「子育てと仕事の両立がツラい」苦しむママを救う助言とパパがやるべきこと

人生相談本コレクター・石原壮一郎のパパママお悩み相談室【17】「仕事と子育ての両立がうまくいかない」

コラムニスト&人生相談本コレクター:石原 壮一郎

孫娘・F菜ちゃん(3歳)と公園で過ごす石原ジイジ。『週刊新潮』で「令和の失礼研究所 #これってアウト?」を連載中。  写真:おおしたなつか
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パパママは今日も悩んでいます。夫婦の関係や子育てをめぐる困りごとに、どう立ち向かえばいいのか。

500冊を超える人生相談本コレクターで、3歳の孫のジイジでもあるコラムニスト・石原壮一郎氏が、多種多様な回答の森をさまよいつつ、たまに自分の体験も振り返りつつ、解決のヒントと悩みの背後にある“真理”を探ります。

今回は、「仕事と子育ての両立がうまくいかない」というママ(3歳男児の母35歳)のお悩み。はたして人生相談本&石原ジイジの答えは?

※過去の悩み相談はこちら

「両立」は死語! がむしゃらにやればできる!

子育てには全力を尽くしたい。仕事も手を抜きたくはない。しかし、がんばればがんばるほど両方とも中途半端になってしまう……。

今の日本では働く「ママ」が直面しがちな悩みだが、遠からず「パパ」にとっての悩みにもなるかもしれん。どうすれば納得できる状況を作れるのか、そもそも「両立」とは何か。人生相談のアドバイスに耳を傾けてみよう。

学校を卒業して2年ほど働き、出産で退社した27歳のママ。子どもは4歳で今はパート勤務だという。

「最近、ふと思います。私はどう生きたいのか、やっぱり働いて役立つ人だと認められ、収入も得たい、と」と考えつつ、子どもの世話もあって正社員は難しそうと悩んでおる。

「仕事と家庭を両立させている人たちは、どうやってその道をGETできたのか知りたい」というママの問いに、アメリカで3人の娘を育てた詩人の伊藤比呂美さんはこう答えます。

〈自由業ではありますが、終始一貫して働くおかあさんとして生きてきたあたしが証言します。「がむしゃら」にやってきたんです。「家庭と仕事の両立」なんていうことばは、死語だと思っていました。(中略)

はっきりいえば、家事については、手抜きできることは手抜きして、やってきたということです。(中略)

毎晩寝る前に、目をとじて「あたしは何をしたいか」じっくり三分間ほど考えてごらんなさい。「何ができるか」は、このさい問題じゃありません。

やろうと思えば、たいていのことはできるんです。できないのは、とちゅうで、困難に負けてあきらめてしまうからです〉

(引用:「西日本新聞」連載「比呂美の万事OK」1998年4月~2002年6月掲載分より。引用:伊藤比呂美著『人生相談万事OK』2008年、筑摩書房)

伊藤さんらしい肝の据(す)わりっぷりが清々しい。どうやら相談者は、どうしてもフルタイムで働きたいわけでも、どうしても働く必要があるわけでもなさそうじゃ。

頭の中で「両立できるかなあ」なんて考えていられる相談者に、伊藤さんはちょっとイラっとしている気配もうかがえる。いや、勝手な推測じゃが。

やらざるを得ないとなったら、できるかどうかではなく、やれるようにやっていくしかない。親子がどうにか暮らせていたら、それが自分なりの「両立」の形である。

ママの自信のなさは子どもに伝わる

次の相談は、2歳の娘を持つママ。病院に勤めていたが夜勤や休日出勤が多く、実母に娘の世話を任せていたら、自分がいても実母の布団にもぐり込むようになった。

思いきって仕事をやめたものの、夫がいるときは娘が自分より夫にしがみつくなど、いっこうに娘との距離が縮まらない。

「母親失格」だと自分を責める相談者に、映画監督の大林宣彦さんは「母とは、世界でいちばん、自然な存在」と言いつつ、こう語りかける。

〈あなたの場合、そのいちばんの問題は、いま母としてのあなたの存在が、不自然である、ということなのです。

娘さんとの間に距離を感じ、その距離におびえ、その意識があなたを不自然にしている。そして小さな子どもは、その不自然さに対して、とても敏感なのです。

娘さんはもちろんあなたを嫌っているわけではない。本当はあなたの胸にまっすぐ飛び込んでいきたいのです。

だったらここは、あなたのほうから娘さんの布団にもぐり込んでいくべきでしょう。あなたのほうから娘さんの胸に飛び込んでいってみましょう〉

(引用:大林宣彦著『人生には好きなことをする時間しかない』1993年、PHP研究所)

仕事をやめて子育てに専念しようとしたものの、新しい状況に自分も子どももまだ戸惑っているようじゃ。

働くママは「子どもへの愛情が足りていないかも」と不安になりがちである。実際はそんなことはないが、母親が不安を覚えていたら、子どもの側も壁を感じざるを得ない。

不安なんて見て見ないフリをしつつ、自信をもって子どもの胸に飛び込んでいくことは、仕事と子育てを「両立」するための大切なコツと言えるじゃろう。

仕事を子育てのハンデとするかはママ次第

3つ目の相談は、幼稚園に通い始めた4歳の子どもを持つママ。パートで働き始めたものの、忙しいのでつい「早くしなさい」ばかり言ってしまう。

「母親が働くことが子どもによくない影響を与えることはないのかと、働きながらも迷っています」と胸の内を明かす。健伸(けんしん)学院理事長の柴田昭夫さんは、迷えるママにこうアドバイスする。

〈私は、お母さんがお勤めに出ることは、子育てにとって必ずしもハンデではないと思います。(中略)

でも、勤めに出ていることが子育てのハンデだと思ってしまうと、自分が働くことで生じた不足分を何とか補ってやらなければいけないと、「早くしなさい」「ああしない」「こうしなさい」と、つい、子どもに重圧をかけてしまうことになります。

また、働いていることが子どもにとってよくないのではないかというお母さんの不安感は子どもにも伝わってしまい、子どももお母さんが働くことをプラス方向で受け止められなくなってしまいます〉

(引用:育児文化研究所編『幼稚園のころのママの悩み相談100』1999年、赤ちゃんとママ社)

さらに「働くことを子育ての上でプラスにするのもマイナスにするのもお母さんの心の持ち方次第」とも。

今のまま勤めに出ることへの後ろめたさが拭(ぬぐ)いきれなくて、生活に支障がないなら、子どもの手が離れるまで勤めをやめてはどうかとも言っておる。後ろめたさを持ちながら仕事を続けたところで、自分も楽しくないし子どもも迷惑じゃろう。

ただ、どんな環境でも、今の環境を「子育てにプラス」と自分に言い聞かせる覚悟や気概がない限り、仕事をやめたところで後ろめたさが解消されるわけではなさそうである。

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