【スクール水着】はジェンダーレス&肌見せ少なめ 「男女共用セパレーツ水着」400校以上が導入 生徒に大人気のワケ

シン・スクール水着#1 ~開発秘話と売り上げ~

ライター:遠藤 るりこ

フットマークの「男女共用セパレーツ水着」は、ゆったりめの長袖ラッシュガードに、ハーフパンツという男女共用デザインで体のラインが出にくい。  写真提供:フットマーク

夏を目前にして、学校では水泳授業のシーズンに突入。子どものスクール水着といえば、紺色で装飾なし、ピタッと体にフィットした女児用ワンピースと、男児用トランクスが一般的です。

とはいえ、体の性差がひと目でわかるスクール水着を着ることに抵抗がある、性的マイノリティの子どもたちもいます。

そんな子どもたちのために、近年、男女共用デザインの水着が発売されています。先陣を切ったのは、水泳・学用品メーカー、フットマーク。2022年に「男女共用セパレーツ水着」を開発・テスト販売をスタート。大手ショッピングセンターのイオンでも、PB(プライベートブランド)・TOPVALU(トップバリュ)に「男女共用スクール水着」が加わりました。

増えつつある男女共用スクール水着とは、一体どんなものなのでしょう。2022年発売から大きな話題となったフットマークへ、開発秘話と子どもたちからの反響を取材しました。

※1回目/全2回(#2を読む) 公開日までリンク無効

きっかけは販売店からの電話

2022年に発売した「男女共用セパレーツ水着」の企画製造開発を手掛けたのは、水泳・学用品メーカーのフットマーク。開発のきっかけは発売からさかのぼること3~4年前、販売店からかかってきた電話でした。

「学用品を扱う販売店から、『体型があらわにならない水着はありますか』との問い合わせがありました。話を聞けば、ジェンダーに悩みを抱える子どもたちのための商品を探しているとのこと。

販売店は日々、学校の先生や子どもたちの生の声を聞いています。私たちは販売店を通して、現状の水着ではないものを探している子どもがいるという声を聞くことになったんです」(学校教育事業部・佐野玲子《さの・れいこ》さん)

1978年からスクール水着を作り続けてきた、水泳・学用品開発のパイオニア・フットマーク(東京都墨田区)本社にて、開発担当者の佐野玲子さんへインタビュー。  写真:遠藤るりこ

学用品というのは、そもそもあまり選択肢が多くないもの。性の悩みを抱えている子どもたちに寄り添うデザインは、当時のスクール水着市場にはありませんでした。

「そのお電話をいただいたときは、上半身はラッシュガードをお勧めし、パンツはゆったりとした、身体のラインが出にくいサーフパンツのような商品を組み合わせて着てください、とお答えしたんです」(佐野さん)

一人でも必要な子どもがいるなら

しかし、その後も似たような問い合わせがちらほら届くようになります。

「生まれ持った体と心の性に違和感を持つお子さんの場合、『現行のスクール水着を着ると、体型による性差が目立ってしまう』という話を聞きました。

男女別の水着のデザインは、身体の作りで異なるパターン(型)。小学校高学年くらいになると、どうしても股間やおしりのデザインがフィットせずに目立ってしまうんです」(佐野さん)

体型による性差が目立つようになり、大好きだった水泳の授業にどう参加すれば良いか悩んでいる子どももいました。

フットマークは国内でもっともスクール水着を作っている会社として、「どこにも売ってないなら、うちが作らなければならない」と考える一方で、「発売のタイミングが重要だった」と佐野さんは振り返ります。

「ここ数年は特に、学校現場の意識も変わってきているのを感じていました。ジェンダーに悩みを抱えるお子さんに対して、不自由のない環境を整えようとする流れのなか発売できたのは、とても良いタイミングだったのかなと思います」(佐野さん)

商品名の「男女共用セパレーツ水着」という名前にも、込められた思いがあります。

「ジェンダーに悩みのある子向けの『ジェンダーレス水着』と名付けて売り出してしまったら、それだけで手に取れない子も出てくると思いました。多くの子どもたちに受け入れられるようなデザインで、ひとつの選択肢として広く展開していかないと、と。

