「ごはん外来」の患者は、3歳くらいまでの子どもを対象にしていますが、離乳食期を過ぎても子どもの食の悩みは尽きません。
「多くの親御さんが悩まれるのは『子どもの食が進まない』こと。これは、親の食事姿が深く関わってきます。子どもが将来的に食事をして生きていくなかで、どうしても親の食事に対する姿勢がお手本になるからです。
悲しいことに、『子どもの離乳食は頑張って作ってきたけれど、お母さんは台所で残り物を立ってさっと食べているだけだった』なんていうご家庭が多々あります。大人が食卓に座って、自然に食事をする姿を見せていかないと。
子どもは、親が食べている姿を見ることで、ごはんはこうやって食べるもの、食卓って楽しいというイメージがわきますよね。そうでないと、やはり子どもの食事に対する意識に問題が生じてきます」(江田先生)
1歳半以降の食事に対する悩みごとは、親子関係のちょっとしたすれ違いが原因となって起こることもあるという。生活のなかでも、特に食事シーンには顕著(けんちょ)に親子の関係があらわれる、と先生は言います。
親子関係の見直しで食事の時間は変わる
「先日、『自分で食べてくれない』という2歳のお子さんが受診されました。スマホで動画を見せながら、親がスプーンで口へ運ばないと食べられない。お母さんは、こういった状況を打破したいと相談に来られました。このような食事スタイルは、親子にとってストレスですよね。
この時は、お母さんがこの子以外のきょうだいのことで大変な時期で、そういった家庭環境の変化なども背景にあったんですね。でも、いろいろと話を聞いていくと、問題の核は食事ではなく、親と子の関わりにあるなと感じました。当院にはトリプルP(※1)の資格を持っている看護師がいるので、まずはその看護師がお母さんと向き合ってみることにしました」(江田先生)
※1=トリプルP オーストラリアで開発された、親向けの子育て支援プログラム
この看護師はお母さんに、きょうだいの中でこの子だけと過ごす時間を作る、好ましいことをしたら褒めるように心がける、などのいくつかの前向きな親子関係を作るためのヒントを提案。いったん食事の仕方は脇に置いておいて、まず親子関係を再構築することに。
すると、食事へのアプローチはほとんどせずに、3ヵ月ほどでしっかりと自分で食べる子どもに変わることができたと言います。
「大好きだった動画は、食後のご褒美とすることで楽しく意欲的な食事の時間を送ることができるようになりました。このように、食事の問題は、食以外に解決のヒントがたくさん隠れているのです」(江田先生)
子どもの食べ方について相談に来られる方もいるそうです。食べムラがある、遊び食べをする、偏食などがその例です。
「遊び食べをするのも、親たちにとっては深刻な悩みかもしれませんが、子どもの年齢によっては自然なこと。そこまで問題視しなくて良いと伝えています。ずっと遊び食べで困っているご家庭では、親が適切な対応をすれば止むことが多いのですが、このような場合でも、親子の関わり方が根本的な問題だったりします。
食べムラも、子どもの食べ方や食事の時の気分にマイブームがあるというのを親側がもっと理解をして。毎食キレイに完食できればいいのですが、子どもの食事はそうはいかないものです。
一食でバランス良い食事が摂れなかったとしても、1日を通して何となくバランスよく食べられていれば、心配ないと思います。大人でも理想的な献立で食べている人は少ないですよね、きっと」(江田先生)
偏食はただの好き嫌いとは全く違うもの
「あとは、成長した子どもの好き嫌いを、『うちの子は偏食で……』『野菜嫌いで困っている』などと悩まれる親御さんもとても多いですね。でも、大人だって好き嫌いがありますよね? 子どもにだって当然、好き嫌いはあります。
何でも美味しく食べてほしいというのは親側の本心かもしれませんが、嫌なものを食べさせられるのってとっても辛いこと。食の嗜好はちゃんと尊重してあげてほしいと思います」(江田先生)
医学的な偏食の基準は、20品目を食べられるのかどうか。パンはパンでも、食パン、ロールパン、種類別でそれぞれ1品目とカウントします。栄養素にかなり偏りがあったり食べられる食品が少なかったりする場合には、医学的な検査や専門的な支援が必要になってきます。
「医学的にいう子どもの偏食は、口周りへの感覚過敏がある子にも多く見られます。赤ちゃんのときにNICU(新生児集中治療室)で口や鼻からチューブを入れられている期間が長かったりすると、口周りの不快感があって、なかなか口からの食事が摂れないといったケースがあるようです。
また、色や刺激に敏感だったり、触るとべとべとするのが嫌だったりする場合、感覚過敏など発達に特性ある子も多いです。そんな子たちには、食へのアプローチの前に、どのような感覚が不快なのか、逆にどんな感覚を好むのかを探していきます」(江田先生)