「発達障害」子育ての保護者は自分も大切に 『リエゾン』三木先生が解説

児童精神科医・三木崇弘先生が語る「発達障害の子どもと保護者の支援」 #3「親のコンディション」を整えるための支援について

児童精神科医:三木 崇弘

「発達障害」の子どもを育てる保護者への支援とはどのようなものがあるのでしょうか?  写真:アフロ

発達障害のあるお子さんを育てている最中の保護者の方は、「自分がなんとかしないといけない」と、いつも気を張り詰めていませんか?

子どもを支えるお母さんやお父さんが、良いコンディションでいることも、実はとっても大切なこと。しかし、そのために「支援」を利用するのは、少し勇気がいると感じている方も少なくないと思います。

そこで、児童精神科医の三木崇弘先生に、保護者のための支援について解説していただきました。

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三木崇弘(みき・たかひろ)
児童精神科医。国立成育医療研究センターこころの診療部で6年間勤務の後、2019年フリーランスに。以降、クリニック専門外来、公立小学校スクールカウンセラー、児童相談所、保健所、児童養護施設などで活動。2023年4月より地元・姫路へ戻り、児童精神科医として多忙な日々を送る。『モーニング』連載中の漫画『リエゾン―こどものこころ診療所―』監修。

保護者が元気でいることが大切

子育てには、さまざまな心配がついて回ります。お子さんに発達障害がある場合は、道路への飛び出しにハラハラしたり、極端な偏食にオロオロしたり、こだわりが強いため着られる服を探し回ったりなど、大変なことも多いでしょう。きっと毎日心配ごとで頭がいっぱい。どうすれば子どもが幸せに過ごせるのかと、お母さんやお父さんはあれこれと悩んでしまいますよね。

僕たち医師も、専門家として発達障害の子どもに関わります。しかし、1人の子どもに関わる時間は、外来だと多くても月に1回で30分程度です。

実際に子どもと多くの時間を過ごしているのは、幼稚園・保育園・学校・療育の先生たち、そしてお母さんやお父さんたちですよね。

お母さんやお父さんがすごく疲れているときに子どもが泣き止まないことなどがあると、子どもに強い言葉をぶつけてしまうかもしれません。普段は穏やかな気持ちで接することができていても、親のコンディションが悪ければ、良くない関わり方が増えてしまいます。

それは子どものためになりませんし、お母さんやお父さんだってしたくてしているわけではないんですよね。

ですから、子どもを支えるためには「どんな医師にかかるか」よりも、「保護者が元気でいること」のほうがはるかに重要です。子どものことだけではなく、どうぞ自分のことも大切にしてください。

そして、自分自身のコンディションを整えるために、保護者向けの支援も利用してほしいと思います。

5つの保護者向け支援

保護者向けの支援といっても、さまざまなものがあります。以下、簡単ですが5つご紹介します。

①【保健センター・子育て支援部門などの子育て相談】
市町村の保健センターや子育て支援部門がおこなっている子育て相談では、子どもの発達や行動のことなど、気になることについて電話や面接、家庭訪問などで相談できます。必要な情報を提供したり、専門機関を紹介したりしてくれるでしょう。
どこに相談すればいいかわからないときには、インターネットで「自治体名(例:名古屋市)子育て相談」などと検索してくださいね。
例:世田谷区 子育てステーション発達相談室

②【カウンセリング】
自分のことを専門家に話して、聞いてもらうと、解決への糸口が見つかるかもしれません。医療機関やカウンセリングルーム、心理学系の大学院を持つ大学などでは、カウンセリングをおこなっているところもあります。日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、「自分だけで悩みを抱えているのは少しつらいかも」と思うようなときには、利用してみてください。

③【保護者向けの勉強会】
発達障害者支援センターや医療機関、保護者の会などが、発達障害の特性理解や社会参加、生活上の困りごとなど、さまざまなテーマで勉強会を開いています。
興味のあるテーマについての勉強会があれば、気軽に足を運んでみるといいでしょう。

④【ペアレント・トレーニング】
親になったからといって、最初からうまく子どもと関われるわけではありません。子育ての悩みを解決するための保護者向けプログラムが、ペアレント・トレーニングです。子どものことを知り、適切な関わり方を学ぶことができます。これらは行政機関の児童発達支援センターや教育センター、あるいは医療機関などで受けられることが多いです。

