてこない
③こちらのしんどさやつらさに耳を傾けてくれる


そういう人ではないでしょうか。

親子だからこそ信頼関係を築くことを大切にしたい。
写真:アフロ

夢中になれるものは「宝」 見失わないで!

――先ほども出た「居場所」という視点から見た、ゲームからの卒業についても、おうかがいしようかと思ったんですが……。

 残念ながら私はそれに答えるすべを持っていません。自分がゲームを卒業していませんので(笑)。

長男 先生、非常に素晴らしいです!(尊敬のまなざし)。

――ゲームから卒業することは考えなくていいということですか。

 好きなものが人生の中で見つかるのは、それだけで「宝」です。そして、それを大人になっても持ち続けられることは本当に尊いことですし、自分の人生を助けてくれることもたくさんあります。

大人は、子どもが好きなものを見つけると、それを生かして仕事にさせようとか、その知識や技術を役に立てられるようにしようとか、もっと上手にできるようにさせようとか、そういうことをつい求めがちです。

でもそうすると、せっかく好きだったものが嫌いになるリスクが高くなります。

ずっとゲームが大好きなまま、ゲームクリエイターになれればいいのかもしれませんが、大好きなゲームも、どこかで、「やらなきゃいけないもの」になった瞬間、楽しくなくなるリスクがありますよね。

子どもは、本来は学ぶことそのものがとても好きです。なんでもやりたがりますし、「自分でやる!」と言って自分からやりたがります。

学ぶことが嫌いになるのは、大人が「できると役に立つこと」を教えていくからではないかと思うんです。

野球でもサッカーでも、小さい頃はバットを握るだけで、ボールを蹴るだけでとても喜んでいたのに、ちょっとうまくなると大人の期待が入ってきて、「もっと練習したら?」とか、「○○君がやってるなら、あなたも素振り100回やれば」と言われたり、人と比べられたりして、だんだん興味が失ったり、嫌いになったりしていく。

楽しさを感じられなくなると「好き」を見失って、どんなに上手でも離れていってしまいます。

ゲームは役に立たなそうに思われてしまいがちなので、野球やサッカーみたいに、大人から「もっとうまくなれ!」みたいな圧力をかけられる展開は考えづらいのですが、大事なことは、子どもの「好き」について、大人はどう関心をもち、接するのか細心の注意を払ったほうがいいと思います。

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

……ということで親子インタビューは終了しました。

関先生の背後に、アニメの『よつばと!』やガンダムのアイテムが置かれていることに長男は目ざとく反応して、先生との会話を楽しんでいました。

そんな長男はとてもリラックスして終始笑顔! 今まさに、ゲームをはじめ好きなものを通して世界を広げているんだなと、伝わってきました。

ゲームを入り口にスタートした取材でしたが、親子関係にとって大切なことにまで話が広がり、教わることがたくさんあった密度の濃い1時間になりました。

私は、さっそく子どもたちから、好きなゲームや動画のことを教えてもらおうと思います。

取材・文/くりもときょうこ

※関正樹先生のインタビューは全3回。
第1回はこちら。第2回はこちら

プロフィール)
関正樹(せきまさき)
児童精神科医。1977 年生まれ。福井医科大学卒。岐阜大学医学部付属病院、土岐市立総合病院精神科を経て、現在は岐阜県瑞浪市にある医療法人仁誠会大湫(おおくて)病院に勤務。3ヵ月分の予約が30分で埋まる。白衣の下にはキャラクターT シャツ、足元からはカラフルな靴がのぞき、丁寧で優しい語り口の医師。「親戚のおじさんくらいの適度な距離感」を大切に診察にあたる。著書に『発達障害をめぐる世界の話をしよう:よくある99の質問と9つのコラム』(批評社)など。

★「子どもたちはネットやゲームの世界で何をしているんだろう」(YouTube動画)

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くりもと きょうこ

くりもと きょうこ

編集者・ライター

総合出版社で編集者として14年間、青年誌・女性誌・男性週刊誌・児童書など、多彩な雑誌・書籍の編集に携わったのち、信州の村に移住して雑食系編集者・ライターに。文弱の徒たる夫と、ホームスクーラー3兄弟とにぎやかに暮らす。

総合出版社で編集者として14年間、青年誌・女性誌・男性週刊誌・児童書など、多彩な雑誌・書籍の編集に携わったのち、信州の村に移住して雑食系編集者・ライターに。文弱の徒たる夫と、ホームスクーラー3兄弟とにぎやかに暮らす。