お話を凝縮して絵に 絵本作家・たしろちさとさんの絵本づくり【構成編】公開!

#3 構成を考える

ラフを制作中のたしろちさとさん。
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絵本作家・たしろちさとさんが、第2回アストラ国際絵本原作コンテストで講談社賞を受賞した作品「頭にのったタコ」(仮タイトル、ジェニー・ギヨーム/作)を絵本化する過程をレポートする連載3回目。

たしろちさとさんは、2003年『ぼくはカメレオン』で、英語・ドイツ語・フランス語・イタリア語ほか世界7ヵ国語同時デビュー。日本絵本賞を受賞した『5ひきのすてきなねずみ ひっこしだいさくせん』(ほるぷ出版)をはじめ、『ぼく うまれるよ』(アリス館)、『クリスマスの おかいもの』(講談社)、『すずめくん どこで ごはん たべるの?』(福音館書店)ほかたくさんの著書がある絵本作家さんです。

今回は「構成」(ラフ作成)について、うかがいました。絵本作家をめざす方、絵本が好きな方は必見です。

【関連リンク】
世界的な絵本の登竜門・アストラ国際絵本原作コンテスト「講談社賞」受賞者インタビュー

たしろちさとさんの
\クリスマスの贈り物にぴったりの絵本/

【受賞作:頭にのったタコ(原題Un poulpe sur la tête)】はこんなお話
ひとりの男の子が海水浴へ行って海にもぐったら、出てきたときには頭にタコがのっていた! タコは頭の上でどんどん大きくなり、男の子はタコを頭にのせて学校へ。先生に怒られたり、友だちに避けられたり、困ったことばかり……。でも、授業中タコのおかげで正解を答えられたり、いやなことをする友だちにスミをはいてくれたりして、男の子はだんだんタコに気持ちを寄せるようになっていく。タコはお風呂と本の読み聞かせが好きなんだ。そして、次の夏、主人公は海で……。

机の上には描きかけのラフがたくさん。タコのスケッチも壁に貼って、いつも実際のタコを感じながら作っている。

いよいよ構成を考える

──前回は、キャラクター作りについて、教えていただきました。今回は、いよいよ構成を考えて、ラフを作成する段階です。いつもどんなふうに構成を考えるのでしょうか?

たしろちさとさん(以下たしろさん):じつはラフを作るとき、頭の中では、動画で考えています。キャラクターたちが動いて、それを絵にしていく形です。絵本は動画ではないですが、動きや視点を考えることは絵本にも役立つと思います。

──そうだったんですね。だから、たしろさんの作品には、奥行きや視点のおもしろさがあるのですね。映画がお好きだったり……?

たしろさん:大好きです。よく映画館に映画を見に行きます。

どこをいちばん大切にするか?

──今回のお話は、さまざまなテーマがありました。多様性、自分と違うものへの理解、言葉のいらない友情などなど……。たしろさんは、主人公の少年とタコの交流、主人公の少年と友だちの友情、主人公の少年の成長、その3つにまず注目しました。

たしろさん:そうですね。少なくとも3つのテーマがあると思いました。どれも大切にしたい要素ですが、どれも入れようとすると散漫になってしまいます。

そこで、今回はやはり「少年とタコの交流」をいちばんのテーマにしようと決めました。それによって少年が自分とは違う存在を受け入れるようになる姿や、心の成長も描けると思ったからです。

──たしかにあれもこれもと描きたいことを入れすぎると、読者はどこを楽しんでよいのか、読み方が難しくなりそうです。

たしろさん:今回のお話は、とくに、読者がひとつではなく、さまざまな感想を持ってくれるように描きたいと思っています。

お話を凝縮して絵にする

──受賞作は、かなり長いお話でした。32ページの絵本にまとめていくのは大変ではないですか?

たしろさん:絵本のページ数を考えると、大幅に変更しなくてはならないということはありました。

スケッチやキャラクター作りは、物語の世界をふくらませて、リアルに感じられるよう、広げてきたように思います。そこから、ラフに落としこむのは、ぎゅーっと縮めていく作業になります。動画で考えるとお話ししましたが、たとえば海のシーンなら、海岸のにぎやかさ、その音なども含めて、1枚の絵にする、そういうふうに15枚の絵に凝縮していくという感じです。大変でもありますが、楽しいです!

──難しい質問ですが、構成で気をつけていることはありますか? うまく見せるコツなど……?

たしろさん:思いきって削ってみて、リズムを作っていくようにしています。音楽のような感じです。長く見てもらいたいシーンはそのように絵を考え、構成します。

パッとめくって、絵が変わる楽しさも大切にしています。お話を追うだけなら必要ないページや絵も入れていくこともあります。描かないところも想像して頭の中では描いています。

ラフを描いたら作画、ではない

──構成を決めたあとは、どうされるのですか? 作画でしょうか?

たしろさん:構成を決めたあとは、ラフを本のような形にしてみます。めくっていく感覚で読み、つながりをチェックするようにしています。そして、そこに改めて言葉を置いていく作業をします。

──絵に取りかかるまでには、何枚もラフを描き、本の形にしてさらに修正していくのですね。

本の形にする前のラフを撮影。
推敲を重ねながら、だんだん仕上がりのイメージに近づけていく。

──今回は構成を考え、ラフを作る段階を教えていただきました。スケッチやキャラクター作りで世界観を作っていき、それをぎゅっと凝縮して、絵本の形にしていくという手法。大変参考になるお話をありがとうございました。

次は、作画について取材させていただく予定です。お楽しみに。

たしろちさとさんの絵本

『クリスマスの おかいもの』(たしろちさと/作)

絵本作家をめざす方へ

講談社では毎年「講談社絵本新人賞」を実施しています。絵本作家をめざす多くの方のご応募をお待ちしています。

「アストラ国際絵本原作コンテスト」については、こちらをご覧ください。

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たしろ ちさと

Chisato Tashiro
絵本作家

東京都生まれ。大学で経済学を学んだ後、4年間の会社勤めを経て、絵本の制作を始める。『ぼくはカメレオン』で世界7ヵ国語同時デビュー。おもな著書に、日本絵本賞を受賞した『5ひきのすてきなねずみ ひっこしだいさくせん』(ほるぷ出版)『クリスマスの おかいもの』(講談社)『すずめくん どこで ごはん たべるの?』(福音館書店)『くんくん、いいにおい』(グランまま社)『ぼく うまれるよ』(アリス館)ほか多数。

東京都生まれ。大学で経済学を学んだ後、4年間の会社勤めを経て、絵本の制作を始める。『ぼくはカメレオン』で世界7ヵ国語同時デビュー。おもな著書に、日本絵本賞を受賞した『5ひきのすてきなねずみ ひっこしだいさくせん』(ほるぷ出版)『クリスマスの おかいもの』(講談社)『すずめくん どこで ごはん たべるの?』(福音館書店)『くんくん、いいにおい』(グランまま社)『ぼく うまれるよ』(アリス館)ほか多数。