なぜ保健室の先生には話せるの? 3000人の子どもが心を開いた養護教諭の会話術
我が子の心の悩みが晴れていく! 保健室の先生に学ぶコミュニケーション術#1
2022.11.14
親世代が小学生のころ、保健室はどのような場所だったでしょうか。ケガや体調が悪くなったときに応急手当てをしてもらうところと認識している方がほとんどでしょう。
しかし、現代はその立ち位置が少し違ってきています。
保健室の扉を開けると「どうしたの?」と、優しく声をかけてくれる保健室の先生がいることに変わりはありませんが、来室する子どもたちは応急手当てだけが目的ではありません。
心の不調を抱える子が多くなり、それに伴って精神的ダメージに対するケアも保健室で行うことが増えています。
渡邊真亀子先生は、保健室の先生として30年以上のキャリアを持ち、3000人以上の子どもとその保護者の相談にのってきた養護教諭です。多くの相談を受ける中で確立してきたという子どもの心の不調を察知し、ケアするコミュニケーションメソッドを紹介します(全3回の1回目)。
「何となく」保健室にやってくる子どもたち
新型コロナウイルス感染症による社会の変化が、子どもたちの心身に与えた影響は計り知れません。しかしそれが広がる以前から子どもたちに起きている変化を感じ、そのケアに心を砕いてきたという渡邊先生。
コロナ前からつぶさに子どもたちを観察し続けている先生が、保健室に来室する子から感じ取った気になる変化を話してくれました。
「ひとつは、心に不調を抱える子が多くなったことです。衝動的に怒ったり、物に当たったりする様子も昔より見られるようになりましたし、不登校や保健室登校もある一定の割合であります。
ふたつ目は、体の不調を抱える子も増えたことです。肥満はコロナ禍を経て子どもも増加傾向にありますが、逆にさまざまなストレスから拒食症になって痩せてしまう子もいます。
また、骨折する子も多くなりました。ひと昔前であればすり傷程度で済んだ転倒が、ちょっと手をついただけで指の骨が折れた子もいます」(渡邊先生)
今の子育て世代が小学生だったころは、保健室といえばケガや熱が出たときにお世話になる場所でしたが、現代の子どもたちにとって保健室はそれだけではない、違った役割を持っています。
「ケガや病気の応急手当てを求める子どもがほとんどだったひと昔前とは違い、現在は『何となく』来室する子が増えたように感じます。保健室にやってくる理由はさまざまですが、子どもたちの様子をみて、話をきくと次の傾向があることがわかりました」(渡邊先生)
■保健室に「何となく」くる子どもの傾向
① 体調が充分に整っておらず、寝込むほどの病気とまではいえない子
② 身長や体重、性など発育や発達に悩んでいる子
③ 勉強や進路に悩んでいる子
④ 友人関係、対人関係がうまくいかない子
⑤ 家庭で面白くないこと、あるいは家庭で問題があった子
⑥ 気が弱い、ケンカを起こしがちなど、自分の性格が気になる子
悩みがあるのは変わらないのに保健室にくる子が増えているワケ
渡邊先生が教えてくれた「保健室に何となくくる子どもの傾向」は、昔の子どもにも通じるストレスがあります。
学校に行きたい気持ちが湧いてこなかったり、背が低いことや成長が早いことに悩んでいたり、友達グループの輪に入れなくなった子は当時からクラスの中にいました。それなのに、現在は来室する子が増えているのはなぜなのでしょうか。
「昔は、子どもが悩みを吐き出せる環境があったことが幸いしていると思います。きょうだい同士で悩んでいる子の話を聞いてあげたり、言い合いやケンカをしたりして発散することもあったでしょう。
あるいは祖父母が同居していたなら、おじいちゃん、おばあちゃんを含めた家族の雑談で心が軽くなった子もいたはずです。長い休みには家族親戚が集まり、そのときにいとこのお兄さんやお姉さんと話す機会もあったと思います。そうやってモヤモヤをいろいろな場面で晴らしていたのでしょう。
しかし現在は核家族となり、ひとりっ子の割合も高まっています。さらにコロナ禍を経て、友達はおろか、祖父母や親戚との触れ合いも減っています。
外で思いきり体を動かして遊ぶことも制限されていますし、子どもたちの中にある悩みがなかなか外に発散されないことが心のモヤモヤになり、何となく保健室へ向かう行動になっていると考えられます」(渡邊先生)
ウィズコロナの時代となり、子どものメンタルケアの必要性は以前よりも高まっています。しかし、これは学校だけで対応できるものではありません。
「子どもたちの心と体の健やかな成長のためには、お父さんとお母さんをはじめとした、おうちの方の理解と協力が不可欠です。
どうしたら子どもがコロナ禍という状況でものびのびと育つのか、保健室で得たメソッドをお伝えして、おうちでの子どもたちとのコミュニケーションに役立てていただきたいと思っています」(渡邊先生)