「本当は男?」と聞く子どもへの答え 「ママ」になったトランスジェンダー・谷生俊美さんの周囲との関わり 

「ママ」になったトランスジェンダー谷生俊美さんインタビュー#2~苦労と未来編~

日本テレビ 映画プロデューサー:谷生 俊美

「娘には、広い視野を持った人になってほしい」と愛娘・ももちゃんへの想いを語る谷生俊美さん。  写真:柏原力

日本テレビの映画プロデューサーで、『news zero』のコメンテーターとしても活躍する谷生俊美さんは、男性として生まれ、39歳で「女性」として生きることを決意したトランスジェンダーです。

しかし、戸籍上の性別は男性のまま。パートナーの女性と法律婚をして、二人の間には、愛娘・ももちゃんも生まれました。ももちゃんは谷生さんを「ママ」、パートナーを「かーちゃん」と呼んでいます。

トランスジェンダー女性として、かーちゃんとももちゃんと暮らす谷生さんに、今の家族の形を子どもにどう伝えているかを聞きました。

※2回目/全3回(#1を読む

谷生俊美(たにお・としみ)PROFILE
日本テレビ映画プロデューサー。1973年生まれ、京都生まれの神戸育ち。東京外国語大学大学院博士前期課程修了後、日本テレビに入社。2018年より『news zero』(日本テレビ)に日本初のトランスジェンダーのニュースコメンテーターとして出演。映画プロデューサーとして、細田守監督『竜とそばかすの姫』、百瀬義行監督『屋根裏のラジャー』などを手がける。1児の「ママ」。

3人家族を守る選択をする

谷生さんは、戸籍上の性別は男性のまま、パートナーの女性と法律婚をしています。公的な書類や病院では男性として扱われることに息苦しさを感じたり、違和感を抱いたりすることはなかったのでしょうか。

「病院などの窓口で、性別を聞き返されるストレスはあります。それこそ婚姻届を出しに行ったときに、役所の人たちが私たちから離れたところでざわざわとしていて、窓口の方がこちらを見ないようにしていたことにも気づきました。

そういった状況をなくすには、戸籍上の性別を変えるしか方法はありませんが、現行の法律では不可能です。私は現時点で婚姻関係を結んでいて未成年の子どももいるので、性別を変えることができません。

それに、日本では同性婚が認められていないので、戸籍上の性別を変更するとパートナーと婚姻関係を続けることができなくなります」(谷生さん)

谷生さんは、「ママとかーちゃんとももちゃん」という3人家族の形を維持するための方法として、今の選択肢を取っていると言います。

「社会的に認められたパートナーシップを結べる方法が今の日本の婚姻制度だと考えると、ストレスを感じることがあっても受け入れたほうがいい。私はそれが、家族を守ることにつながると考えています。

そのうえで、同性婚、いわゆる婚姻の平等に賛成か反対かを聞かれたら、私はもちろん『賛成』と答えます」(谷生さん)

記者や映画プロデューサーとして、インタビューをする側も多く経験してきた谷生さん。「インタビュー、大変ですよね」と取材陣を気づかう言葉をかけてくれました。  写真:柏原力

最高裁の違憲判決は「意義がある」

2004年に7月に施行された「性同一性障害特例法」によると、トランスジェンダーが戸籍上の性別を変更するには、「現在婚姻をしていないこと」「生殖能力をなくす手術を受けること」「性器の外観を似せる必要があること」など、さまざまな要件を満たす必要があります。

この要件について、トランスジェンダー女性から「生殖能力をなくす手術を受けなくても、戸籍の変更を認めてほしい」と申し出があり、手術を強制することが違憲になるのかどうかが争われていました。

今年(2023年)10月に最高裁判所で出た判決は、「生殖能力をなくす手術を義務付けるのは違憲」。しかし、もう一つの争点であった「性器の外観を似せる必要があること」については差し戻しになりました。

