未就学児のママパパを無料で支援 「孤育て」を防ぐ地域密着型子育て支援の実態
家庭訪問型子育て支援「ホームスタート」#1~英国発無料子育てボランティアとは~
2023.02.27
ライター:稲葉 美映子
楽しいだけではなく、悩みや不安を抱えることも多い子育て。近年は核家族化が進み、さらにはコロナ禍の影響で他者との関わりが減るなか、夫婦だけ、またはひとりだけで悩みごとを抱え込んでしまうママパパも少なくないと思います。
それぞれの子育てを「孤育て」にしない、そんな思いから全国で活動を展開しているのが家庭訪問型の子育て支援「ホームスタート」です。
今回は、日本でホームスタートの活動を普及しているNPO団体「ホームスタート・ジャパン」の代表理事で、埼玉県和光市「ホームスタート・わこう」の森田圭子(もりた・けいこ)さん、東京都江東区「ホームスタート・こうとう」の磯野未夏(いその・みか)さん、「ホームスタート・ジャパン」理事・事務局長である山田幸恵(やまだ・ゆきえ)さんに、ホームスタートのしくみについてお話を伺いました。
最後に、子育てアドバイザーとして国や行政の委員を歴任し、メディア等で情報発信している高祖常子さんからも意見を聞いています。
※全3回の1回目
13,000を超える家庭が利用した子育て支援
1973年にイギリスで生まれた、家庭訪問型の子育て支援「ホームスタート」。もともと地域の子育てボランティアだったイギリス人女性が、困っている子育て中の親を他の親がサポートするシステムを作ったことから始まりました。
現在では、誰でも安心して利用できるようなプログラムとして改良され、ヨーロッパやアフリカ、アジア、北米、オセアニアの22の国々に導入されています。
日本では2009年にスタートし、現在では全国31都道府県で117ヵ所の活動拠点があります。おもにNPO法人や社会福祉法人などの地域団体が運営母体となり、有志の無償ボランティアにより訪問支援が行われています。
これまで利用した家庭は累計約13,300、訪問回数は94,000回にも上っています。
ホームスタートの活動を詳しくお伝えする前に、実際に利用したママパパの声を聞いてみましょう。
「子育て広場などにいっしょに行けたことで、一人でも利用できるようになり、行動範囲が広がった」
「社会とのつながりを保つことができて、孤独感が薄れ、不安な気持ちもやわらいだ」
「だれにも言えなかった悩みを打ち明け、共感してもらうと少し心が軽くなった」
「ビジターさんと子どもが遊んでいるのを見て、『うちの子ってこんなにかわいいのね』と改めて気づき、子育ての喜びを感じられるようになった」
支援を受けることで、子育てに前向きな影響があったことがわかります。
改めて、ホームスタートとはどのようなプログラムなのでしょうか? ホームスタート・ジャパン理事で事務局長の山田幸恵(やまだ・ゆきえ)さんに聞きました。
「ホームスタートは就学前の子どもが1人でもいる家庭なら、どなたでも無料で利用することができます。
頻度は週に1回2時間程度、おおむね2ヵ月を目安に、定期的にボランティアがご自宅を訪問し、子育てをサポートしています。
対応できる時間帯は、各団体により異なりますが、おおむね9~19時ごろまで。土・日曜、祝日も対応している地域も多く、年末年始は一部で訪問しています。
おうちに伺って、あれやこれやとおしゃべりをしたり、家事・育児を一緒にしたり。一人だとちょっと行きづらいなと思っているところへ一緒に行ってみよう、やってみようなどと、さまざまなことを一緒に取り組んでいきます」(山田さん)
「近所に知り合いがいない」「一人目の育児で不安」「下の子が生まれて大変」「ちょっと誰かと話したい」など、依頼の理由はさまざま。ポイントは、いわゆる「小さな悩み」でもOKということ。
「『小さな悩みだから依頼するのは気が引ける』というママパパもいるかもしれませんが、『ちょっと来てもらえるとありがたいなぁ』と声を出せることがまずは大事。そして、その声に応えられる地域であることも大事なんです」と山田さんは話します。
訪問するのは、研修を受けた「ホームビジター」と呼ばれる地域のボランティア。シッターやヘルパーのように、「親の代わりに」家事育児を代行するのではなく、「親と一緒に」ママパパの「したい・やってみたい」をお手伝いする伴走型の支援者です。
とはいえ、見知らぬホームビジターの方がいきなり家庭に入ってくるのはちょっと心配という方も多いと思います。
「ホームビジターになるためには、守秘義務についてや、『親の気持ちを受け止めて、批判せず価値観を押しつけず話を聞く』といった傾聴についてなど、8日間延べ37時間の研修プログラムを受けます。そこで、ホームビジターの役割と、過度な支援によるリスクなどを学ぶのです。
また、ホームスタートでは、ママパパの気持ちに寄り添える『当事者性』を大切にしているため、基本的にホームビジターは子育て経験者です。子どもはいないけれど、保育など、親とは違う立場で子育てに関わってきたという方もごく一部ですがいます。
現在、全国には約3000人のホームビジターがいて、その9割近くが40代以降の女性です。まだ少ないけれど中には男性もいて、主にパパの支援を行っています」(山田さん)
また、「1ヵ月に1回、ホームビジター会議を開いています」と、子育て支援をする「こうとう親子センター」でオーガナイザーをしている磯野未夏(いその・みか)さんは話します。一年のうち6回は外部の講師を招いて、「傾聴」についてや、地域の新しいサービスについて学ぶフォローアップ研修も行っています。
オーガナイザーが利用者・ボランティア双方をフォロー
「安心して利用していただくために、オーガナイザーと呼ばれるコーディネーターがいるのもポイントです」と、埼玉県和光市に拠点を置く子育て支援のNPO団体「わこう子育てネットワーク」でオーガナイザーをしている森田圭子(もりた・けいこ)さんは続けます。
「オーガナイザーは、調整役です。申し込みがあると、まずはオーガナイザーがご家庭を訪問し、そこで伺ったママパパの気持ちを踏まえて、ホームビジターをマッチングするんです。支援中、ホームビジターに直接言いづらいことも、私たちオーガナイザーにぜひ相談していただければと思います」(森田さん)
ホームビジターによる支援にいったんメドが立つと、「振り返り」として再びオーガナイザーがママパパを訪問。気持ちの変化や、申し込み時に挙げていた困りごとが解消されたかなど、オーガナイザーと一緒に活動を振り返るプロセスが用意されています。
「安心して子育てができる状態になれば、支援はいったん終了です。でも、『もう少し来てもらえると心強い』となれば継続します。深刻度が高い場合は、地域の保健師などにつなぐ場合も。いずれにしろ、『あなたはもう大丈夫よ!』なんて無理矢理切るということはしません。
はじめは不安でいっぱいそうだったママパパも、終了時には『一人でもやっていけそうな気がしてきた』『ホームビジターさんとお話しできたことで気持ちが明るくなった』など、うれしい声をもらうことが多いですね」(森田さん)
オーガナイザーは、利用者だけでなく、ホームビジターにとっても大事な存在だと言います。ホームビジター1人に、現場の全てを委ねるのではなく、「何かあったらオーガナイザーに相談できる」といった“支えてもらっている安心感”が、よりより支援につながっているといえるでしょう。