手軽に食べられるインスタントフードやジャンクフード。忙しいママやパパの育児を手助けしてくれるものではありますが、濃い味や人工的な味を常食していると、味覚オンチになってしまうおそれも。さらには、塩分や糖質を過剰摂取することになり、将来、生活習慣病を引き起こすリスクも秘めています。
子どもの繊細な味覚をつくるためには、どういった点に気をつければいいのか、講座や書籍を通して「子どもの味覚の育て方」を教える、フードアナリスト・食育スペシャリストの、とけいじ千絵先生にお話を伺いました。
第1回では、子どもの味覚の発達のメカニズムや、幼少期に味覚を育てる重要性について紹介します。
苦味や酸味を嫌うのは本能が原因!
子どもの味覚の特徴を理解するために、まずは味覚の仕組みから説明しましょう。
「味覚」とは、「甘味」「塩味」「うま味」「酸味」「苦味」の5つの基本味を感じること。この5つの基本味は、それぞれ、体に必要な信号を伝える役割を持っています。
「甘味」はエネルギー源になる糖分があることを、「塩味」は体液のバランスを保つミネラルの存在を、「うま味」は筋肉や内臓、ホルモンのもとになるタンパク質の存在を知らせます。これら3つの基本味は、体にとって必要な要素であることを認識させるため、子どもが好む味になっています。
対して、「酸味」と「苦味」は子どもが嫌がる味。「酸味」は食べ物が未熟であることや腐敗していることを、「苦味」は毒が含まれていることを体に伝えています。子どもは、苦いピーマンやほうれん草、酢の物や酸っぱいトマトを嫌う傾向にありますよね。これは人間の本能が、「これは有害だ」と判断しているからなんです。
これらの五味を感じるのは、舌の表面にある「味蕾(みらい)」という感覚器官。この味蕾でキャッチした味の情報は、味覚神経を通って、脳に伝わります。
味蕾は、個人差があるため、苦味に敏感な人、甘味には鈍感な人など、同じ味でも人によって感じる味覚が異なるのです。味覚の感じ方には個性があるといえますね。
味覚のベースは幼少期につくられる
味覚は、3歳頃までに土台ができるといわれているため、この時期の食事は子どもの味覚形成において特に重要です。
味覚の形成には、脳の仕組みが深く関係しています。
人間の脳には、「古い脳」と「新しい脳」の2つがあり、「古い脳」は呼吸や睡眠などの動物的で本能的な部分を、「新しい脳」は言葉などの理性的な部分を司ります。
人間は、赤ちゃんのうちは「古い脳」をメインに使い、3歳頃にこの脳は完成するといわれています。そのため、ちゃんとした味覚は3歳までに身につけることが大切なのです。そうすれば、その後の人生においても、濃い味や人工的な味に違和感を覚えることができたり、微妙な味の違いを認識できたりするのです。
もちろん、3歳以降も「新しい脳」が発達していくので、味を学習していくことで、味覚を身につけられることは可能です。詳しくは、第4回でも説明しますが、小学生でも繊細な味覚が身についたという例はたくさんありますので、ご安心を。
ただ、ある程度の土台が3歳までにできるとわかれば、いかにこの時期の食事が大事なのかわかっていただけるのではないでしょうか。
いま、子どもの味覚が危ない!?
現代の食事には、味覚を鈍麻させてしまうリスクが多く潜んでいるので、注意が必要です。
私たち親世代が子どもだった頃に比べて、良くも悪くも食を取り巻く環境は大きく変化しました。食の多様化で、豊かな食体験ができるようになりましたし、技術の進化により、旬を問わず、一年中野菜が手に入るようになりました。
一方、添加物たっぷりの食品や、ファストフード・ジャンクフードを食べる機会が増加。濃い味やわかりやすい味にしか美味しさを感じられなくなってしまう、つまり、味覚が鈍ってしまうリスクが増えました。
また、塩分や脂肪分が多くなりがちなファストフードやジャンクフードばかり食べていると、将来、生活習慣病を引き起こしかねません。