つまり、性別変更に関する一つの要件についての判決が出ただけで、「生殖能力をなくす手術をしなくても、本人が主張すれば性別変更できる」というわけではありません。

谷生さんは、この決定について慎重に言葉を選びながら、「一言では語れませんが、裁判官全員の意見が一致して違憲という判決が出たことは、非常に意味の大きい、意義のある判決だったと思う」と言います。

一方、ニュースサイトのコメント欄やSNSでは、「恐ろしい判決だ」など、この判決に批判的な意見も多く見られました。さらには、「見た目が男性の人が『自分は女性だ』と言って女性風呂に入ってきたらどうするのか」といった事実と異なる意見も出ています。

このことについて触れると、谷生さんは硬い表情を浮かべて次のように話しました。

「現実には正しくない主張や言説が分断を促進させるような形で語られ、それをさまざまな勢力が利用して一緒に分断を生み出し、不安を広げてしまっている。その現状には非常に憂(うれ)いを覚えます」(谷生さん)

賛否飛び交うトイレ問題など女性用施設の利用については、「その場で適切と思う選択をしている」と谷生さんは言います。更衣室を利用する女性に配慮し、趣味のテニスをする際は、自宅からウェアを着て行き、トイレで着替えて帰るそうです。「デリケートな問題だからこそ他者に配慮した判断が必要」と語ります。

「本当は男?」と聞かれたら

ママと、かーちゃん、女性が二人いる家族だからこそ、楽しめることはあるのでしょうか。

「基本的には、娘をジェンダーニュートラル(ジェンダーにとらわれない考え方)に育てようと実践はしています。ももは恐竜や動物が好きですが、お友達の影響もあり、メイクやアクセサリーにも関心があるみたいです。

私が口紅をつけているのを見て、『ママみたいに塗りたい』と言ったり、私やパートナーがつけているアクセサリーを見て『これかわいい。ほちい』と言ったり(笑)。うちでは、そういうものにママとかーちゃんの二人分、触れられるので、ももも2倍楽しめるのではないかと思います」(谷生さん)

毎日忙しいママとかーちゃんは、ももちゃんを寝かしつけた後のわずかな時間を使ってワインを飲みながら話しているそうです。  写真:柏原力

家族3人の楽しそうな雰囲気が伝わってきます。一方で、トランスジェンダーに理解のないことを言われるなど、嫌な思いをすることはないのでしょうか。

「少なくとも、ももが通っている保育園で感じたことはありません。保育園には、家族の形についてももにどう伝えているか、子どもたちにどう伝えてほしいかをあらかじめ説明しています。

あるとき園長先生が私の本を見つけて読んでくれたらしく、『感動しました! 今、保育園の先生の間で回し読みをしています』と声をかけてくれたことも。保護者にも一度説明をしているので、子どもたちも私のことを『ももちゃんのママ』と認識してくれています。

それでも中には、『ももちゃんのママ、本当は男の子でしょう?』と意地悪な目線で言ってくる子もいます。そういうときは、『パパだけどママになったの!』と私が答えれば、一応は納得してくれます」(谷生さん)

まわりくどい説明をするより、谷生さんのようにシンプルに堂々と伝えたほうが、「そういうものか」と子どもたちも腑に落ちるのかもしれません。

第3回は、谷生さんが取り組むジェンダー教育について伺います。

取材・文/畑菜穂子
衣装提供:AnotherADdress

谷生さんがももちゃんが12歳になったときを想定して書いた『パパだけど、ママになりました 女性として生きることを決めた「パパ」が、「ママ」として贈る最愛のわが子への手紙』(アスコム)。
たにお としみ

谷生 俊美

Toshimi Tanio
日本テレビ 映画プロデューサー

1973年生まれ、京都生まれの神戸育ち。東京外国語大学大学院博士前期課程修了後、日本テレビに入社。報道局で記者として活動した後、カイロ...

はた なおこ

畑 菜穂子

ライター

1979年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーに。主にWEBメディアで活動中。子育て、性教育、グルメ、企業の採用案件などの取材・...