「うちの子、発達障害かな」と思ったら…まず園や学校の先生に相談してみよう

[セミナーレポート]榊原洋一先生【もっと知りたい! 「子どもの発達障害」】#2(Q&A前編)

小児科医/お茶の水女子大学名誉教授:榊原 洋一

Q2 療育を早くはじめるメリットとは?

早い段階で障害があると気づいてあげる方法はあるのでしょうか。また、療育が早いほうがいいと聞きますが、どのようなメリットがありますか?

A2 療育によってお子さんの特徴を早く理解できる

療育を担っているのは言語聴覚士(ST)、臨床心理士、作業療法士(OT)、看護師といった職種もさまざまな方々で、療育の内容も多岐にわたります。

さまざまなバックグラウンドのスタッフが関わっているのが一般的ですが、日本の法律上、医師ではないこれらの職種の方が診断という医療行為をすることは許されていません。

子どもと接しながら、「この子は自閉症スペクトラム障害(ASD)に違いない」と確信しても、医師がそのように診断しない限り、発達障害に当てはまることはありません。

ですから、早くから療育を始めたとしても、「自閉症スペクトラム障害(ASD)なのでこういうことをやっていきましょう」と、障害に合わせた支援が受けられるとは限りません。

でも、療育を早くからやるメリットはあります。その子の特徴に早くから気づいてあげて、適切なしつけの仕方や対応の仕方についての情報が得られるようになることです。

早ければ早いほどいいかというと、そうとは言えません。

1歳半のお子さんを「多動だから」とみなして私のところへ連れてこられても、私は診断を下すことはありません。注意欠陥多動性障害(ADHD)について診断をできるのは、どんなに早くても4歳くらいからです。ある程度お話ができるようになって、行動の特徴も出てくるのがそのころだからです。

自閉症スペクトラム障害(ASD)については、早い段階においては診断をつける前にハイリスクの子をチェックリストでスクリーニング(より分け)する手法があります。正しい方法でチェックすると、将来自閉症であると診断される前に、その可能性がわかるというものです。

スクリーニングテストの結果は、必ず正しいというわけではありません。  写真:アフロ

もちろんそれが必ず合っているとは限りません。

日本のスクリーニングテストを作った専門家によると、スクリーニングテストの結果のとおりに実際に自閉症と診断されるのは、およそ50%とのこと。半々の確率で、そうかもしれないし、違うかもしれないというレベルです。

これは発達障害の専門家がテストを行った場合で50%ということです。

アメリカでの研究調査では、専門家ではない一般の小児科の医師が行った場合には、5歳になって実施に自閉症と診断されたのはたった18%に過ぎなかったという結果が出ました。「スクリーニング=診断結果」ではないのです。

ところが、日本には、このスクリーニング結果に基づいて診断してしまう医師がいます。その診断によって、自閉症の過剰診断が発生しています。

注意欠陥多動性障害(ADHD)については、早い段階からできることはありません。

自閉症スペクトラム障害(ASD)については、有用なトレーニングがいろいろあります。それをやると自閉症が治るというのではなく、やったほうが自閉症の特徴的な行動が少なくなるとか、コミュニケーションが増えるといった効果です。

つまり、早い段階で療育ができることは、まだ自閉症と診断される前ながらその可能性が高い子どもに、自閉症が原因と思われる行動の弊害を少なくしてあげることです。

療育では特別な知識と技術を持ったスタッフが支援してくれますが、同様の支援は家庭内でも行うことができます。

私の友人でもある原哲也さんという言語聴覚士の方が、『発達障害の子の療育が全部わかる本』という本を講談社から出しています。そこに、お家でできる療育の方法が詳しく書かれていますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。

『発達障害の子の療育が全部わかる本』(著:原哲也/講談社)。療育の制度や手続き、進学から就職まで、発達障害の子育てに必要な情報が詰まっている。榊原先生おすすめの一冊。

Q SSTで様子を見るのはありですか?

子どもが発達障害かもしれないと思っています。自宅でできるソーシャルスキルトレーニング(SST)で様子を見てもいいのでしょうか?

A まずは診断を

ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは、人と関わりながら社会生活を円滑に営んでいくためのスキルを身につけるトレーニングのことで、発達障害があるかないかに関わらず、お子さんの成長にはプラスになるトレーニングです。

できるならやったほうがいい。ですが、それなりの時間と労力、費用を要するものですから、私は発達障害があるかどうかを専門家に判断してもらってから取り組めばいいと思っています。

がんかもしれないから、がんの治療にとっていい生活に切り替える。悪いことではないでしょうが、がんかどうかをはっきりさせてからのほうがいいと思いませんか? 

糖尿病かもしれないから糖尿病食を食べる。糖尿病食を食べるのは勝手ですが、順番が逆ですよね。発達障害かもしれないから自宅でSSTを始めるというのは、やはり順番が逆だと思うんです。

まずは、園や学校の先生に相談してみる。その上で、やはり発達障害の疑いが濃いようなら医療機関を訪ねる。診断があったらSSTを始める。この順番をおすすめします。

──◆──◆──

我が子の発達障害を疑ったときは、多くの子どもをみている園や学校の先生の意見が参考になる、ということでした。

次回のレポート第3回は質疑応答の後編です。「普通学級と特別支援学級、通う学級を決めるのは誰か?」「学習障害があるときの親の対応」など、4つの切実な悩みに榊原先生が答えます。

(#3に続く)

構成・文/渡辺 高

27 件
さかきはら よういち

榊原 洋一

小児科医・お茶の水女子大学名誉教授

小児科医。1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。 監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。

小児科医。1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。 監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。