子どもの手をどう離すか? 工藤勇一校長「多様性の時代に親ができること」
学校改革の旗手・工藤勇一氏「今こそ子どもたちに本当の民主主義教育を」 #4~多様性時代の子育て~
2023.01.16
横浜創英中学・高等学校長:工藤 勇一
学校を「民主主義の土台を作る場」と位置づけ、学校の「当たり前」を次々に廃止していった教育界の旗手、工藤勇一(くどう・ゆういち)先生。「誰一人置き去りにしない社会を実現する」という普遍的な目標につながる民主主義教育は、多様性の社会を生き抜く力を養うと言います。
しかし、民主主義教育の流れに逆行する学校はまだまだあります。今も学校の「当たり前」として用いられる多数決や心の教育は、「民主主義教育の妨げになっている」と工藤先生は断じます。
民主主義教育の黎明期(れいめいき)ともいえる今の日本で、子育て中の親ができることとは。工藤先生に子育てについて聞きました。
工藤勇一(くどう・ゆういち)PROFILE
横浜創英中学・高等学校長。1960年山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長などを経て、2014年から2020年3月まで千代田区立麴町中学校校長。宿題廃止・定期テスト廃止・固定担任制廃止などの教育改革を実行。一連の改革には文部科学省が視察に訪れ、メディアがこぞって取り上げるなど大きな話題に。
「多様性」と「一致団結」は真逆! 学校教育の矛盾を考える
「多様性」という言葉が社会に浸透していくなか、日本の教育現場の多くでは社会の流れに逆行するようなことが、今も当たり前のように繰り広げられています。
その一例として、麴町中学元校長で教育改革を起こした工藤勇一(くどう・ゆういち)先生が挙げるのは「心をひとつに」「一致団結」などという心の教育に関わる言葉です。
「多様性」という言葉を用いてみんなの違いを認めましょうと教える一方で、「心をひとつに団結しましょう」と呼びかけ、みんな同じ方向に向かわせようとする。ある意味では矛盾とも捉えることができます。
また、「多様性」を認め、お互いの違いを尊重するはずの教育現場で、多数決が当たり前のように行われていることも、工藤先生は問題視します。少数意見が容赦なく切り捨てられる多数決。これもまた、「多様性」とは逆行する行為です。
理不尽な学校教育でも「ありのままを受け入れることも大事」
家庭内で親がいくら子どもに多数決の矛盾を説いたとしても、いくら親が民主主義的な子育てをしていても、多くの学校では子どもの多様性が認められているわけではありません。むしろ工藤先生のような教育者がいる学校は珍しいのです。
「学校全体がそういう(民主主義教育を進める)方針の学校はあります。ないわけではありません。でも一般的な学校では、教員一人ひとりの考え方によって、大きく左右されます。
同じ学校内に高圧的で少数派を排除する教員もいれば、まったく違う考えを持ち多様性を受け入れる教員もいます。子どもにとってみたら、担任によって最悪な1年になる、ということもあります」(工藤先生)
では理不尽な多数決で意見を切り捨てられ、子どもが落ち込んで帰ってきたとしたら、親はどう対応すればよいのでしょうか。
「『理不尽だったね。でもお母さんは違うと思うよ』と話してあげてください。でもその問題が人権問題に発展するようなことだとしたら、親が学校にきちんと言う必要はあると思います。
あと親ができることは、学校の外にいる素敵な人に出会わせることです。テレビやインターネットを見ていてもいろんな人がいます。親が“素敵な人”の存在を押し付けるのではなく、『この人おもしろいね』とたわいのない会話できっかけを作ることもできます」(工藤先生)
そのうえで工藤先生は「世の中のありのままを受け入れることも大切」と説きます。
「親が一方的に『こうあるべきでしょ』と理想を描いて不幸になる子どもを育てたいのか、ありのままの世の中を受け入れて、『そのなかで何ができるか』を自分で探して解決していく子どもを育てたいのか。
そう考えると、ありのままを受け入れるってすごく大事なんです。もし自分で解決できないことなら、人の力を求められる。そんなふうに成長してほしいですよね」(工藤先生)