「寝たい」だけの理由でもいい! 性教育YouTuberが提案する「産後ケア銭湯」とは
話題の産後ケアサービス&施設特集第2弾 #2 助産師・性教育YouTuberシオリーヌさんに聞く「産後ケアサービス」~産後ケア銭湯編~
2023.11.29
助産師・性教育YouTuber:シオリーヌ
赤ちゃんを育てていると、ゆっくりお風呂に入ったり、自分の時間を過ごしたりすることは難しい。その悩みを解消してくれるのが、産後ケアサービスです。
助産師で性教育YouTuberのシオリーヌさんが代表を務めるRine(リーヌ)では、神奈川県藤沢市にある温泉施設にて、毎月第4月曜日に「産後ケア銭湯」を開催。
開催日には、施設に助産師や看護師が出張し、赤ちゃん預けられるうえ、育児相談もできるとあって、産後のママパパから人気を集めています。
産後ケア施設連載2回目では、シオリーヌさんに、産後ケア銭湯を始めた経緯や、今後の展望についてお聞きました。
(産後ケア施設の連載は全4回。1回目を読む)
シオリーヌ(大貫詩織)
助産師・性教育YouTuber。総合病院産婦人科、精神科児童思春期病棟で勤務ののち、全国の学校や企業で性教育に関する講演・イベントの講師を務める。性教育YouTuberとして性を学べる動画を配信中。2022年10月株式会社Rineを設立。2023年、地元にて産後ケア銭湯を開始。
自分へのごほうび感覚で利用できる産後ケアサービスを
シオリーヌさんが手掛ける「産後ケア銭湯」は、神奈川県藤沢市の温泉施設「湘南台温泉らく」にて月に1回開催されています。
おむつやミルク、哺乳瓶などひと通りのお世話用品が揃っているので、ママやパパは手ぶらで利用可能。助産師に赤ちゃんを預けて、自分の好きなように過ごすことができるうえ、日帰りという気軽さも相まって、現在は予約がすぐに埋まってしまう人気ぶりです。
シオリーヌさんも、2022年の夏に第1子を出産した際、自治体・民間を含めた産後ケアサービスを利用しました。その必要性を実感する反面、それぞれの課題にも気づいたと言います。
「自治体の産後ケアサービスの場合、利用条件などは地域によって異なります。例えば、産後1年未満の母子であれば誰でも利用できる地域もあれば、多胎育児中や周囲に頼れる人がいない場合など、条件を細かく設定している地域もあります。
私が自治体の産後ケアサービスの申し込みをしたときの話なのですが、助産師さんから電話がかかってきて、『お母さん、そんなにつらいですか?』と聞かれました。『ただ寝たいだけなんです』と答えましたが、うまく伝わっていなかったのか、何回も同じことを聞かれてしまって。
そのやりとりを繰り返して、ようやく理解してもらえましたが、よほど大変な状況でないと利用しちゃいけないようにこのときは感じましたね」(シオリーヌさん)
自治体や担当する助産師によって、対応は異なるため一概には言えませんが、このようなやりとりがあると利用することをためらってしまうママもいるのではないか、とシオリーヌさん。
「自治体のサービスはホームページが見づらく、書かれている説明もわかりにくいことが多い。そこから文章を読解して、電話や事前の面談を乗り越えて、やっと利用できるんです。
それができないくらい、心も体も疲れ果てているから産後ケアを必要としているのに……と、いつも歯がゆい気持ちになっています」(シオリーヌさん)
一方、民間のサービスは、対象年齢の子どもとその親であれば、理由に関係なく利用できます。
「産後ケア施設の相場は、1泊5~6万円くらいします。でも、助産師や看護師などの有資格者が24時間体制で子どもを見てくれて、宿泊もできることを考えると、決しては高くはないと思うんです。
実際、私も産後ケア施設を利用したとき、子どもを預けるたびに、自分が元気になるのを実感しました。
ただ、これから子育てでお金がどんどんかかる中、自分の睡眠確保のために6万円を払えるというと、正直できるかどうか……」(シオリーヌさん)
シオリーヌさんが代表を務めるRineが、2022年9月19日~10月2日に妊娠中〜産後1年の女性5526人に行った「産後ケア意識調査」からも、実態を把握することができます。
調査によると、産後ケアの認知度は全体の約75%。多くの妊産婦が産後ケアを知っていることがわかるものの、実際の利用率は14.6%とぐっと下がります。利用の障壁としてもっとも多い回答は、やはり費用面でした。
「お母さんがしっかり休めて自分だけの時間を持てるようなサービスを、『自分へのごほうび』と思えるぐらいの額で実現できないかと考えました。
