米バチェルダー賞受賞作家『霧のむこうのふしぎな町』柏葉幸子と本屋大賞ノミネート作『レーエンデ国物語』多崎礼が互いに受けた「衝撃」

ファンタジー好き必見! 作家のスペシャル対談 前編

柏葉幸子さんは、40年以上ファンタジー小説を描き続けるベテラン作家。デビュー作『霧のむこうのふしぎな町』は、宮崎駿監督の映画『千と千尋の神隠し』に影響を与えたことで有名です。

柏葉さんは2024年1月『竜が呼んだ娘1 弓の魔女の呪い』を刊行されました。本作は人気シリーズ『竜が呼んだ娘』に加筆、修正を加えた新装版。竜や魔女が生きる世界を舞台にした、ハイファンタジー長編の第1巻です。

そんな柏葉さんと、同じく長編の幻想小説を描く多崎礼さんのスペシャル対談をお贈りします。多崎さんは2023年に大長編『レーエンデ国物語』を3巻立て続けに刊行。国を起こすまでの壮大で緻密な物語が読者の胸を打ち、本屋大賞にノミネートされるなど高い評価を受けています。

前編では、柏葉幸子さんが2024年に新装版として発売する『竜が呼んだ娘』と、2024年に続刊の刊行を予定している多崎さんの『レーエンデ国物語』について、お互いが聞きたいことを根掘り葉掘りインタビュー。作品を読んで感じたことや、作品の描き方などについて、トークしていただきました。

柏葉「小説は、結末を考えずに楽しみながら書きます」

多崎礼さん(以下多崎、敬称略):本日は、柏葉先生にお伺いしたいことがいっぱいあります。『レーエンデ国物語』では、帯コメントをいただき、ありがとうございました。「魅せられた」とコメントをいただき、大変恐縮しております。

柏葉幸子さん(以下柏葉、敬称略):こちらこそ、多崎さんとお話しするのを楽しみにしていました。自分がファンタジーを書くようになってからは、空想の小説をあまり読んでこなかったのですが、『レーエンデ国物語』は没頭して読みました。

多崎:ありがとうございます。新装版を出された柏葉先生の『竜が呼んだ娘』も、夢中で読みました! このお話は、どのような構想で描かれたのですか?

 『竜が呼んだ娘1 弓の魔女の呪い』主人公ミア

柏葉:私は構想やプロットをつくりません。『竜が呼んだ娘』は、谷底の村で暮らす少女ミアが、竜に呼ばれて王宮に行き、成長する物語にしたいと思って書き始めました。設定を決めてからは、楽しんで書いているうちに、書き終わっていることが多いです。

もともとは2017年に、朝日小学生新聞に連載していたのですが、縁あって再出版することになりました。画家の佐竹美保さんが描いてくださった挿画も大きく、また表紙も改めて描き下ろしてくだって、贅沢な仕様になっています。

多崎:『竜が呼んだ娘』は児童文学ですね。主人公ミアの成長物語にも感動しましたが、何より大人の描写に噓がなくて好きです。ミアの育ての親である「二のおば」は、物語を読み進めていくにつれ、自分の叶えられなかった夢をミアに託したことがわかり、じわじわと怖くなりなりました。ネタバレになってしまうので詳しくは言えませんが、ミアを捨てた母親の描き方にも、リアリティがありますよね。

ミアと育ての親「二のおば」

柏葉:たしかに『竜が呼んだ娘』は、ミアの周りにいる女性の生きざまも大切に描きました。母親にとって、子どもは命に等しい存在です。その子どもと何らかの理由で離れ離れになったときの、強くて繊細な女性の心を描きたかった。私はこの設定が気に入っていて、じつは他の物語でも、子どもと離れた女性の物語を描いたことがあるんですよ。

多崎「国を起こす物語の執筆に8年間を費やしました」

多崎:柏葉先生の作品は人の描写だけじゃなく、妖怪や竜、魔女など、この世に存在しないものもリアルに描かれています。もしかして、見たことがあるんじゃないかなって、今日お伺いしようと思っていたんですよ。

柏葉:いえいえ、幻想的な世界への憧れは強いですが、見たことはありません。リアリティと言えば、多崎さんが『レーエンデ国物語』で恐ろしい病として描いた「銀呪病(ぎんしゅびょう)」も、銀の魚が目の前にゆらゆらと見えるようでした。

『レーエンデ国物語』は、2023年の6月に1巻目、8月に2巻目、10月に3巻目と刊行していますよね。どの本も厚くて、2巻は600ページを超えていますが、どれくらいの時間をかけて描かれたのですか?

