モノで駆け引きはあり? 無視されたらどうする? 困った時の「イヤイヤ期の処方箋」

【オンラインセミナーレポート】榊原洋一先生「イヤイヤ期」子どものなかで起きていること#2

小児科医/お茶の水女子大学名誉教授:榊原 洋一

子どもが言うことを聞いてくれないと、ついきつく言ってしまうことも。どうすればよいのでしょうか。  写真:アフロ

講談社コクリコCLUB主催のオンラインセミナー【正しく知って安心! 「イヤイヤ期」子どもの中で起きていること】(2023年1月13日開催)。

講師は子ども発達研究の第一人者であり、現在も小児科医として診察を続けている榊原洋一先生です。「イヤイヤ期」と呼ばれる時期の子どもについて、セミナーの参加者から寄せられたたくさんの質問に回答いただきました。

セミナーレポート第2回では、第1回(Q1)に引き続き、質疑応答の内容をご紹介します。まずは多くの方から寄せられたこちらの悩みからです。

(全3回の2回目/#1を読む)

榊原洋一先生プロフィール

榊原洋一(さかきはら・よういち) 1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。

Q2 モノでの駆け引きはアリか?

言うことを聞かせるために、モノで駆け引きするのはアリですか?

A2 問題ありません。ほめてあげることも忘れずに

お菓子をあげるとか、このオモチャで遊んでいいとか、モノを使って駆け引きするのも別に悪いことではないと思います。

「そのうちモノをあげないと何もしなくなるのでは?」とか「駆け引きでしか物事を考えなくなるのでは?」といった心配をされる親御さんもいらっしゃいますが、将来、発達において悪い影響が出ることはないと考えています。

例えば、楽しく遊んでいる子どもに、やめなさい、着替えなさいと言えば、嫌がるのは当然。それは普通の反応なんです。お菓子をあげることで行動を促すのは1つの選択です。

そのようにモノをあげる以外に、意識してほしいのが「ほめる」ことです。言うことをきいてくれたときに、「よくできたね」「あなたっていい子ね」「大好きだよ」としっかりとほめてあげましょう。

頭を撫でたり、抱きしめてあげたりするとなお効果的です。子どもは大人にほめてもらうとうれしいものです。モノでなくても、人間の関係性や言葉、動作によってとても気持ちが良くなります。

働きながら子育てされている方は特に、忙しい朝などに、つい子どもにきつく言ってしまい、それを後悔して落ち込んだりされるケースが多いようです。時間に追われて大変だと思います。

そんなとき、焦って感情をぶつけてしまうよりは、モノで駆け引きするほうがいいと思います。

そして、言うことをきいてくれた時には思いっきりほめてあげてください。実は、ほめる行為は子どもが気持ち良くなるだけでなく、ほめた本人にも良い効果をもたらします。

子どもを𠮟ると気持ちがギスギスするばかりですが、ほめるとなんだかホンワカした心になってきます。自分のためにも、意識してほめてあげましょう。

Q3 「じゃ、しなくていいよ」とつい言ってしまう

イヤイヤと反発する子に、切り札として「じゃ、しなくていいよ」とつい言ってしまいます……

A3 罪悪感を感じる必要はありません

「じゃ、しなくていいよ」と言うと、それまで反発していたのが、態度を変えるということですね。社会性を育んでいるすばらしいお子さんだと思います。

イヤイヤと自己主張しながらも、「じゃ、しなくていいよ」と言うお母さんの言葉から、お母さんの願いが叶わない悲しい気持ちを汲み取り、同情のような感情が湧き起こる。

共感性がきちんと発達しているからこそ、態度を変えてくれているのです。

「じゃ、しなくていいよ」という言葉に罪悪感を感じる必要はありません。むしろ大切なのは、そのあとの接し方。ほめてあげることが重要なのです。

お子さんはほめられることで気分が良くなり、また社会性をさらに身につけていきます。そして、ほめたお母さん自身もいい気分になる。Win-Winの関係になれるのです。

とはいえ、「じゃ、しなくていいよ」という言葉が万能ということではありませんよ。言い方によってもニュアンスは変わります。「じゃ、しなくていいよ!!」と強く言ったら怒っているのと同じ。でもやさしく言ったら、気持ちを察してもらうきっかけになります。

お子さんによっては、言い方に関係なく言葉どおりに受け取って遊び続けるだけかもしれませんから、声のかけ方はケースバイケースです。いずれにしても、ほめてあげることに、繰り返されるイヤイヤ状態の打開策が見えてくると思います。

Q4 嫌がる理由をしつこく聞いてしまう

何とか説得したくて、いつもなぜ嫌なのかをしつこく聞いてしまいます
嫌がる理由を聞くのはいかがですか?

A4 気持ちを理解したいならOK。論破したいならNG

親としては子どもを理解したい。だから理由を説明してほしいと考えます。

ところが、2歳児が理由をうまく説明できるでしょうか? 説明してほしいと言われてますます混乱してしまう恐れがあります。

折り紙で遊んでいて、「もう1枚折りたいの」と答えられるかもしれませんが、単に今の状態が楽しいからやめたくないとしか言えない場合もあります。これは大人でも同じではないでしょうか。私は山登りが好きですが、なぜ山に登るかと聞かれたら、答えに窮します。

「楽しいから」としか言いようがない。「楽しいからやめたくない」というのが率直な気持ちであっても、それでは理由として認められないような気がします。欲求についての理由を説明すること自体が大人でもむずかしいのに、ボキャブラリーのない2歳児が言葉で表現するのは大変。

ですから、理由を問いただすのはあまり良い方法とは思えません。

次のページへ では、どのようにすれば良いか?
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