
【居所不明児童】の叫び声! 自身も不登校・深夜徘徊をした〔児童文学作家〕が描く少年・少女の絶望と希望とは?
作家:佐藤まどかの新作『少年と悪魔』の執筆の背景 (2/2) 1ページ目に戻る
2025.10.08
児童文学作家:佐藤 まどか
生まれながらに「不良」の子どもはいない
私の家庭は確かに複雑でしたが、それまで私の存在をすっかり忘れて病弱の兄にかかりきりだった母が「そういえば自分には娘もいるんだった」と思い出して迎えに来てくれたのは、救いでした。そしてなによりも、私自身に夢ができて、それに向かって突進し始めたことが、危ない道から抜け出せた最も大きな理由だったと思います。
しかし、補導された子どもたちのなかには、家に帰されてからも虐待が続いたり、善人ぶった大人に保護されたと思ったら売春や麻薬を強要され、さらなる地獄に落ちていく子も少なくありません。
生まれながらにして不良の子どもはいません。私自身の経験からも、それは確信できます。生まれたときは、みんな無垢な赤ちゃんなのです。絶望的な環境で育っても、あなたは道を踏み違えない自信がありますか? どんなにひどい親でも、尊敬し、愛することができますか?
遠い国の話ではなく、いまここで起きていること

戸籍がそもそもなかったり、親の都合で国内を転々として居所不明児童になり学校にも通えなくなったり、ホームレスになったり、虐待されて家出をしてそのまま行方不明になる子どもはたくさんいます。虐待されて亡くなる子もいます。
親や保護者、同居人からスリ、置き引き、ひったくり、売春などの犯罪行為をさせられたり殴られたりしても、親から遠ざかれない子どもたちがいます。彼らが孤独だからです。彼らは、そういった憎むべき親しか頼れない、と感じているからです。子どもには愛が必要なのです。彼らは、本当は助けてほしくて、「ぼくたちはここにいる!」と叫びたいのではないでしょうか。
そんな子どもたちのことを「ニュースで見る問題児たち」という遠い存在としてではなく、彼らひとりひとりの人生を浮き彫りにしたくて、物語を書きました。
書いている最中、胃がキリキリ痛みました。書いては中断し、書いては中断しました。あまり生々しい表現にすると児童書としてふさわしくないため、その調整にも大変時間がかかりました。知った途端に吐きたくなるような事実がたくさんありますから。
こういう子どもたちの人生は、胃に痛みを感じながら書き、読む必要があると思います。「あら、かわいそうな子がいるのねえ」などと軽く流してはいけない、壮絶な事実がたくさんあるのです。そして、救われた子どもたちもたくさんいます。そこに、希望も感じました。
ずいぶん時間がかかってしまいましたが、彼らひとりひとりの人生の例を、少年Aや少女Bではなく、名のある少年や少女の物語として、知っていただければ幸いです。
『少年と悪魔』

【書名】『少年と悪魔』
【著者名】作:佐藤まどか 絵:いとうあつき
【発売日】2025年10月8日
【定価】1540円(税込)
【ISBN】978-4065409664
【内容】
悪魔のような父親から虐待を受ける居所不明中学生の一輝(いっき)が、父親の洗脳から抜け出し、自分の人生を歩みだすまでの「目覚め」の物語。愛すべき、憎むべきたった1人の家族である父・「要さん」、親をどう乗り越えるのか? 一輝が最後に選択したものとは?
佐藤 まどか
佐藤まどか 『水色の足ひれ』(第22回ニッサン童話と絵本のグランプリ童話大賞受賞・BL出版)で作家デビュー。主な著書に『スーパーキッズ 最低で最高のボクたち』(第28回うつのみやこども賞受賞)『ぼくのネコがロボットになった』『リジェクション 心臓と死体と時速200km』(以上、講談社)、『セイギのミカタ』(フレーベル館)、『つくられた心』(ポプラ社)、『一〇五度』(第64回青少年読書感想文全国コンクール中学生部門課題図書)『アドリブ』(第60回日本児童文学者協会賞受賞)『世界とキレル』(いずれも、あすなろ書房)など。イタリア在住。日本児童文学者協会会員。季節風同人。
佐藤まどか 『水色の足ひれ』(第22回ニッサン童話と絵本のグランプリ童話大賞受賞・BL出版)で作家デビュー。主な著書に『スーパーキッズ 最低で最高のボクたち』(第28回うつのみやこども賞受賞)『ぼくのネコがロボットになった』『リジェクション 心臓と死体と時速200km』(以上、講談社)、『セイギのミカタ』(フレーベル館)、『つくられた心』(ポプラ社)、『一〇五度』(第64回青少年読書感想文全国コンクール中学生部門課題図書)『アドリブ』(第60回日本児童文学者協会賞受賞)『世界とキレル』(いずれも、あすなろ書房)など。イタリア在住。日本児童文学者協会会員。季節風同人。