多崎礼『レーエンデ国物語』

多崎:構想期間も含めると、8年の時間を費やしました。最初は編集者さんに「大河ドラマのような長編で、国が滅びるお話を書いてみませんか」と提案されたんです。滅びるよりは、国を起こす話を書きたいと思い、提案したことがはじまりでした。

1巻目では、貴族の娘ユリアがレーエンデ地方を訪れ、初めての体験を通して成長をしながら、レーエンデ全土の争乱に巻き込まれるまでのお話。2巻目の『月と太陽』、3巻目の『喝采か沈黙か』は、それぞれ別の主人公を立てながら、レーエンデが国になるまでを描いています。

『レーエンデ国物語』登場人物のユリアとトリスタン

柏葉:そうそう、2巻目を読んだときは驚きました! 1巻目を読み始めたときは、勝手に主人公ユリアの成長を追う話だと思っていましたから。現在3巻まで刊行されていますが、何巻まで出す予定ですか?

多崎:5巻で終わる予定です。私は最初にストーリー全体の計画表をつくって、それをざっくり5つに分けてから、細かくプロットを組み立てています。

柏葉:ということは、壮大な『レーエンデ国物語』の結末が、決まっているのですね。それぞれの本が別の物語のようで、しっかり伏線を回収されるのが素敵です。私は事前にプロットを作って書けないタイプなので、憧れてしまいます。

多崎:いえいえ、プロットを書かずにお話を描けるほうが、天才だと思います! 『レーエンデ国物語』を書いている間には、新型コロナウイルスが流行したり、世界で戦争がはじまったりと、お話とリンクする部分がでてきてしまって、正直、出版して大丈夫だろうかという思いがありました。

ですが編集者さんに「現実世界では向き合えないことも、ファンタジーのフィルターをかけたら考えられることもある」と言っていただけて、世に出す勇気が出ました。4、5巻目も楽しんでいただけたら嬉しいです。

後編は2/3(土)公開です。

柏葉幸子著 『竜が呼んだ娘1 弓の魔女の呪い』

朝日小学生新聞の連載を、加筆・修正した大人気シリーズの新装版! 『霧のむこうのふしぎな町』の柏葉幸子が、本格ハイファンタジーを描きます。

「罪人の村」と呼ばれる谷底の村に暮らしていた少女・ミアは、竜に呼ばれ、初めて降り立ったのは瑠璃色の王宮でした。

ミアは「谷の子」と呼ばれ、姿を消した伝説の竜騎士の部屋子として働くことに。王宮で懸命に働くうちに、ミアは奇妙な運命に巻き込まれていきます──。

表紙イラストは、画家・佐竹美保の描き下ろし。挿絵も大きく掲載され、『竜が呼んだ娘』の世界を堪能できます。

多崎礼著  『レーエンデ国物語』

シリーズ累計13万部突破! 「レーエンデ国」が起こるまでの物語を複数の視点で描く、感動の超大作ファンタジー。

家に縛られてきた貴族の娘ユリアは英雄の父と、呪われた地・レーエンデ地方へと旅に出ます。そこで出会ったのは、琥珀の瞳を持つ寡黙な射手トリスタンでした。

はじめての友達、はじめての仕事、はじめての恋を経て、やがてユリアはレーエンデ全土の争乱に巻き込まれていきます。

ユリアの視点で描かれる第1巻から、第2巻『レーエンデ国物語 月と太陽』、第3巻『レーエンデ国物語 喝采か沈黙か』へ──。レーエンデをめぐる、壮大な「運命」の物語です。

写真/児童図書編集チーム

やまぐち まお

山口 真央

編集者・ライター

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生ま...