「子どもの発達障害」 学校をイヤがる子どもへの「究極の対処法」を専門家が解説

【セミナーレポート】榊原洋一先生【正しく知って安心! 「子どもの発達障害」】#3(Q&A後編)

小児科医/お茶の水女子大学名誉教授:榊原 洋一

Q10 マスク着用が発達障害の症状発現に影響する?

コロナ禍でのマスク着用、コミュニケーションの機会の減少などによって、発達障害が増えたり、症状が出やすくなったりしているということはありますか?

A10 発達障害への影響は今後明らかになるでしょう

マスクの着用やおうちから出られないことなどが子どものメンタルヘルスにどう影響するかという研究は盛んに行われています。その研究によると、うつや不安障害は増えると言われています。

一方、顔が見えなくなるからコミュニケーションに不具合が出るだろうという懸念は、今のところないと結論づけています。子どもは口元が隠されていても、目と眉、声色、ジェスチャーなどから総合的に表情を感じ取る力を持っています。

ですから、マスクをしているからといってコミュニケーションに関係する障害が強く出るといったことも、おそらくないと考えています。

ただし、自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)の子どもにマスクがどのような影響を与えるかについては、まだはっきりとしたデータは出ていません。何らかの行動の変化を起こしている可能性はゼロとは言えません。今後の研究で明らかになっていくでしょう。

Q11 学校を嫌がります

学校の先生との相性が悪いようで、登校を嫌がります。こうした環境によって、発達障害が重症化するなどの影響はありますか。

A11 先生との相性が悪ければ転校を考えて

発達障害のお子さんを取り巻く環境について、私がとても重視している要素が、学校の先生との相性です。

これは非常に大きな要素です。先生がきっちり指導したがるタイプだと、注意欠陥多動性障害(ADHD)はかなりきつい思いをします。逆に、いい加減なタイプだと、ラクに過ごすことができると言えるでしょう。

ですから、私は診断する際には、学校の先生との相性は重要事項として参考にしています。

実際に、これまで私が診た中で4人のお子さんが、どう見ても先生との相性が良くないということがわかりました。この4人の子の親御さんには最終的な対応方法をアドバイスしました。それは、転校です。私は「積極的転校」を呼んでいますが、4人の子は全員転校することで問題が解決しました。

学校の先生、特に小学校の担任は子どもへの影響力が多大で、先生と子どもの相性は極めて大切なテーマなのです。この場ではちょっと申し上げにくいですが、夫婦もそれぞれ人間的に立派でも相性が合わなくて離婚することがありますよね。それと同じで、離れるしかないような人間関係はある。それを認めて、環境を変えるための努力をしたほうがずっと前向きです。

イギリスの発達心理学者であり、高名な自閉症の研究者であるサイモン・バロン=コーエンも「学校の先生との関係は必ずチェックしましょう」と言っています。

先生とのコミュニケーションがうまくいっていない場合、そもそも相性が悪くてどうしようもないという可能性があること、そしてその環境は変えられることも、ぜひ覚えておいていただきたいです。

園や学校の先生との相性の悪い場合、さまざまな二次障害につながることがあります。  写真:アフロ

Q12 我が子にどんなサポートができますか?

発達障害の子が将来困らないために、どんなことができるでしょうか?

A12 学校にストレスなく通うためのサポートを

日本にはしっかりした学校制度があります。その学校にきちんと通わせてあげることが大事です。より良い学校の環境を用意する究極の方法が転校ですが、お子さんができるだけストレスを感じずに通える学校を選択したいところです。

自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)を、ある意味、最もこじらせてしまった状況が不登校です。不登校は、その子の一生にとって極めて大きな問題になります。それだけに、本人がストレスを感じずに過ごせる環境を用意してあげることが、とても重要なのです。

そして、医療機関にできることもあります。

注意欠陥多動性障害(ADHD)については、薬がとてもよく効きます。私はこれまで200人以上のお子さんに薬を処方してきましたが、みなさん症状が軽くなりました。ほとんどのご本人、親御さん、学校の先生の満足いくような結果になっています。

自閉症スペクトラム障害(ASD)は薬の効き目は、それほど強くありません。感情のパニックなどを抑える薬はありますが、療育での行動療法のほうが効果は現れます。

学習障害(LD)は教育現場の領域となり、医療機関は診断はできるものの、その治療に関してできることはないのが現状です。

こうして見ても、医療機関ができること、すべきことは、発達障害のタイプ別でずいぶんと違っています。それだけに、繰り返し強調しているように、発達障害を一つの診断名にすることはとても問題であることをご理解いただけると思います。

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参加者のみなさまからは答えきれないほど、本当にたくさんのご質問をいただきました。時間の制限があり、すべての質問にお答えすることができずに申し訳ありませんでした。

ただ、それだけ多くの保護者の方が子どもの発達障害について、わからないことや不安・悩みを抱えている、ということもひしひしと伝わってきました。このレポートが多くの方にとって、少しでも子どもの発達障害を理解するきっかけになれば幸いです。

セミナーのレポートは以上になります。最後までお読みいただきありがとうございました。

構成・文/渡辺 高

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さかきはら よういち

榊原 洋一

小児科医・お茶の水女子大学名誉教授

小児科医。1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。 監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。

小児科医。1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。 監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。