eスポーツが社会的に大きな注目を集めるようになったとはいえ、勉強やスポーツと比べて、多くの親はゲームの世界をあまり知りません。子どものゲームに対する意識の違いを、どうとらえればよいのでしょうか。
不登校から起業し、ゲームのオンライン家庭教師サービス「ゲムトレ」を提供している小幡和輝さんはこのように語ります。
「実は『ゲムトレ』を始めて、子どもに良い変化があったと話してくれる親御さんが多くいるんです」
いったい、それはどのような変化なのでしょうか。そして、小幡さんが、ゲームを通して世の中に伝えていきたいこととは。
ゲームをする子どもを持つ、すべての親たち必読の回です。
全3回の3回目。#1、#2を読む。
「ゲムトレで変わった!」の声が続々
子どもとゲームとの関わり方を悩んでいる親たちからよく聞くのが「ゲームやっていると攻撃的になるのでは」という心配だと、小幡さんは言います。
「ゲームをしているからキレやすくなるとか、暴言を吐くようになった、という話って昔からありますが、それは本来、ゲームに関係ないことだと思います。
それよりも、むしろどんな環境で誰と一緒にやっているか、が問題です。近所の公園で口の悪いお兄ちゃんと遊んでいたら自然と言葉遣いが悪くなった……、というのと同じです」(小幡さん)
子どもたちは所属するコミュニティのマナーに影響を受けやすいもの。
「『ゲムトレ』に入ってトレーニングを受けることで、暴言がなおってきたという子がいました。トレーナーたちはきちんとした大人なので、ゲーム上でのマナーを理解している。
子どもたちに適した良い環境のなかでプレーをするというのは、今後ゲームと長い付き合いを続けていくなかで大事なことです」(小幡さん)
また、ゲームを通じて子どもが明るくなっていったというエピソードも。
「『ゲムトレ』の生徒のなかには、不登校の子もいます。学校へ行けず、自信がなくて落ち込んでいたけれど、ゲームで自信をつけて、『ゲムトレ』で友達ができた。ゲームが子どもの世界を切り開いていく、ひとつのきっかけになればいいなと思います」(小幡さん)
ゲームのスキルが上達したという声はもちろん多いですが、アップするのはゲームの腕前だけにとどまりません。
「単純にフォートナイトのランキングが上がった、という成果から、パソコン操作の知識が格段に上がったなど、知識やスキルの上達を喜ぶという声も多いですね。
『ゲムトレ』でゲームを教わったことで、学校の成績があがったなんてエピソードもありました。『ゲムトレ』と成績の因果関係ははっきりわかりませんが……。
でも、実際にドイツの大学で行われた実験では『ゲームをすることで、脳の容量がアップする』という研究成果(※1)もあるんですよ」(小幡さん)
※1=ドイツ・ベルリンにあるマックスプランク人間発達研究所と、CHARITE大学が行った研究。「スーパーマリオ64」を1日30分間プレーしてもらうグループと一切プレーしないグループの2つを用意し、2ヵ月後にMRIで脳の変化を観測。その結果、プレーを続けたグループは、しなかったグループに比べて、脳の記憶形成、空間的定位、戦略的計画、微細運動技能に関連する領域が拡大することが明らかになった。参考:マックスプランク人間発達研究所
ゲームをやるとどうなるのかは愚問
ただ、こうした親子の声を聞きながらも、「ゲームをすることで何になれるのか、どうなるのかを求めてくるのは見当違い」と小幡さんは言います。
「利用者さんのエピソードで、『ゲムトレ』を始めて子どもに良い影響があったという話を聞くのはうれしい。でも、これはあくまで結果論に過ぎません。
親御さんが子どもに、学びがあることを前提としてゲームをさせるものではないと強く思うし、僕たちも『こんな効果が認められますよ』というスタンスでやっていません」(小幡さん)
子どもたちがゲームを習う動機は、単純にゲームが上手くなりたいというものがほとんどです。
「上手くなりたい、強くなりたいという子どもたちに向けて、僕たちはただ、ゲームの技術を教えている。習い事をはじめる動機って、そういうシンプルなものでいいじゃないですか。
親御さんの方がそれに付加価値をつけようと必死で、『ゲームをすると、一体どんな(良い)効果があるのか』ということを聞いてきますね」(小幡さん)
トレーニングを受ける子どものなかには、ゲームの大会に出場することを目指している子もいますが、「ゲムトレ」はプロ育成の場ではないとも言います。
「近年、eスポーツという言葉が出てきたり、プロゲーマーの存在も広く知られてきている。なので、『どうせゲームをやるなら、プロにさせたい!』という熱い心意気の親御さんもいます。
でも、プロゲーマーは、超狭き門ですから。プロにならなければ意味がない、という意識でゲームをやらせるのは間違いです。
野球を習わせているすべての親御さんが、子どもをプロ選手にさせようと思っているわけではないですよね。結果として、プロ選手になれなかったら『じゃあ、野球を習っていたのはムダだったね』という親御さんは少ないと思うんです」(小幡さん)
ほかの習い事と同じ土俵で考えると、確かにまずは子どもたちが楽しんで取り組めることが何よりも必要。そしてその習い事による成果や結果より、取り組む姿勢や過程が大切ということもよくわかります。
「ゲームを頑張っていたら、ちゃんと何かしらにつながっているということは伝えていきたい。でもその《何か》は子どもたち自身が見つけていくものなんじゃないでしょうか」(小幡さん)
親も一緒にやってみる!
では、ゲームをする子どもたちに、親はどう関わっていけば良いのでしょう。
「ゲームを批判する親御さんは、子どもと一緒に一度やってみたらいいと思いますよ。ゲームって、親御さんがわからないから評価しづらいという課題があるんです。
野球でカーブを投げられるようになったら、野球をしない親御さんでも『すごい!』ってことがわかるし、この子は努力したんだなと評価することができる。
ゲームだと、どんなにゲームのなかで頑張っていても、可視化されにくい。子どもたちがどれだけすごいことやっているのか、わからないことが一番の問題なんです。
だから、親御さんもやったほうがいいと思いますよ。どれくらい難しいことなのか、やらないとわからないので」(小幡さん)
親がわからないしできないのに、頭ごなしに子どものゲームを否定するのは絶対にしてはいけない、と小幡さんは語ります。
「自分は本気で取り組んでいるのに、ゲームをやらない親から『そんなことしてないで勉強しろ!』なんて言われたらムカつきますよ。
でも、一緒にゲームを楽しんでくれる親に、『今はちょっと勉強しよう』って言われたら、言うことを聞く気になるんじゃないですかね」(小幡さん)
子どもと一緒にプレーしてみることで「子どもがゲームで何を頑張っているのか」を知り、関係性を深めることができるのかもしれません。