「子どもの発達障害」 “個性の凸凹“と何が違う? 第一人者が回答

【セミナーレポート】榊原洋一先生【正しく知って安心! 「子どもの発達障害」】#2(Q&A前編)

小児科医/お茶の水女子大学名誉教授:榊原 洋一

「グレーゾーン」「個性の凸凹」といった表現で語られることもある発達障害。そのように言われた場合、どう捉えたらよいのでしょうか。(イメージ写真)  写真:アフロ

講談社コクリコCLUBが主催したオンラインセミナー【正しく知って安心!「子どもの発達障害」】(2023年3月24日開催)。

「子どもの発達障害」について、子どもの発達障害研究の第一人者であり、現在も小児科医として診察を続けている榊原洋一先生に教えていただきました。

榊原先生のお話によると、発達障害は子どもの障害の中で最も人数が多く、有病率は6〜8%ということでした。

子どもを持つ保護者にとって決して特別な心配ごとではない「子どもの発達障害」。事前に寄せられた保護者のみなさまからの質問に、榊原先生に答えていただきました。

セミナーレポート第2回では、その質疑応答の内容をご紹介します。

(全3回の2回目/#1を読む)

榊原洋一先生プロフィール

榊原洋一(さかきはら・よういち) 1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。

Q1 診断を受ける基準とは?

発達に凸凹が見られた場合、診断を受ける基準が知りたいです。また、発達障害と“個性”の違いも教えてください。

A1 まずはご自身で診断をしてみて

診断基準の前に、診断を受けに行く基準が必要という話ですね。みなさん悩まれるポイントだと思います。

確かに“個性の凸凹”という表現が広まっていますね。悪い言葉ではないですが、発達障害への理解を難しくしてしまっている側面もあると思います。

発達障害に含まれる3つの障害には、障害なのかそうではないのかあいまいな部分がどうしても出てきます。その際に、この“個性の凸凹”が便利な言葉として使われる傾向があります。

すでにお伝えしたとおり、発達障害の3つの障害にはきちんとした診断基準があります。医師はお子さんの様子を診断基準に照らした場合、障害であるのか、障害ではないのかを、はっきりと判断することができます。ですから、医師があいまいに“個性の凸凹”と表現するようなことはあってはならないと、私は個人的には考えています。

「障害か? “個性の凸凹”か?」という考えはひとまず置いておいて、まずは親御さんが診断してみるといいと思います。

医者でもないのに診断していいの? と驚かれるかもしれません。ですが、発達障害の3タイプの障害の診断は、心電図や脳波を読み取るわけでも、レントゲン写真を分析するわけでもありません。わかりやすい言葉で書かれたチェック項目にYES/NOで答えるだけで大まかな見立てはできます。

他の子を見る機会がないので、例えば「じっとしていない」がどの程度なのか、判断に困るという方もいることでしょう。

そんな方は、保育士さん、幼稚園や小学校の先生にもチェックしてもらうといいと思います。ただし、大勢の子どもを見てきた保育士さんや学校の先生も、それぞれ感受性が異なっていますから、複数の先生にお願いして、総合的に判断しましょう。

まずはご自分でチェックしてみる。そして、保育園や幼稚園、小学校の複数の先生にチェックしてもらう。その結果を見て、うちの子は当てはまるかもしれないなと判断されたら、正式な診断を受けてみる。そのような流れがいいと思います。

※DSM-5による、注意欠陥多動性障害(ADHD)と自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断基準を記事の最後に掲載しています。

Q2 発達障害は遺伝するか?

発達障害は遺伝することがあるのでしょうか?

A2 遺伝性はあります

アメリカのデータによると、例えば、1人の子どもが注意欠陥多動性障害(ADHD)と診断された場合、父親は3人に1人、母親は4〜5人に1人の割合で注意欠陥多動性障害(ADHD)であることがわかっています。血縁関係に同じ疾患が現れることを家族内発生といいます。発達障害は家族内発生が起きやすい、かなり高い遺伝性があると言えます。

私は注意欠陥多動性障害(ADHD)のお子さんを200人以上診ていますが、10人に1人くらいは、兄弟あるいは親御さんも同様の診断を受けています。

自閉症スペクトラム障害(ASD)についても高い遺伝性があります。

ただ、これはとても難しい問題なのですが、典型的な自閉症スペクトラム障害(ASD)の方は結婚して家庭を持つことが少ないのが現実です。当然ながら、障害が次世代に受け継がれていく機会が少なくなります。

軽度の自閉症スペクトラム障害(ASD)でアスペルガー症候群のデータがあります。アスペルガー症候群の方の家系を調べると、近縁に高い確率でアスペルガー症候群の方がいるということがわかっています。

Q3 発達障害は治る?

発達障害は治りますか?

A3 「治る」の定義によります

「治る」とはどういう状態か。その定義によると思います。

例えば、糖尿病は基本的には治りません。糖尿病は、薬と食事療法、運動療法によって血糖値を下げて症状を抑えることができ、糖尿病ではない人と同じように生活できます。

しかし、薬をやめたり食事や運動療法をやめると症状が戻ることがあります。症状を抑えることはできるものの、治ることはないんです。

そういう意味で言うと、自閉症スペクトラム障害(ASD)は治りません。

注意欠陥多動性障害(ADHD)はおよそ8割の人は思春期から青年期を越えると症状が軽くなり、かつ自分で症状をコントロールできるようになります。

注意欠陥多動性障害(ADHD)の子どもは4〜5%いますが、大人になると2%になります。この結果は、およそ半数が治っているとみなすこともできるでしょう。

なお、注意欠陥多動性障害(ADHD)には薬がよく効き、服薬している間は症状を抑えることができます。

学習障害(LD)は読み書きが困難である障害ですが、さまざまな工夫をすることによって乗り越えることができます。ただし、その場合でも、文字を見て即座にその意味を理解する力は訓練によって得られるものではないので、こちらも根本的に治るとは言えません。

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