そのため、商品名はかたいのですが、シンプルに『男女共用セパレーツ水着』としました」(佐野さん)

予想外の反響と子どもたちが選んだ理由

ニッチな市場で、細く長く売れていくアイテムだと思って発売した「男女共用セパレーツ水着」ですが、2022年のリリース後、制服のジェンダーレス化の潮流と相まって、メディアに大きく取り上げられることに。すると、予想をはるかに超える反響が届いたのです。

「2022年の段階では、東京都と兵庫県の公立中学校計3校が、従来のスクール水着と『男女共用セパレーツ水着』のどちらかを選択できる形でテスト販売を行いました。

商品の出来としては自信があったのですが、はたして子どもたちに受け入れられるものなのか。これまでの水着と違うデザインには、どういう反響があるのか。

しかし、蓋を開けてみると大好評。1学年の約半数が男女共用セパレーツ水着を選び購入してくれたという学校もあったのです」(佐野さん)

この好意的な反響に、開発チームも驚きました。

「当初想定していたジェンダーに悩みを抱える子どもたちだけではなく、体型を隠したい、肌の疾患や手術痕などで肌を見せたくないなど、さまざまな悩みを解決するアイテムとして、幅広く受け入れられることになりました。

届けたい子どもに届いたのはもちろん、たくさんの子どもたちが受け入れてくれたことをとてもうれしく感じました」(佐野さん)

全国400校以上が導入 女子は9割が選択

テスト販売の翌年、2023年には全国300校以上の小中高で採用が決定します。

「学校指定の学用品というのは、各学校が決定するもの。この水着の発売と反響を聞いた全国の学校が、『うちの学校の水着としても採用したい』と次々に導入を決めてくれたのです」(佐野さん)

その背景には、やはり子どもたちの声がありました。

「水着が嫌だから水泳授業に出たくない、見学をしている、なんて子も少なくなかったんだと思います。でも、この水着なら気にしなくていいから、水泳の授業が受けられる。

性的マイノリティへの配慮という理由だけでなく、子どもたちが楽しく自分らしく水泳授業ができるなら、と導入を決めた学校もあると思います」(佐野さん)

採用校の教師たちからの評判も上々です。

東京都立神代高等学校の副校長先生は「これまで水泳授業は他の種目のときよりも見学者が多い印象だった。その要因のひとつとして水着があったのでは」と語ります。令和5年度入学の高校1年生は、約8割がこの「男女共用セパレーツ水着」を購入しています。

渋谷教育学園幕張中学校・高等学校でも採用が決定。保健体育科の先生によると、「生徒たちが安心して授業が受けられるようになったことが一番」と言います。

2024年には、2022年にテスト発売した3校の子どもたちからのアンケートを踏まえてリニューアルデザインをリリース。今年度は400を超える学校で導入されることになりました。

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多くの子どもたちに受け入れられた「男女共用セパレーツ水着」。次回は、老舗メーカーのフットマークならではの機能性について詳しく紹介します。

取材・文/遠藤るりこ


●取材協力
フットマーク株式会社

【男女共用セパレーツ水着】
◆トップス(コン、ブラック)
サイズ/120、130、140、150:3,630円(税込)
S、M、L、LL:3,740円(税込)
3L、4L:3,850円(税込)
5L:3,960円(税込)

◆パンツ(コン、ブラック)
サイズ/120、130、140、150:3,080円(税込)
S、M、L、LL:3,190円(税込)
3L、4L:3,300円(税込)
5L:3,410円(税込)

◆トップスインナー(コン)
サイズ/150、S、M、L:2,200円(税込)
LL、3L:2,310円(税込)
4L、5L:2,420円(税込)

●関連リンク
フットマーク株式会社 公式HP
・フットマーク株式会社 ウェブマガジン
・X(旧Twitter) @footmark_japan
・Facebook フットマーク

※シン・スクール水着は全2回です
#2を読む(公開日までリンク無効)

えんどう るりこ

遠藤 るりこ

ライター

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe