「子どもの発達障害」必ず覚えてほしい「これだけは」 専門家が声を大にして伝えたいこと
[セミナーレポート]榊原洋一先生【もっと知りたい! 「子どもの発達障害」】#1
2023.08.23
小児科医/お茶の水女子大学名誉教授:榊原 洋一
長年、数ある年齢別知育絵本の中でもベストセラーとなっている「えほん百科」シリーズ。その監修しているのが、子どもの発達研究の第一人者である榊原洋一先生です。
講談社コクリコCLUB主催のオンラインセミナーシリーズ「子どもの発達を知ろう」では、「えほん百科」にならう形で、榊原先生に子どもの発達について語っていただきました。中でも大きな反響があったのが「発達障害」にまつわるものでした。
3月24日に開催したセミナーで「子どもの発達障害」に的をしぼってお話をうかがったところ、視聴者の皆様から、「発達障害という診断名はない」「発達障害グレーゾーンはない」といった榊原先生のお話に対する驚きの声が数多く寄せられました。
その反響に応え、5月19日に続編となるセミナー【もっと知りたい!「子どもの発達障害」】を実施しました。前回の講演内容を踏まえて、さらに踏み込んだセミナーの内容をレポートします。
(全3回の1回目)
榊原洋一先生プロフィール
発達障害を理解するための大事な3項目
前回お話しした内容について、視聴者の方からは次の3点についてとくに驚いたという声が多く寄せられました。
1.「発達障害」という診断名はない
2.「発達障害」は、自閉症スペクトラム障害(ASD)と注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)という3つの障害の総称である
3.「発達障害グレーゾーン」というものはない
前回のセミナーレポート
【正しく知って安心! 「子どもの発達障害」】(2023年3月24日開催)
#1「発達障害」そもそも何か? パパママに覚えてほしい「これだけ」を専門家が解説
#2「子どもの発達障害」 “個性の凸凹“と何が違う? 第一人者が回答
#3「子どもの発達障害」 学校をイヤがる子どもへの「究極の対処法」を専門家が解説
じつは、みなさんのご感想やアンケートを拝見して、大変ショックを受けました。
この3点の事柄は私が最もみなさんに知っていてほしいと常日頃から思っていることでしたが、「まったく知らなかった」という反応ばかりが返ってきたからです。
専門家の一人として、きちんとした情報をもっと広く伝えていかなければいけないと、襟を正して取り組もうと思いました。
「発達障害という診断名はない」そして「発達障害は3つの障害の総称である」という事実とあわせて、「発達障害には診断基準がある」ということに驚きの声が多く上がったことも、私にとってはショッキングでした。
というのも、私たち医師あるいは心理学の専門家は、発達障害には国際的に合意された診断基準があることを大前提として、みなさんにお話をしたり、診療したりしています。
ところが、その大前提の部分がそもそもみなさんに伝わっていなかったことが、前回のアンケートでわかったからです。
これはみなさんの責任ではなく、我々医師や専門家たちの責任だと痛感しています。今回は、みなさんにとってわかりにくい部分をより嚙み砕いてご説明し、正しい知識をお届けできるようにがんばりますね。
障害の中で一番数が多い
まず、発達障害の概要について、前回と重なる部分もありますが、大事なところをおさらいしましょう。
発達障害は非常に多く見られる障害です。肢体不自由や視聴覚障害、知的障害なども含む障害全体のうちの大半を占め、日本では子どもだけでも約130万人います。視聴覚障害の約2万2000人と比べてもその数は圧倒的です。世の中で発達障害への関心が高いのは、そもそも数が多いからと言えるでしょう。
最近の調査では、普通学級のうちの8%のお子さんが自閉症スペクトラム障害(ASD)あるいは注意欠陥多動性障害(ADHD)あるいは学習障害(LD)の特徴を持っていることがわかっています。現在は1クラスは33人か34人のことが多いですから、平均するとクラスに2人は発達障害に当てはまる生徒がいることになります。
特別支援学級では、その割合はもっと多くなります。非常に多くのお子さんが発達障害の特徴を持っているということで、教育界と医学界で大きなテーマとなっています。
診断書に「発達障害」と書いてあったら注意
繰り返しになりますが、「発達障害」という言葉は、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)という3つの障害をまとめた“総称”です。
もしお子さんをお医者さんに診せたときに、診断書に「発達障害」と書かれたとすれば、そのお医者さんは十分に理解していないと判断してください。
「発達障害は診断名ではありません。自閉症スペクトラム障害(ASD)と注意欠陥多動性障害(ADHD)と学習障害(LD)のどれなんですか?」と質問してみましょう。
残念ながら専門家にも知識が乏しい、または間違った理解をしている人が多いのが実情です。発達障害がなぜ一つの診断名として扱われてしまうのか? そこには発達障害ならではのわかりにくさがあるからです。