奨学金で「借金苦」学生の2人に1人が利用 教育費負担の大問題

高度な教育を受ける権利が「自己責任」化している日本 教育費と少子化#2

ジャーナリスト:小林 美希

学生の2人に1人が奨学金を利用

ここで、公私別の大学生の人数を見てみよう。

文部科学省の「諸外国の教育統計」(2022年版)から、高等教育のうち大学・大学院の学生数を公私別で見ると、日本は国公立が74万4200人に対して私立が213万8600人で、学生の4人に3人が私立に通っていることになる。

一方の諸外国はといえば、アメリカは州立が898万3000人で私立が491万5000人、ドイツは州立が178万4400人で私立が2万9900人、中国は公立が1311万8000人で私立が439万人と、いずれも私立が少ない。

日本の大学は公立より私立が圧倒的に多く、4人に3人が私立に通っている割合だ。アメリカ、ドイツ、中国など諸外国は公立(州立)大学が多く、私立は少ない。(写真:アフロ)

学費の高い私立大学に数が偏っているなか、親世代となる40代男性の年収は下がっている。家計から学費をねん出できず、奨学金に頼らざるを得なくても不思議ではない。

日本学生支援機構の「学生生活調査結果」から大学(昼間部)の奨学金受給状況を見ると、2002年の31.2%からは2020年は49.6%に上昇している。今や、学生の半数が奨学金を得ながらの大学進学となっているのだ。

奨学金で「丁稚奉公」を強制

親に頼らず「手に職をつけよう」と看護師を目指し、奨学金で専門学校などに通うケースでトラブルも発生している。

ある看護関係者は「専門学校生に奨学金を出し、系列の病院で何年か働けば、奨学金を無償にするという『丁稚奉公』が残っています。あまりに労働環境の悪い病院で辞めたいといった新人看護師が、『辞めるなら奨学金を全額すぐに返済しろ』と迫られたそうです」と話す。

こうした状況を無視するかのように「骨太の方針」では、教育費について触れた部分はわずか。いかにも国会答弁のような言葉が並ぶだけだった。

家庭の経済事情にかかわらず、誰もが学ぶことができるよう、安定的な財源を確保しつつ、高等教育費の負担軽減を着実に進める──。

その対策として言及されているのが、

①2024年度からの授業料等減免、給付型の奨学金の多子世帯や理工農系の学生の中間層への拡大、
②大学院修士段階での授業料後払い制度の創設、
③貸与型奨学金における減額返還制度の年収要件等の柔軟化


が柱となる。

高等教育の就学支援新制度

2020年度から実施されている高等教育の就学支援新制度(※)として、「授業料等の減免」と「給付型奨学金の支給」がある。住民税非課税世帯や、それに準ずる世帯の学生が対象となる。(※文部科学省「高等教育の修学支援新制度」

授業料等減免とは、大学や短大、高等専門学校、専門学校それぞれに上限つきで入学金と授業料が免除され、その分が公費から大学などに支払われる。

大学の場合、国公立の入学金の約28万円と授業料の約54万円が、私立では入学金の約26万円と授業料の約70万円が年額の上限として減免される。

高等教育の修学支援新制度について 出典

家族構成により基準は異なるが、文科省では住民税非課税世帯の年収目安を、約270万円としている。また、それに準ずる世帯の年収目安を約300万円、約380万円とし、それぞれで非課税世帯の3分の2、3分の1の授業料などが減免される。

給付型奨学金は、日本学生支援機構が学生に支給。国立大学の場合で自宅生は約35万円、自宅外生で約80万円が、私大では自宅生で約46万円、自宅外生で約91万円が年間に給付されるが、これで「誰もが学ぶことができるよう」になるのか。

そもそも、国際的に見ても偏りが大きい「公私の大学数」や「授業料」の差を、縮小することが先決なのではないか。

必要なのは、抜本的な教育費負担の軽減

大学の設置や学部・学科を増設するには文部科学省による認可が必要となる。国が私大を増やしてきた責任を負い、授業料を公費で負担するのは当然のことのはず。今すぐ実施すべきは、公私間で生じる授業料の差を公費で埋めるなど、抜本的な教育費負担の軽減だろう。

今年3月、恵泉女学園大学(東京都多摩市)などが学生の募集停止の発表を行うなど、私大で経営難に陥っている大学は決して少なくない。そうした私大を国有化するなどして、国公立大を増やしていくことも一案ではないだろうか。

社会人のスタート地点で「奨学金」という名の借金があるのでは、結婚や出産を考えられなくなっても当然だ。

経済的な厳しさは、若い世代にも大きな影響をあたえている(写真:アフロ)

2022年12月に日本財団が17~19歳の男女1000人に行った「18歳意識調査」(「第52回─価値観・ライフデザイン─」報告書)では、将来結婚を「したい」と回答した人は男女とも4割を超えるが、実際に将来結婚を「必ずすると思う」という回答は、男性で2割弱、女性は1割強にとどまった。「将来結婚しないと思う理由」として、22.4%が「経済的に難しいと思うから」と答えている。

若者が自身の経験から将来の自分の子の教育費負担を心配すれば結婚や出産から遠ざかることは必然となる。教育費負担の問題が解決しない限り、少子化のスパイラルから抜け出すことは困難だ。

【「教育費と少子化」企画は全3回。第1回では「高すぎる教育費家庭負担の弊害と少子化の関係」、第2回では「奨学金問題と教育費の国際比較」、第3回では経済ジャーナリストの荻原博子氏に取材し「教育費と少子化問題の現状・課題解決に向けて日本社会はどうあるべきか」を探ります】

年収443万円 安すぎる国の絶望的な生活(著・小林美希)
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こばやし みき

小林 美希

Miki Kobayashi
ジャーナリスト

1975年茨城県生まれ。水戸第一高校、神戸大学法学部卒業後、株式新聞社、毎日新聞社『エコノミスト』編集部記者を経て、2007年よりフリーのジャーナリスト。就職氷河期の雇用、結婚、出産・育児と就業継続などの問題を中心に活躍。2013年、「「子供を産ませない社会」の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。著書に『ルポ 正社員になりたい』(影書房、2007年、日本労働ペンクラブ賞受賞)、『ルポ 保育崩壊』『ルポ 看護の質』(岩波書店)、『ルポ 産ませない社会』(河出書房新社)、『ルポ 母子家庭』(筑摩書房)、『夫に死んでほしい妻たち』(朝日新聞出版)、『年収443万円 安すぎる国の絶望的な生活』(講談社)など多数。

1975年茨城県生まれ。水戸第一高校、神戸大学法学部卒業後、株式新聞社、毎日新聞社『エコノミスト』編集部記者を経て、2007年よりフリーのジャーナリスト。就職氷河期の雇用、結婚、出産・育児と就業継続などの問題を中心に活躍。2013年、「「子供を産ませない社会」の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。著書に『ルポ 正社員になりたい』(影書房、2007年、日本労働ペンクラブ賞受賞)、『ルポ 保育崩壊』『ルポ 看護の質』(岩波書店)、『ルポ 産ませない社会』(河出書房新社)、『ルポ 母子家庭』(筑摩書房)、『夫に死んでほしい妻たち』(朝日新聞出版)、『年収443万円 安すぎる国の絶望的な生活』(講談社)など多数。