ハロウィンを楽しもう! 心底震えあがろう! 人気ミステリー作家の最恐児童書『ホロヴィッツ ホラー』には、ダークでスパイスの効いたヒントがたくさん!

怪奇幻想ライターが提言。 ハロウィンは家族いっしょにドキドキ体験を‼

怪奇幻想ライター:朝宮 運河

写真:アフロ)

ハロウィンの起源は諸説ありますが、主に英語圏で、魔女やヴァンパイアなどに仮装して楽しまれていました。日本でも25年くらい前から盛り上がり始め、いまや一大イベントとなりました。

仮装するだけでなく、暗い世界をのぞきこむような、少しスリルを感じられる体験ができるのが、人気の一因といえるでしょう。

10月31日の夜は、家族で怖い話をしてみるのはいかがでしょうか? 親子でドキドキが共有できれば、きっと楽しく忘れられないイベントになるはずです。

今もっとも新作が待ち望まれている作家

今年もハロウィンが近づき、街中のショーウィンドウには賑やかなおばけの飾りつけが見られるようになってきた。ハロウィンにおばけがつきものなのは、ヨーロッパの古い信仰でこの日に先祖の霊が帰ってくるとされているから。ちょうど日本のお盆にあたるお祭りが、10月31日のハロウィンなのだ。

 そんな時期にぴったりの児童書が、10月6日に発売された。アンソロニー・ホロヴィッツの『ホロヴィッツ ホラー』(田中奈津子訳、講談社)がそれだ。
 
ホロヴィッツといえば、国際的に評価されているイギリスのミステリー作家。日本でも絶大な人気を博しており、2018年に邦訳された『カササギ殺人事件』は「このミステリーがすごい!」の第1位に選ばれるなど、各種ミステリーランキングの首位を独占した。その後も『ヨルガオ殺人事件』や『メインテーマは殺人』などの話題作を連発。今もっとも新作が待ち望まれている海外エンタメ作家、といっても過言ではない。

10代の少年少女たちに限定された主人公

『ホロヴィッツ ホラー』はそんな超人気作家のホロヴィッツが、児童向けのホラーに挑んだ短編小説集だ。9つの物語の主人公はいずれも読者の年齢層に合わせ、10代の少年少女に設定されている。ただし、“甘口”のホラーは1編も含まれていないのでご注意を。児童書ながら大人のミステリー&ホラーファンも満足させてくれる、ダークでスパイスの効いた一冊になっている。
 
たとえば冒頭の「恐怖のバスタブ」は、19世紀の古いバスタブにまつわる物語だ。主人公のイザベルは父親がアンティークショップで買ってきたバスタブが気に入らない。バスルームで不気味なものを目にして以来、入浴を避けていたイザベルだったが、ついにそのバスタブを使うことになって……。
 
イザベルを悩ませる悪夢のようなイメージと、救いのない結末にダブルショックを受ける衝撃作。お風呂という誰もが無防備になる空間を舞台にしているのが、怖さをいっそう引き立てる。
 
続く「殺人カメラ」の主人公は、父親の誕生日プレゼントのために中古のカメラを手に入れたマシュー。ところがそのカメラには、写したものの命を奪う不思議な力が備わっていた。秘密を知ったマシューは家族の命を救おうと奔走する。「恐怖のバスタブ」と同じく呪物(いわくつきの物)を扱った王道のホラーだが、そっちからくるのか! というひねりの効いたオチが鮮やかで、ミステリー作家として手腕がいかんなく発揮されている。

ハロウィンのストーリーも掲載されています。(写真:アフロ)

「深夜バス」はまさにハロウィンの夜が舞台のホラー。いとこの家で開かれたハロウィンパーティに出かけたニックとジェレミーの兄弟。しかしその帰り道、深夜のロンドンで乗り込んだバスの様子がなんだかおかしい。気味の悪い乗客たちは、仮装したニックたちを同類と思い込んでいるらしいのだが……。

「その先はどうなるの!?」と子どもが身を乗り出した

この作品に限らず、ホロヴィッツは子ども時代に特有の不安感や孤独を描くのが実に巧みだ。そしてその暗い感覚が、物語に言いようのないサスペンスを生み出している。大人が読んでもドキドキさせられるのだから、同世代の読者にとってはまったく他人事ではない怖さだろう。
 
その他にも、もし競馬の結果が分かるパソコンがあったら?(「スイスイスピーディ」)、もしおばあちゃんの住む田舎で迷子になったら?(「田舎のゲイリー」)、もし何でも願いが4つ叶うアイテムが手に入ったら?(「猿の耳」)などなど、魅力的なアイデアのホラーが満載。もともと児童文学ジャンルのヒットメーカーだった作者だけに、読者の関心をラストまで惹きつけるストーリーテリングは堂に入ったものだ。実際、本書収録作のあらすじを私の子(小学2年生)に話して聞かせたら、「その先はどうなるの!?」と身を乗り出して聞き入っていた。

中にはかなり悲惨な結末を迎える作品もあるが(たとえば「ハリエットの恐ろしい夢」はトラウマ級かも)、不思議と後味は悪くない。むしろ痛快なカタルシスを漂わせているのが本書の大きな特徴。その絶妙なバランス感覚に、ホロヴィッツの児童作家としての良心とサービス精神を感じて嬉しくなった。

“楽しい怖さ”にだれもが満足ができるはず

それにしてもなぜ人は怖い話を好むのだろうか? さまざまな理由が考えられるが、もっともシンプルな答えは“楽しいから”だろう。見えない世界に思いを馳せ、ハラハラドキドキの展開に息を吞む。それは想像力をもつ人間にだけ許された、安全で刺激的な娯楽なのだ。

『ホロヴィッツ ホラー』はそんな“楽しい怖さ”が詰まったホラー短編集である。怖いものや不思議なものが好きな方なら、年齢問わずきっと満足ができるはず。親子で「どれが怖かった?」と感想を話し合うのも楽しいだろう。活字のホラーで今年のハロウィン気分をさらに盛り上げてほしい。

『ホロヴィッツ ホラー』  アンソニー・ホロヴィッツ作  田中奈津子訳
あさみや うんが

朝宮 運河

Unga Asamiya
怪奇幻想ライター

1977年北海道生まれ。得意分野であるホラーや怪談・幻想小説を中心に、本の情報誌「ダ・ヴィンチ」や怪談専門誌「怪と幽」、朝日新聞のブックサイト「好書好日」などに書評・ブックガイドなどを執筆。小説家へのインタビューも多数こなしている。編纂アンソロジーに『家が呼ぶ 物件ホラー傑作選』(ちくま文庫)など。ホラー児童書『てのひら怪談 こっちへおいで』(ポプラ社)の編者も務める。

1977年北海道生まれ。得意分野であるホラーや怪談・幻想小説を中心に、本の情報誌「ダ・ヴィンチ」や怪談専門誌「怪と幽」、朝日新聞のブックサイト「好書好日」などに書評・ブックガイドなどを執筆。小説家へのインタビューも多数こなしている。編纂アンソロジーに『家が呼ぶ 物件ホラー傑作選』(ちくま文庫)など。ホラー児童書『てのひら怪談 こっちへおいで』(ポプラ社)の編者も務める。