読み書き困難な「ディスレクシア」子ども 親は何をすべきか? 適切な支援を専門家が解説

ディスレクシアの子育て #2

木下 千寿

「読み書きに困難」を抱えている子どもに対して、大人はどんな対応をすべき? 入試はどうする? ディスレクシアの支援を解説(写真:アフロ)

ディスレクシアは発達障害の一種で、知的に問題が無く、聴覚・視覚の知覚的機能は正常なのに、読み書きに関しては、正確またはスムーズにできないという学習の困難を示す症状のことを言います。

ディスレクシアの症状をもち、困難を抱えている子どもにたいして、大人はどんな対応をすべきでしょう?

「ディスレクシアの子育て」第1回ではディスレクシアの基礎知識と現状について解説。続く第2回となるこの記事では、<ディスレクシアの子どものために親ができること>をテーマに、自身もディスレクシアの子育て経験をもつ藤堂栄子さん(「NPO法人エッジ」代表)に、お話を伺いました。

藤堂栄子(とうどう・えいこ)「NPO法人エッジ」代表。星槎大学特任教授。フリーランス通訳者(英仏)。
英国留学をした長男がディスレクシアであると判明したことをきっかけに認定NPO法人エッジを設立。以来会長を務める。発達障害者ネットワーク副理事長、社会保障審議会障害者部会委員、教科書バリアフリー法、読書バリアフリー法関連検討委員会などの委員歴任。

大学入試はどうする? 推薦や総合選抜などを活用

2016年に「障害者差別解消法」が施行され、ディスレクシアも日常生活や教育、仕事などの場面で“合理的な配慮”を受けることができるようになってきました。

学習の面でいえば試験時間の延長、テキストの読み上げ、代筆による解答、PCの使用、別室での試験などがOKに。さらに2019年にはデジタル教科書の使用が認められたことで、漢字にルビをふる、文字を大きく表示するといったことも容易になりました。

今、“低次の読み書き”と“高次の読み書き”という考え方が出てきています。

“低次の読み書き”とは、印刷された文字をスラスラと正確に読む、手書きで書き写す、頭にある考えを文章に書き出すといった作業です。一方、“高次の読み書き”とは内容を理解することができるか。その内容について考え、どうアウトプットするかという作業を指します。

“高次の読み書き”で考えれば、内容を理解するための方法はたくさんあります。音声で聞いてもいいし、映像で見てもいいし、体験するでもいい。アウトプットにしても、タイピングや音声入力、絵に描いてそれを指し示しながら話すのでも、全く問題はないはずです。

ディスレクシアの児童の学習にデジタル機器を活用することも有効(写真:アフロ)

私が相談に乗った子どもたちの中には、大学入学試験の面接に際し、絵を描いて、「自分にはディスレクシアがあります。でもこういう方法で、私は伝えることができます。大学に入学した暁には、自分のような苦労をせずに済むよう、子どもたちのことを学びたい」と話をし、一発合格したという子もいます。

推薦や総合選抜というかたちで大学入試を受ければ、こういった受験のかたちも可能なのです。

合理的な配慮をするための根拠 アセスメントを受ける利点

日本の教育は相当長い間、“低次の読み書き”に重きを置いていました。しかし、パソコンやタブレットなどがこれだけ広まった時代に、“低次の読み書き”ができる能力がどれだけ必要でしょうか。

たとえば漢字を書くのが苦手なディスレクシアの子どもに何度も書き取りさせても、覚えることには繫がらず、本人がただ苦しいだけです。現代ではありがたいことにツールが非常に洗練されてきていますから、それをうまく活用して、ディスレクシアの子どもがラクに読み書きできるように調整・変更すればよいと思います。

各学校には、特別支援教育コーディネーターが1人いらっしゃいます。また発達支援センターに言語聴覚士の方がいらっしゃれば、アセスメント(審査)用ツールの使い方をご存知の方もおられます。そういったところに相談してみるのもよいでしょう。

アセスメント(審査)を受けると、「この子には、こんな学び方が向いている」と合理的な配慮をするための根拠となる数字を出すことができます。それは、学校や先生方にとっても大きな指針となります。

(写真:アフロ)

ただし、アセスメントから導き出された学び方を、子どもが嫌がる場合もあります。そこは、本人の意向を尊重しなくてはなりません。たとえばタブレットでの学びを勧めても、「画面がギラギラしてイヤだから、紙のほうがいい」という子どももいるんです。であれば、紙でどのような学び方をするのが子どもにとってよさそうかを探ってみるのです。

NPO法人エッジでは、ドリルを何も工夫なしでやったときの解答と、ひとつ工夫をしたらこれだけ点数が取れるようになったという解答を持っていき、「学校の先生とお話ししてみてください」と勧めています。

感情論ではなく、根拠となる具体的なものを間に置いて話をする。そうして子どもにとってどの方法がよいか、その方法は先生にとってどれだけの負担かまで、一緒に考えてみてほしいのです。

これまでと違う選択肢や方向性を採ることで、子どもの負担がひとつ減ってラクになる。それがうまくいったら、次に進む。ディスレクシアとの向き合い方は、そんなふうにひとつひとつ段階を踏んで対応を進めていくのがよいと思います。

次のページへ 「普通であってほしい」保護者の陥りがちな沼
29 件