〔竹富島〕天然記念物のカメから危険生物サソリまで! 喜ぶ子ども&おびえる母

首都圏から竹富島へ移住! 島暮らしの子育てと学び【03】

片岡 由衣

動物園がなくても本州では見られない生き物にいっぱい出会える

ある日、私が1人で歩いていると、カメがゆっくり歩いていました。なんだかかわいく思えて、動画と写真を撮り、しばらく後をついて行きました。帰宅して図鑑を開くと「ヤエヤマセマルハコガメ」という天然記念物! 子どもたちに「こんなカメを見かけたよ〜」と自慢すると、「見てみたい!」とうらやましがっていました。

別の日に、娘と散歩をしていると「ジュースを買って〜〜〜!」と泣きやまないことがありました。なだめながら家の近くまで歩いてくると、目の前に「ヤエヤマセマルハコガメ」が。「カメだ‼︎」娘がぴたっと泣きやみ、ちょうど家にいた長男と次男も呼び、みんなでカメが林の中へ入っていく様子を見守りました。カメに娘のカンシャクを助けてもらえたのです。

国指定の天然記念物で、絶滅危惧種の「ヤエヤマセマルハコガメ」。竹富島のほか、石垣島や西表島に生息している
写真提供:片岡由衣

4〜5月になると、一度聴いたら忘れられないほど個性的な鳥の鳴き声が聞こえてきます。高い音で巻き舌をしているような声を発するのは「リュウキュウアカショウビン」。クチバシまで真っ赤な鳥で、鳴き声は聞こえてもなかなか姿は見られません。

沖縄では冬の終わりから梅雨に入る頃を「うりずん」と呼ぶと教わりましたが、移住して2年経った今では、アカショウビンの鳴き声が聞こえてくると、「うりずんの季節だな」と季節の変わり目を感じます。

飛ぶよりも走る方が得意で、ちょこちょこと動き回る姿がかわいい鳥「シロハラクイナ」や、タカの仲間で天然記念物の「カンムリワシ」を見かけることも。島の子どもたちはこうした生き物の名前をよく知っています。そして、むやみに触ろうとはしません。野生生物との距離感を、教わらなくとも悟っているようです。

砂浜でヤドカリを競走させている。3時間以上夢中で遊び巨大なコースができた。
写真提供:片岡由衣

夜にドライブしていると、大きなヤシガニを見かけたこともありました。もちろん、海へ行ってもカニやヤドカリなど生き物を見かけます。ヤギやウマ、牛を飼育している人もいて、動物園や水族館はなくとも、島内を散策するといろいろな生き物と出会います。

もともとお絵描きが好きだった子どもたちですが、竹富島に来てからは、さらにたくさん描くようになりました。家でも学校でも、実際に見た生き物や自然の絵を描いています。絵の迫力や色の使い方を見ていると、色彩や観察力などが育まれているのかもしれません。

夕日の名所「西桟橋」にて、エイがやってきたこともありました。透明度の高い海ゆえ、上からのぞくだけでその姿がわかります。
写真提供:片岡由衣

「私の家に虫が入った」ではなく「虫の棲み家に私が入った」

引っ越したばかりの頃、よく部屋の中に、直径10cmくらいの巨大なクモが出てきました。ママ友に話すと、「クモは虫を食べてくれるし被害はないからほっておくよ」とのこと。わかっていても、部屋で見かけては震えていました。ふと、移住から2年経ち、近頃はほとんど見かけていないと気づきます。お互いにテリトリーができてきたのかもしれません。

「夜はハブが石垣から出てくることがあるから、灯で照らしながら歩いた方が良いよ!」
「ムカデが家の中にいたの」 「サソリを庭で見かけたわ」
と、生き物についてのエピソードを聞くたびにめまいがしそうでした。それでも、世間話としてどこか楽しそうに話しているママ友たちにも驚きです。

「キョキョキョキョ!」と、なんだかわからない鳴き声は、ヤモリ。ヤモリは漢字で「家守」と書きます。家を守ってくれると考えられ、虫を食べるため、これまた放っておく人が多いとか。今ではヤモリはすっかり慣れ、かわいいなあと思えるまでになりました。

都会で暮らしているときは、「自分たちの生活圏内に虫が入り込んでくる」感覚でした。島で暮らし始めても、外ならまだしも、室内にまで生き物が入り込んでくるのはしんどいな……と正直、感じていました。

ところが、島の方から「いやいや、生き物がいるところに人間(自分)たちが入ってきているんだから」と聞いたときに、ストンと腑に落ちたのです。ここは国立公園に指定されているくらい、自然豊かな場所。生き物がたくさんいるのは当たり前で、私たちはあくまでもその中に住ませてもらっていると考えたほうが良いのです。

とはいえ、シロアリが出たり、毛虫に刺されて息子のお腹や私の腕に発疹が広がったり、といった小さな事件も日々起こります。やっぱり、できるだけ家の中に入ってくるのは遠慮してもらいたいなあと思うのでした。

そのほかにも、島の暮らしでは想像していなかった不便さがありました。生活を整えるのに時間がかかったり、慣れてきた頃に寂しさを感じたり。そのエピソードは次回でお話しします。

(左)石垣島のバンナ公園にある「世界の昆虫館」。昆虫採集が趣味だった館長自ら集めた標本をもとに作られた施設で、長男も夢中に。八重山に生息する生き物について詳しく教えてもらいました。
(右)次男が学校の授業で描いた絵。イリオモテヤマネコとヤシガニとアカショウビンの姿。地域の絵画コンクールで賞をもらった。

写真提供:片岡由衣

島暮らしから学んだこと

・生き物たちから季節の移り変わりを感じ取れる

・希少生物にはむやみに触らないのが暗黙のルール

・暮らしながら生き物との距離感を学んでいく

・豊かな自然のなかで子どもは感性を育んでいる

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かたおか ゆい

片岡 由衣

ライター

ライター。東京都出身、竹富島在住。東京学芸大学卒業後、リゾート運営会社にて広報やイベント企画に携わる。3人子育ての発信を続けるうちにライターへ。 積み木オタクで、おもちゃや絵本に囲まれた児童館のような家で暮らしている。いつも片付かないのが悩み。 朝日新聞社「おしごとはくぶつかん」や小学館「kufura」など、メディアや企業サイトで取材記事やコラムを執筆中。 Instagram Twitter

ライター。東京都出身、竹富島在住。東京学芸大学卒業後、リゾート運営会社にて広報やイベント企画に携わる。3人子育ての発信を続けるうちにライターへ。 積み木オタクで、おもちゃや絵本に囲まれた児童館のような家で暮らしている。いつも片付かないのが悩み。 朝日新聞社「おしごとはくぶつかん」や小学館「kufura」など、メディアや企業サイトで取材記事やコラムを執筆中。 Instagram Twitter