発語には、子どもが笑顔でいられる環境作りが大切
相談ケース3
2歳半になる息子はようやく単語が出はじめたものの、最近ではことばがつまるようになり、うまく発言できません。ひとつずつゆっくり正しく話すように練習させていますが、なかなか思うように進まず気持ちばかりが焦ってしまいます。「こんなにがんばっているのに」と、だんだん腹立たしくなり、子どもに注意ばかりしてしまいます。
ことばの遅れは自分のせいだとか、自分がしっかりしなくては、などと思いつめていませんか? または、いい子に育てたい、そのためには子どもの模範となる親でありたい、とがんばっている人もたくさんいると思います。
しかし、こんなふうに完璧にこなそうとすると、親も子どもも息苦しくなってしまいます。できないことに気をとられると、つい𠮟ったり注意したりしがち。ことばの発達には、できることをほめ、子どもが笑顔ですごすことのほうが重要です。
「遅れをとりもどさなきゃ!」という気持ちを捨て、「どんなことに興味があるのかな?」と子どもの小さな成長に反応してあげると、そのことが子どもに“喜び”として伝わり、子どもの「楽しい! もっと表現したい」という発語活動に働きかけることになります。
子どもに伝わる声かけってどんなもの?
否定や𠮟ることばは子どもには届きません。子どもの脳は、心地よいと感じた状態にあるほど学習効果があがります。子どもに何か伝えたいときは、子どもに届くことばを選択しましょう。
NG(否定的) → OK(肯定的)
「やめて!」 → 「○○だから~しよう」
「ダメ!」 → 「こうするといいよ」
「危ない!」 → 「危ないからこうしよう」
「おしまい!」 → 「これしたら終わりにしよう」
情報を冷静に伝えるプラス思考の声かけは、子どもに伝わりやすく、ことばの発達につながります。
にこやかに落ち着いた声で、話を聞いてほしいという気持ちを込めてことばを届けましょう。
ことばの発達をうながす遊び
最後に先生に、発語に効果的な遊びを聞いてみました。
新聞紙ビリビリ遊び
新聞紙や包装紙、段ボールなどをやぶったり、ちぎったりして、ビリビリやぶる感覚を楽しみます。「手は突き出た脳」ということばがあるように、手指を使うことは脳の働きを高めてくれます。
POINT→声を音に出す
「ビリビリ~!」「ザッザッ!」など紙がやぶれるときの音を口に出してみましょう。
こちょこちょ遊び
笑い声や歓声は「ことばの芽」です。育てることで、ことばへと発展しますので、こちょこちょ遊びなどで喜ばせる工夫をしてみましょう。またスキンシップを心がけることで、愛着形成にもつながります。
POINT→声を出すのが楽しいことだ、と感じられるように!
しゃぼん玉
液をつけないで息を吹く練習からはじめ、慣れてきたらしゃぼん玉液を吸いこまないように注意しながら吹かせてみましょう。発声や発音ができるようになるには、息の吹き方や口の使い方がポイントになります。
POINT→はじめに見本を見せて、喜ばせるのも○!
まねっこ遊び
ユーモラスな表情やしぐさを取り入れた“まねっこ”遊びで、好奇心をくすぐりましょう。動物だけでなく、子どもが好きなキャラクターなどをまねするのもオススメです。まねっこ遊びは、観察力、顔や体の動かし方、コミュニケーション力を身につけるよい方法です。
POINT→表情に合わせて声を出す工夫もオススメ!
動物まねで鳴き声を出したり、「ベロベロベー」で舌を出し入れしたりするのも効果的です。
もっとも大切なのは子どもの幸福感
親として、子どものことばの遅れが気になるのはあたり前のことです。ことばが遅いためにお友だちとうまく遊べなくなったりしないか、心配はつきないでしょう。そうなる前に、なんとかしてあげたいと思うのも自然なことです。
ただ心配なのは、熱心なあまりことばの勉強をたくさんさせたり、子どもの望まない習い事をさせたりしている場合です。
いちばん大切なのは、子ども本人の気持ちです。親の希望を一方的に押しつけたのでは、子育てはうまくいきません。子どもはその子なりのペースで日々発育しています。親はできるだけゆったり構え、見守っていきましょう。大切なのは、子どもの笑顔によりそい、同じスピードで一緒に歩いていくことです。
取材・文/佐々木 奈々子
『ことばの遅れが気になるなら 接し方で子どもは変わる』
発達障害を疑う前に……声かけ、スキンシップ、感覚遊び……心と体への働きかけで“ことばの芽”を育てるための方法が満載です。
古荘 純一(ふるしょう・じゅんいち)
青山学院大学教育人間科学部教育学科教授。小児科医、小児精神科医、医学博士。小児精神医学、小児神経学、てんかん学などが専門。発達障害、トラウマケア、虐待、自己肯定感などの研究を続けながら、教職・保育士などへの講演も。小児の心の病気から心理、支援まで幅広い見識をもつ。主な著書・監修書に『自己肯定感で子どもが伸びる──12歳までの心と脳の育て方』(ダイヤモンド社)、『発達障害サポート入門─幼児から社会人まで』(教文館)、『空気を読みすぎる子どもたち』(講談社)など。2023年5月に『発達性協調運動障害(DCD) なわとびがとべない不器用な子どもたち』(講談社)を刊行予定。
古荘 純一
青山学院大学教育人間科学部教育学科教授。小児科医、小児精神科医、医学博士。1984年昭和大学医学部卒、88年同大学院修了。昭和大学医学部小児科学教室講師を経て現職。小児精神医学、小児神経学、てんかん学などが専門。発達障害、トラウマケア、虐待、自己肯定感などの研究を続けながら、教職・保育士などへの講演も行う。小児の心の病気から心理、支援まで幅広い見識をもつ。 主な著書・監修書に『自己肯定感で子どもが伸びる 12歳までの心と脳の育て方』(ダイヤモンド社)、『発達障害サポート入門 幼児から社会人まで』(教文館)、『日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか 児童精神科医の現場報告』(光文社新書)、『空気を読みすぎる子どもたち』『ことばの遅れが気になるなら 接し方で子どもは変わる』『DCD 発達性協調運動障害 不器用すぎる子どもを支えるヒント』(ともに講談社)など。
青山学院大学教育人間科学部教育学科教授。小児科医、小児精神科医、医学博士。1984年昭和大学医学部卒、88年同大学院修了。昭和大学医学部小児科学教室講師を経て現職。小児精神医学、小児神経学、てんかん学などが専門。発達障害、トラウマケア、虐待、自己肯定感などの研究を続けながら、教職・保育士などへの講演も行う。小児の心の病気から心理、支援まで幅広い見識をもつ。 主な著書・監修書に『自己肯定感で子どもが伸びる 12歳までの心と脳の育て方』(ダイヤモンド社)、『発達障害サポート入門 幼児から社会人まで』(教文館)、『日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか 児童精神科医の現場報告』(光文社新書)、『空気を読みすぎる子どもたち』『ことばの遅れが気になるなら 接し方で子どもは変わる』『DCD 発達性協調運動障害 不器用すぎる子どもを支えるヒント』(ともに講談社)など。