なぜ保健室の先生には話せるの? 3000人の子どもが心を開いた養護教諭の会話術

我が子の心の悩みが晴れていく! 保健室の先生に学ぶコミュニケーション術#1

子どもとのコミュニケーションで大切なこと

渡邊先生はコミュニケーションの定義を次のように話します。

「コミュニケーションとは、わからないことをお互いにわかろうとする行為であり、その人と向き合うことです。相手が子どもであろうとスタンスは対等であり、思いこみや憶測での決めつけは避けなければなりません。

これは私の思い込みによる失敗談になりますが、気がついたら、私と息子では全然、考えが違っていることがありました。それはどういうことなの? あなたはどうして欲しいの?など、会話を重ねることでようやく分かり合えたことがあったのです。

愛というのは、相手が思っていることを知って、願っていることを提供してあげることだと私は思っています。だからこそ、それらを差し出すには子どもをちゃんと理解する必要があります。

前述した6つの『みる』と3つの『きく』は、実は相手をわかろうとする心理学を使ったプロセスです。

子どもが体の不調を訴えたり、イライラや落ち着きのない様子を見せたり、ずっと前のケンカなのに何度も同じことを繰り返し話すなどの変化があったときなど、親から子どもに寄り添う際に役立ちます」(渡邊先生)

実際にこれを使うときは「みる」と「きく」を掛け合わせて距離を縮めていきますが、心理的支援を受けながら落ち着いた心で自分を表現できるようになった子どもは、やがて自らの力で対応・解決できる力を身につけていきます。

渡邊先生はこの力のことを自己肯定感が土台になっている「強い心」といい、これを育てることが親の最大の役割であると話します。

「みる」「きく」で寄り添いながら子どもの自己肯定感を育てる

自己肯定感とは、自分は大丈夫と思う気持ちやありのままの自分を受け入れて愛することを指し、人生でつらいことがあっても乗り越えていける力を指します。

「自己肯定感には6つの『感』があり、その構成は1本の木で表すことができます。

自分であるという軸になる根幹には、ネガティブな感情があってもよく、むしろそれを受け入れて、自分にはこういった一面もあると理解・対応するしなやかな心を育てたいところです。

ですから、これから『みる』『きく』で子どもに寄り添ったときに、子どもからネガティブな発言があったとしても頭ごなしに否定しないことが大切です。そういった感情を子どもが持っていることをまずは受け入れてあげてください」(渡邊先生)

■自己肯定感の木
実:自己有用感(人のためになっている、親切にできること)
花:自己決定感(自分で決めること)
葉:自己信頼感(自分を信じられること)
枝:自己効力感(自分にはできると思えること)
幹:自己受容感(ありのままでいい、自分との境界がわかること)
根:自尊感情(自分には価値がある、感謝される、承認されること)

渡邊先生曰く、「●●ちゃんなんて大嫌い!」「学校なんてなくなればいいのに!」など、会話中に子どもからひどい言葉が漏れたときでも、「ふ~ん、そうなんだ。それでなんでそう思ったの?」と、受け入れてから心を探ってみてほしいそう。

「みる」「きく」で親から少しずつ距離を縮め、子どもが本当に伝えたいことを自分で見つけられるようになると、自己肯定感の木も自然に育っていきます。柔軟で強い心は子ども自身の自己解決力につながっていくので、親はその力が育つように接していきたいものです。

次回は子どもの心に寄り添うテクニックのひとつである「みる」を掘り下げ、具体的な使い方を紹介します。

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渡邊 真亀子
小学校の養護教諭。健康教育専門家。特別支援教育コーディネーター。カウンセラー有資格。児童学修士。私立保育園の評議員。小学校の保健室の先生として30年以上のキャリアを持ち、3000人以上の子どもやその保護者の健康相談に対応してきた。特に子どもたちの歯の健康促進に力を注いで、勤務校3校にて全日本学校歯科保健優良校表彰において最優秀賞(文部科学大臣賞)を受賞している。その功績が称えられ、平成28年東京都学校歯科医師会より東京都学校歯科保健功労者表彰を受賞。著書の『保健室の先生だけが知っている子育て(総合法令出版)』はタイ語版も出版されている。

【主な著書や監修書】
『保健室の先生だけが知っている子育て』(総合法令出版)
『保健室の先生がお母さんに教える 小学生のための歯のはなし』(WAVE出版)など

『保健室の先生だけが知っている子育て』(総合法令出版)


取材・文/梶原知恵

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かじわら ちえ

梶原 知恵

KAJIWARA CHIE
企画・編集・ライター

大学で児童文学を学ぶ。出版・広告・WEB制作の総合編集プロダクション、金融経済メディア、外資系IT企業のパートナー会社勤務を経て現在に。そのなかで書籍、雑誌、企業誌、フリーペーパー、Webコンテンツといった、さまざまな媒体を経験する。 現在は育児・教育からエンタメ、医療、料理、冠婚葬祭、金融、ITシステム情報まで、各媒体の企画・編集・執筆をワンストップで手がけている。趣味は観劇。特技は長唄。着付け師でもある。

大学で児童文学を学ぶ。出版・広告・WEB制作の総合編集プロダクション、金融経済メディア、外資系IT企業のパートナー会社勤務を経て現在に。そのなかで書籍、雑誌、企業誌、フリーペーパー、Webコンテンツといった、さまざまな媒体を経験する。 現在は育児・教育からエンタメ、医療、料理、冠婚葬祭、金融、ITシステム情報まで、各媒体の企画・編集・執筆をワンストップで手がけている。趣味は観劇。特技は長唄。着付け師でもある。