ママしかダメ… ママを叩いてしまう… 専門家が語るイヤイヤ期との向き合い方
【オンラインセミナーレポート】榊原洋一先生「イヤイヤ期」子どものなかで起きていること#3
2023.03.18
小児科医/お茶の水女子大学名誉教授:榊原 洋一
A8 愛着の表れだから仕方がない
これも2歳児らしい自己主張です。
心理学に「愛着関係」という言葉があります。養育者と深いところでつながっている関係性のことで、守ってもらえる安心感を得られる存在として子どもに不可欠なものです。
これは親しい相手との間に生まれるもので、一緒に過ごす時間が長い人と自然と結ばれます。愛着関係は数人の大人と結ばれますが、その親密度によって序列ができます。安心感の順位と言ってもいいかもしれません。
パパが外で働いて、ママが育児を担当することが多ければ、自然とママとの愛着関係が優位になります。
たまにおじいちゃんとおばあちゃんに会っても、人見知りして寄りつかず、ふたりが悲しい思いをするなんてことがありますよね。これは愛着関係が結ばれていないので、当然の反応です。
パパよりもママと過ごす時間がずっと長いなら、どうしても愛着関係のあるママを頼ることになります。それが、「ママでないとだめ」「ママにはわがまま」という自己主張につながります。愛着関係第1位であることの表れです。
愛着関係は一緒に過ごす時間がなければ築くことはできません。パパはあまりおうちにいない、いつもママと一緒という状況なら、それはずっと変わりません。
保育園で過ごす時間が長ければ、いつもお世話をしてくれる保育士さんと間に1番の愛着関係が築かれ、ママは2番手、3番手になるかもしれません。悲しいと感じるかもしれませんが、子どもはそういうもの。
愛着関係は家族でなくても、なんの問題もありません。同じ保育士と何年も一緒に過ごすわけでもなく、愛着関係はその時に応じて移っていきます。そして、愛着関係とは別に家族というものを理解するようになり、大人になっていくのです。
ですから、「ママでないとだめ」「ママにはわがまま」という状況は、大変だとは思いますが、子どもと愛着関係が築かれている証拠として受けとめてください。
パパが自分の言うことも聞いてほしいと思うなら、 なんとか子どもと一緒にいる時間を増やして、一生懸命お世話をしてあげてください。だんだん言うことを聞いてくれるようになっていくはずですよ。
かく言う私も、子育て期には病院の当直が月8回もあり、家にはほとんどいませんでしたから、子どもとまったく愛着関係を結べておりませんでした。ある朝、出かけるときに「パパ、次はいつ来るの?」と言われたことさえあります(笑)。
そうなったら、自分の言うことを聞いてくれるなんて期待する方が間違いです。でも、自戒をこめて言いますが、ママの負担を減らすように、パパも子どもと一緒に過ごすよう努力しましょう。
Q9 発達障害ではないかと心配です
1歳6ヵ月の息子が歯磨きも、一緒に歩くのも、お着替えも、なんでもかんでもイヤイヤと拒絶するように。泣き始めたら止まらず、公園では遊具で遊ばず歩いてばかり、手をゆらゆらさせるなど、ネットで調べると発達障害に当てはまることもいくつかあって心配です。
A9 発達障害の心配はないでしょう
イヤイヤという拒絶の反応は自己主張の表れです。歯磨きやお着替えも、息子さんがやっていた何かを中断させる必要がある。
それに対して、自分はこうしていたいと自己主張していると考えられます。子どもは子どもなりにいつも何か好きなことに取り組んでいますから、親御さんがほかのことをしてほしいと働きかけることは、基本的にあまりうれしくない状況となります。
親のしてほしいことを働きかけるばかりだと拒絶がエスカレートしていってしまいます。なだめる、できたらほめる、場合よってはモノを使って駆け引きするという方法で工夫してみましょう。
だんだんと拒絶だけではなく、言うことを聞いてくれるようになっていくと思います。
発達障害についてですが、おそらく自閉症を心配されているのだと推察します。自閉症の子は愛着関係を結びづらく、好き嫌いなど自己主張をあまりしないという特徴があります。
嫌がるという社会関係での立ち振る舞いができない子も多いです。よって、実際にお子さんを見ないとわかりませんが、発達障害の心配は杞憂かなと思います。
お子さんが持って生まれた気質によって、イヤイヤの程度には差があります。激しく粘り強く自己主張する子もいれば、ある程度のところでさらっと譲歩する子もいます。
程度の差こそあれ、どんな子も大人になる過程でイヤイヤ状態からは離れていきますので、心配無用です。安心してお子さんと接してあげてください。できた時には思いっきりほめてあげましょう。
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今回、たくさんご質問をいただいて、あらためてみなさんがいかに「イヤイヤ期」を恐れているかがわかりました。
そもそも「イヤイヤ期」という名前が良くないですよね。みんなで「イヤイヤ期・イヤイヤ運動」をしたほうがいいと思います(笑)。
「自己主張期」と言い換えていいかもしれません。自己主張できるくらい成長している、独立したひとりの人間になろうとしている一過程を今まさに歩んでいる。そう捉えて、どうか気負わずに子育てを楽しんでください。
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セミナーの最後に飛び出した「イヤイヤ期・イヤイヤ運動」という榊原先生の言葉。
ここまでお読みいただいた皆さんには、その意味がよくわかっていただけるのではないでしょうか。
どれだけ幼くても、自己主張をはじめたということは、意思を持った一人の人間としての一歩を踏み出しつつあるということでした。「イヤイヤ期」というとネガティブなイメージが少なからずありますが、子どもが大切な成長過程にあるとポジティブに捉えてあげたいですね。
セミナーのレポートは以上になります。最後までお読みいただきありがとうございました。
構成・文/渡辺 高
榊原洋一先生監修 2歳児のための「えほん百科」
2歳のえほん百科
2歳は言葉を獲得する大切な時期です。ものの名前や色、形など、子どもの「これ、なあに?」にこたえる一冊。具体物だけでなく、あいさつや、大小にまつわる言葉などを、覚えやすいように絵と写真で表現していきます。
2歳のうたとおはなし
表現する楽しさが育つ2歳! 「うた」は、子どもの言葉の発達にとって、豊かな刺激になります。「おはなし」は、人間関係のルールを身につけていくうえでの、大事な道しるべとなります。言葉のリズムを重視した、くりかえしの多いうたとおはなしで、語彙と表現する楽しさを育てます。
榊原 洋一
小児科医。1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。 監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。
小児科医。1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。 監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。