【着替え】をいやがる「発達障害・発達特性」のある子ども 「意外と複雑な着替え」を援助する方法 「療育の専門家」が解説
#8 自分で着替えをするようになるために〔言語聴覚士/社会福祉士:原哲也先生からの回答〕
2024.08.05
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表・言語聴覚士・社会福祉士:原 哲也
発達障害や発達特性のあるお子さんの保護者の方からのご相談に、言語聴覚士・社会福祉士であり、発達障害のお子さんの療育とご家族の支援に長く携わってきた原哲也先生がお答えします。
お子さんとの生活が楽しくなり、保護者の方の負担が軽くなるような実践的なアドバイスをお伝えしていきます。第8回は、こちらのご相談です。
衣類の脱ぎ着はできるのですが、必ずやってといって着せてほしがります。自分でするようになってほしいのですがどうしたらいいでしょうか。
【発達障害・発達特性のある子のお悩みに専門家が回答】これまでの回を読む
第1回 発達障害かどうか気になります
第2回 2歳ですが言葉が遅く心配
第3回 偏食がひどくて困っています
第4回 子どもが真夜中まで起きている
第5回 「こだわり行動」とは? 種類・原因・対応
第6回 医療機関を受診する目安
第7回 トイレトレーニング
今回は「自分で着替えをしない」というご相談を取り上げます。
まず初めに一般的な着替えの援助についてお話しし、次いで、発達障害の特性のある子の場合の援助についてお話しします。
着替えに必要な動作
大人は無意識に着替えをしますが、実は、着替えをするにはさまざまな力が必要です。
1.ズボンを穿くのに必要な力(目安として2歳半〜3歳)
① ズボンの前後を見分ける
② 足を入れる場所がわかる
③ 両手でズボンの縁をつかむことができる
④ 片足立ちができる(立ったまま穿くとき)
⑤ 片足立ちで、足をズボンの筒に入れ、ズボンの筒から足先が出るまで足を伸ばす。
⑥ ズボンの縁を両手で持って、腰まで持ち上げる
⑦ ズボンのボタンやフックを留め、チャックを上まで上げる
2.上着を着るのに必要な力(目安として2歳半〜3歳)
(かぶる服)頭から通す場合
① 服の前後を見分ける
② 服を両手で持ち上げ、裾から頭を入れ、襟部分に頭を通す
③ 袖に腕を通す
(かぶる服)先に腕を通す場合
① 服の前後を見分ける
② 袖に腕を通す
③ 襟部分に頭を通す
(はおり服)
① ボタンやスナップをはめる
着替えの援助
子どもの発達やできない状況に即して、保護者の方が援助をしていく方法や子どもが楽しくできるようになる方法を説明します。
① 衣服の前後を見分ける
衣服の前後がわからない子どもは意外に多いです。前にプリントがある服を選んだり、アップリケをつけるなどの工夫をするとよいです。どうしても前後を間違うならば、前後の区別のない服にしてもいいでしょう。
② 「ズボンを穿く」
●ズボンに足を通す
片足立ちでバランスを取りながらズボンを穿くのは難しいものです。
最初は、床や椅子に座って穿く練習をします。座って穿くのに慣れたら、次は、部屋の角の壁にお尻や背中をつけて、姿勢を安定させたうえで穿く練習をします。
親子で片足立ちがどれだけできるかを競ったり、安全性に配慮しながら、腰まで丈がある麻袋の中に入って袋の縁を持ってジャンプしながら前に進んだりする遊びは、安定した片足立ちができるようになるために有効です。
素材によってはズボンに足を通しにくいことがあるので、はじめは足がスムーズに通りやすい素材のズボンから練習を始めましょう。ズボンに足を通す動きがスムーズにできるようにするために、例えば、座った姿勢で輪投げの輪を足先から通す遊びは有効です。カラフルな輪投げの輪を「さあ何個通せる?」と競い合うのも楽しいです。
●両手で持って腰まで持ち上げる
「ズボンに足を通す」でご紹介した麻袋などに入ってジャンプする遊びで袋の縁を手でつかんで持ち上げる動きは、ズボンを持ち上げる動作そのままであり、ズボンを持ち上げる動作の練習ができます。
③ 「上着を着る」
●ボディイメージを育てる
上着を着るときは、服を持ち上げてかぶったあと、視界が遮られた状態で、このあたりに腕を通すところがあるはずだと考えて、腕を動かして袖を通します。
これができるためには、目で確認しなくても身体の使い方がわかること(身体図式やボディイメージといいます)と、頭を襟口に通す、腕を裾から袖に通す動作が楽々とできることが必要です。
これらは子どもにとって難しいので、最初は大人が裾を巻き上げて服を持たせてあげます。こうすることで、視覚が遮断される時間が短くなりますし、頭や腕を通す距離も短くてすむので難易度が下がります。
遊びで言えば、大きなプラスチック製の輪や大きな縄の輪を頭からかぶって体を入れ、足から抜くなどの遊びが、上着を着るときに必要な動作に慣れることができてお勧めです。
④ ボタンをはめるのに必要な力を育てる(ボタンをはめる動作に興味を持ち始めるのは3歳~4歳ころから)
小さいボタンは難しいので、最初のころは大き目のボタンの服で練習するといいと思います。
ボタンやスナップをはめるには、左右の手の協調や指先の力が必要になります。ボタンをはめて遊ぶフェルト地のおもちゃでボタンをはめる動作に慣れる、小さいブロックを組み立てたり、はめたりする遊びで手先の力を強くする、などが考えられます。