
「きょうだい児」当事者の弁護士が未来に寄せる思い
「きょうだい児」当事者が歩む道のりとは? 新刊『君の火がゆらめいている』(落合由佳・著) (3/3) 1ページ目に戻る
2025.12.05
弁護士:藤木 和子
私の火の原点
最後に、私自身が葉澄と特に重なったのは、進路の場面です。
葉澄の両親は美容師で、家とお店がつながっています。菜々実も「かみのけやさん」になりたいと決めて、毎日三つ編みの練習をしています。そんな環境のなかで、葉澄は「わたしは髪の毛にそれほど興味はないけど、菜々実といっしょに美容師になれば、お父さんもお母さんも喜ぶだろうし、しょうがないか」と思っていました。
私も、父が地元で弁護士をしています。弟に障害があるので、私が弁護士になって家業の跡を継げばみんなが幸せになれると考えていました。
家族を放ってはおけない。けれど同時に、地元を出て自由になりたい気持ちがくすぶります。
そのような複雑な思いがあったからこそ、私は法律を学ぶ中で人の心や人生に関心を持つようになったのかもしれません。そして20代後半、初めてきょうだい会に参加して、「世の中にきょうだい児のことを知ってほしい!」という気持ちが大爆発しました。それが私の活動の原点です。
物語に戻ります。中学生になった葉澄は、恵太が「早く家を出て自由になりたい」と将来の計画を語るのを聞いて、「もし、ちがう未来も選べるのだとしたら。私は、何をしたいんだろう?」と気づきます。悩みながらも勇気を出して親に話しますが、「葉澄には葉澄の人生を、どこまでも自由に生きていってほしい」と力強い言葉が返ってきました。
卒業式の前夜、両親はこれから別々の学校に進む双子の娘たちに、それぞれの将来がどうなるにしても応援するから「気楽にやっていきましょう」と声をかけます。菜々実も「やってみなきゃわかんないんだよ」と自分たちを励まします。
私がずっとほしかったものは、この理解と応援でした。
新しい時代のきょうだい児たちの未来
私がきょうだい会の活動を始めた十数年前は、周囲や世の中はどちらかというと困惑や無関心の方が多かった印象があります。けれど、「重要な課題のはずだ」と自分の火を信じて発信を続けていくうちに、きょうだい児というテーマがテレビや新聞、書籍などでもたびたび取り上げていただけるようになり、理解と応援が確実に増えていきました。今では、両親も弟も、複雑な気持ちはあると思いますが、私の活動をそっと応援してくれています。
全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会(全国きょうだいの会)は、きょうだいの若者たちが新聞の「読者の欄」で呼びかけたことをきっかけに創立されて60年以上続いています。また、この物語の執筆に協力された子ども向けのきょうだい支援の活動をされている東京YMCA障がい児「きょうだい会」、横浜きょうだいの会は20周年を超えました。
ちなみに、横浜きょうだい会代表の諏方智広さんは、私にとってこの物語の「きょうだい会・つなぎび代表倉木さん」のような存在です。全国各地のきょうだい会の活動は、多くの方々の善意のボランティアで続けられてきました。長い間、火を絶やさずにつないできてくださった先輩方に心からの感謝を伝えたいです。
新しい時代のきょうだい児の葉澄と恵太たち。それぞれの火が、これからどんなゆらめきを見せてくれるのか楽しみです。私も物語の登場人物たちに力をもらいながら、自分の火を見つめ直し、未来につなげていきたいと思います。
長い道のりだからこそ、少し肩の力を抜いて気楽にやっていきましょう。





































藤木 和子
手話通訳士。1982年生まれ。東京大学卒業。5歳のときに3歳下の弟の聴覚障害がわかり、“きょうだい児”に。きょうだい児の立場の弁護士として活動し、情報の発信や相談を行う。 「聞こえないきょうだいを持つSODAソーダの会」で代表を務めるほか、「全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会(全国きょうだいの会)」、「シブコト 障害者のきょうだいのためのサイト」などの運営に関わる。 また、ヤングケアラー経験者としても、政府や自治体、学校、団体などのヤングケアラー支援に注力している。 著書に『きょうだいの進路・結婚・親亡きあと』(中央法規出版)、『「障害」ある人の「きょうだい」としての私』(岩波書店)。 ●note 藤木和子 ●聞こえないきょうだいを持つSODAソーダの会WEBサイト ●全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会(全国きょうだいの会) ●シブコト 障害者のきょうだいのためのサイト
手話通訳士。1982年生まれ。東京大学卒業。5歳のときに3歳下の弟の聴覚障害がわかり、“きょうだい児”に。きょうだい児の立場の弁護士として活動し、情報の発信や相談を行う。 「聞こえないきょうだいを持つSODAソーダの会」で代表を務めるほか、「全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会(全国きょうだいの会)」、「シブコト 障害者のきょうだいのためのサイト」などの運営に関わる。 また、ヤングケアラー経験者としても、政府や自治体、学校、団体などのヤングケアラー支援に注力している。 著書に『きょうだいの進路・結婚・親亡きあと』(中央法規出版)、『「障害」ある人の「きょうだい」としての私』(岩波書店)。 ●note 藤木和子 ●聞こえないきょうだいを持つSODAソーダの会WEBサイト ●全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会(全国きょうだいの会) ●シブコト 障害者のきょうだいのためのサイト