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“ホスピス”の名が嫌だった
玲花ちゃんは一度ははるぽんのように寛解したものの、わずか約半年で病気が再発。頭蓋骨や大腿骨など全身への転移も進み、3月には主治医から「これ以上の治療法が見つからない」と告げられます。
両親は玲花ちゃんを退院させ、在宅医療に切り替えながら、玲花ちゃんが「行きたい」と言う場所に連れていき、「やりたい」と思うことを全部やらせてあげようと決めました。
そんなタイミングでの、はるぽんからのプロポーズ、まさにビッグプレゼントだったのです。
玲花ちゃんが両親と一緒に、横浜市金沢区にあるこどもホスピス「うみとそらのおうち」、略して「うみそら」に初めてやってきたのは、3月23日(2024年)でした。母親の愛美さんはこう振り返ります。
「実はずっと前から、うみそらさんの存在は知っていました。それでも『ホスピス』という施設の名前に抵抗を感じて、ずっと行かずにいたんです。でも実際に来てみて、従来の『ホスピス』のイメージなんて全然なくて、びっくりしました」
両親は、玲花ちゃんの病気が判明したときから、ネットでうみそらのことを知っていたものの、「まだ玲花は元気だから」と考えていたそうです。その施設が医療機関でないことは分かっていましたが、「ホスピス」という言葉から、末期がん患者が痛みを緩和しながら終末期を過ごすための施設、というイメージがつきまとい、積極的に訪れる気持ちになれずにいたそうです。
しかし玲花ちゃんが余命宣告を受けたため、在宅医療に切り替える際に、主治医にうみそらについて相談しました。そして実際に訪れてみて、イメージは一変したといいます。
初めてのお泊まりで「100回行きたい」
川のほとりに立つ2階建ての施設は、外壁は優しいクリーム色に彩られ、建物を覆うガラス窓には、ジンベイザメやチョウチョウウオなどの魚たちのイラストが描かれています。
中に入ると、大きな室内ブランコが出迎え、家族みんなで料理が楽しめる対面型キッチンや、子どもたちの工作やお絵描きを応援してくれるカラフルなテーブルもあります。2階に上がると、家族みんなで入れる大きなお風呂や、家族が並んで眠れる宿泊部屋があり、別荘かホテルのようです。
玲花ちゃんはまず室内ブランコがとても気に入り、特等席のようにブランコに陣取り、天井にぶつかりそうなほど大胆に揺らして遊んでいました。そして両親と二人の兄と、家族全員でお風呂に入って、おおはしゃぎだったそうです。父の文弥さんが振り返ります。
「ものごころついてからは、玲花にとって初めてのお泊まりだったんです。大きなお風呂が本当に大好きで、お兄ちゃんも一緒に入って。すごく楽しかったです」
愛美さんも、「初めてうみそらを利用した帰りの車で、れいちゃんは『お泊まり100回行きたい』と大喜びでした。喜んでくれて私も嬉しかったですが、同時に『なぜもっとここに早く来なかったんだろう』と、心底後悔しました」
七五三も結婚式も「やりたいこと」は全部やろう
玲花ちゃんとはるぽんが結婚式を挙げたのは、4月9日でした。
高松さん夫婦が玲花ちゃんのためにうみそらの利用を始めるうえで、うみそらのスタッフが玲花ちゃんと家族の「やりたいこと」をすべて、聞き出していました。
「まず七五三をやりたいと伝えました。髪の毛を伸ばしたけれど、抗がん剤の影響で抜けてしまってできずにいたので。それからプロポーズの話もしたら、うみそらさんにはメークアップアーチストや着付け、写真のプロの方々がボランティアで来てくれるから、『両方ここでやりましょう』と、力強く即決していただきました」
はるぽんのママさんは、おそろいのドナルドダックの衣装を持参してくれました。実はプロポーズの後、もう一度みんなでディズニーランドに行く予定でいましたが、玲花ちゃんの体調が悪くなり、叶わなかったのです。
うみそらスタッフは地域のケーキ屋さんにお願いして、ウエディングケーキを用意。当日は双方の家族に加え、お世話になった順天堂大学病院の保育士や心理士も駆けつけました。
この日は午前にまず玲花ちゃんの七五三の準備と記念撮影があり、午後から結婚式という忙しい一日でした。両親は玲花ちゃんの晴れ姿を心に焼き付けるように、夢中で写真を撮りながら、全身全霊で幼い二人の結婚を祝福しました。
「お化粧も着付けも初めての体験で、れいちゃんの笑顔が素晴らしかった。病院でも自宅でも見たことがないほどの笑顔があふれてて」と愛美さん。
「またこの素晴らしい時間に戻りたいなって、いつもいつも思っています」
この結婚式からひと月半後の5月31日。玲花ちゃんが、空へと旅立って行きました。
家族でうみそらに宿泊した、5日後のことだったそうです。