たとえば、次のようなことを学びます。
 ・子どもがなぜその行動をしているのかを理解する
 ・否定しない声のかけ方やほめ方を練習する
 ・子どもが過ごしやすいように環境を整える(例:おもちゃだけの部屋を作る、テーブルの上のものを片付けてから宿題を始める)

⑤【ピア・サポート】
ピア・サポートとは「仲間同士の支えあい」のことです。
発達障害の子どもを育てる保護者同士、同じ経験があるからこそ、分かりあえる、支えあえることはありますよね。こんなときにはどうしたらいいの、というリアルな相談もしやすいのではないでしょうか。

気になる保護者の会やサークルなどを見つけたら、イベントなどから参加してみるのも良いでしょう。

保護者も遠慮なく甘えて頼ってもいい

子どものための療育や通院には、喜んで時間もお金も使うのに、自分のケアはつい我慢してしまうお母さんやお父さんたちを今まで数多く見てきました。

子どものために必死に頑張るのは素晴らしいことですが、子どもが健やかに過ごすためには親のコンディションも本当に大切です。

お母さんやお父さんが、自分たちだけでなんとかしようと思う必要はありません。カウンセリングを受けてもいいし、保護者の会やサークルに参加してもいいと思います。

「こんなことがあってつらかった」と話をして、「そうだねえ、つらいね」と誰かに言葉を返してもらうだけでも、気が楽になります。共感して受け止めてもらえると、問題は解決していなくても、なんだかホッとしますよね。お母さんやお父さんの気持ちが軽くなるように、周りの力をどんどん借りていきましょう。

僕も含めて、医師や保健師・保育士・作業療法士など、子どもにかかわる仕事に就いている人たちは、ほぼ全員「子どもの人生が良くなるといいな」と思って仕事をしています。

誰かに相談することで一歩前に踏み出せて、何をしたらいいか見えてくることもあります。遠慮なく甘えて、相談して、頼って、安心して子育てをしてほしいなと思っています。

――――◆――◆――◆――――

「発達障害の子どもと保護者の支援」について、3回にわたって三木崇弘先生に解説していただきました。

早めに相談して療育につなげ、周りの力を借りることで、子どもと保護者両方のストレスを減らすことができます。

子どもも保護者も笑顔で過ごせるように、さまざまな支援を利用してみてくださいね。

取材・文/山口ちゆき(メディペン)

三木崇弘先生の発達障害の子どもと保護者の支援連載は全3回。
1回目を読む。
2回目を読む。

みき たかひろ

三木 崇弘

Miki Takahiro
児童精神科医

児童精神科医。国立成育医療研究センターこころの診療部でフェロー・研究員として6年間勤務の後、2019年フリーランスに。以降、クリニック専門外来、公立小学校スクールカウンセラー、児童相談所、保健所、児童養護施設、児童自立支援施設などで非常勤の医療・教育等カウンセラーとして活動。 2023年4月より地元・姫路へ戻り、児童精神科医として多忙な日々を送る。 『モーニング』連載中の漫画『リエゾン―こどものこころ診療所―』監修。知的障害支援「あいプロジェクト」代表、発達研修ユニット「みつばち」としても活動中。 最新著書『リエゾン―こどものこころ診療所―凸凹のためのおとなのこころがまえ』(講談社)

児童精神科医。国立成育医療研究センターこころの診療部でフェロー・研究員として6年間勤務の後、2019年フリーランスに。以降、クリニック専門外来、公立小学校スクールカウンセラー、児童相談所、保健所、児童養護施設、児童自立支援施設などで非常勤の医療・教育等カウンセラーとして活動。 2023年4月より地元・姫路へ戻り、児童精神科医として多忙な日々を送る。 『モーニング』連載中の漫画『リエゾン―こどものこころ診療所―』監修。知的障害支援「あいプロジェクト」代表、発達研修ユニット「みつばち」としても活動中。 最新著書『リエゾン―こどものこころ診療所―凸凹のためのおとなのこころがまえ』(講談社)

メディペン

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医療ライターズ事務所

医療ライターズ事務所。 看護師、管理栄養士、薬剤師など、有医資格者のライターが在籍。 エビデンスに基づいた医療記事を得意とするほか、医療×他業種の記事を手掛ける。 産婦人科関連、小児科、皮膚科、医療系セミナーレポートや看護師専門サイトの記事の実績多数。 medipen

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