そこで思いついたのが、お母さんたちに1ヵ所に集まってもらって、そこに助産師が出張すればいいのではないか、と。そうすれば、助産師の人件費を何名かの利用者で割り勘でき、利用料金も抑えられますよね」(シオリーヌさん)
開催場所を探していたシオリーヌさんに、「ぜひうちでやってください」と声をかけてくれたのが、産後ケア銭湯の会場である「湘南台温泉 らく」の代表の方でした。
ママたちが笑顔で帰ってくれることがうれしい
産後ケア銭湯は、2023年11月時点で計6回開催されました。利用は子どもの生後4ヵ月までですが、限られた期間の中で、複数回利用するママもいるといいます。
「『来月で4ヵ月ですが、まだギリギリ大丈夫ですか?』と聞いてくださった方もいて。このサービスをそこまで必要としてもらえるのはすごくうれしいですね。
ほかにも、『一人でゴロゴロしながら漫画を読んだのなんて、産後初めてです!』と声をかけてくれるママもいました。利用者のみなさんがニコニコして帰っていく姿を見ると、やって良かったと思います」(シオリーヌさん)
温浴施設の一部を借りて運営しているため、パートナーやきょうだいと一緒に訪れる利用者もいます。利用の際は事前予約が必要ですが、生後4ヵ月までの赤ちゃんを育てている人であれば、ママに限らず誰でも託児を利用できます。
シオリーヌさんは、今後拡充したいサービスもあると言います。
「現在は安全面を考えて、生後4ヵ月までの赤ちゃんとその保護者を対象としています。でも私自身は、赤ちゃんが寝返りやハイハイを始めるけど、預け先が減ってしまう生後4ヵ月以降が大変に感じました。ベビーサークルの購入や保管場所などの課題はありますが、ゆくゆくは、1歳ごろまで利用できる年齢の幅を広げたいですね」(シオリーヌさん)
助産師のセカンドキャリアにもつながる
現在、産後ケア銭湯は「湘南台温泉 らく」のみで開催しており、利用者の多くは、近隣に住むママたち。一方、シオリーヌさんのYouTubeチャンネルやSNSなどで、産後ケア銭湯の存在を知った人から、ほかの地域での開催を望む声が届いているといいます。
シオリーヌさんは、「産後ケア銭湯を全国に広げたい」と考えていますが、人件費や物品の購入費など現時点で抱える課題もあり、現在クラウドファンディングで運営資金を募っています(2023年11月30日まで)。
「産後ケア銭湯は私を含めて毎回6名のスタッフで運営していますが、そのほとんどが無償で働いてくれています。やりがいを持って働くことは素晴らしいですが、ボランティアのままでは、持続可能な運営方法とは言えません」(シオリーヌさん)
シオリーヌさんの元には、助産師からの「手伝いたい」という声も多く寄せられます。
「病院に勤務していると、助産師にできることは限られています。私が以前勤務していた病院では、夜勤になると助産師一人で30人のお母さんを見ていました。当時は、赤ちゃんの様子を確認するだけで精一杯。夜中に泣いているお母さんがいても、ゆっくり話を聞くこともできませんでした。
当時の私と同じように、お母さんとゆっくり話をして、前向きに赤ちゃんとかかわれるようにサポートしたいと考えている助産師は、じつはとても多いんです。そういう意味では、この産後ケア銭湯は、助産師のセカンドキャリアの選択肢の一つにもなるのではないかと思っています」(シオリーヌさん)
それぞれの声に応えるには、運営費を集め、スタッフに対価を支払うことが先決だと話します。
「産後ケア銭湯がうまく運営できるようになれば、全国の助産師さんたちにもその方法を共有でき、全国に広げられます。そうやって、お母さんたちが頼れる場所を増やしたいと思っています」(シオリーヌさん)
最後にシオリーヌさんから、赤ちゃんを育てるママパパにメッセージが。
「金銭面のハードルもあるし、さまざま事情もあるから、すべての方に『産後ケアサービスをどんどん使ってください』とは言えません。ただ、自分たちのケアにお金をかけることは子どもたちのためにも大切なことなので、利用することに罪悪感を抱かないでほしいと伝えたいです。
とはいえ、お母さんだけに変化を求めるのではなく、『寝たい』だけの理由で子どもを預けていいという文化を作っていくべき。『産後ケア銭湯』も気軽に利用してほしいですね」(シオリーヌさん)
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取材・文/畑 菜穂子
シオリーヌさん産後ケア施設インタビューは全2回。
1回目を読む。