子どもの「やる気」を引き出す 勉強・習い事・スポーツの「環境づくり」 発達心理学の専門家が解説
子育てがちょっとラクになる「こども心理学」小塩真司先生インタビュー #2
2024.06.12
ライター:中村 美奈子
子どもの勉強や習い事に取り組む態度を見ていると、やる気がないみたいでモヤモヤする。その悩み、心理学を知ると「悩まずに、やれることをやってみよう」へと変換することができます。発達心理学の専門家で書籍『こども心理学』の監修もつとめる小塩真司先生(早稲田大学教授)。
心理学は、目には見えない“こころ”を、科学を使って明らかにする学問。心理学で“こころ”の働きのパターンを知ると、生きるのがちょっぴり楽になります。
目次
【お悩み】家で読書や勉強をする様子がないので、学校の成績が心配です。どうしたら本を読んだり勉強したりするようになりますか?
【ヒント①】家の中に勉強したくなる「環境」がある?
小塩先生:逆質問になりますが、親も家で勉強していますか? 親が楽しそうにスマホで遊んでいたりテレビを観ていたりしたら、子どもが目の前で勉強をするはずがありません。子どもは親の真似をしていろんなことを覚えるので、まずは親が勉強する姿を見せるのが一番です。
家庭学習の前段階ともいえる「読書」の場合、家や子どもの身近な場所に、いろんなジャンルの本がたくさんあると、子どもが本を読むようになる確率が高くなるということが、研究で明らかにされています。ただしその場合は、1~2冊程度ではなく、ある程度の量が必要です。一般家庭でいきなり数百冊の本を用意することは難しいですが、できるところから始めてください。
勉強に役立ちそうなものなら、図鑑や絵本、漫画でもだいじょうぶ。子どもは、何に興味を持つかわかりません。ですから、子どもが何か調べたり見たりしたいと思ったときに、その欲求を満たしてくれる本が手近にあることが大切なのです。まずは子どもの年齢を考慮しつつ、興味がありそうな本を親が見繕って、本棚にそろえていきましょう。親がやるべきことは、勉強する「環境づくり」なのです。
【ヒント②】子どもが何に興味を持つのかは「釣り」に近い!?
小塩先生:知っておいてほしいのは、親がいくら環境を整えても、子どもによってはまったく興味を示さない場合もあることです。これはもう、持って生まれた「性格」だと思って諦めて、また別の環境を用意するしかありません。「子どもは、親の思うとおりにならないからしょうがない」というのが、親の気持ちの落とし所です。
例えば、子どもが3人いる家庭のケースでは、一番上の子は、親が用意した本にまったく手をつけなかったそうです。しかし2番目の子は、親が昔買った小説を高校生くらいになってから読みはじめ、一番下の子は、親が結婚する前に「これは子どもに読ませたいな」と思って本棚にそろえておいた図鑑や本を読んでくれたそうです。
この例からも分かる通り、「子どもが何に興味を持つか」は、もう「釣り」みたいなもの。子どもがエサに引っかかったらラッキー! そして釣れたときに「これもあるよ、あれもあるよ」と、次のエサを与え続けていくのが大事なんです。
せっかく釣れたのに、親が「これを読みなさい」と押しつけるのは絶対にやめましょう。大人の私でもそんなふうに言われたら、読みたくなくなってしまいます。
【ヒント③】家がムリなら図書館、紙がムリならデジタルでもOK
小塩先生:ヒント①で言いましたが、子どもが本を読むようになる確率を高くしたい場合に必要な本は、1~2冊ではなく数百冊。家ではとてもそろえきれないので、ぜひ子どもといっしょに図書館に行ってみましょう。私も子どもたちを連れて、よく図書館に通っていました。
特に子どもが小さいうちは、親もいっしょに本棚に行って、「これはどう?」「ちょっと見てみようか」などと提案しながら、いっしょに選ぶのが大事です。小さな子はいろんな知識が蓄えられていないので自分に合った本を選ぶのが難しいからです。親は「この絵本を読んだから、次はコレが読めそうだな」と、子どものレベルを考えて次のステップを用意してあげられると、なお良いでしょう。
紙の本ではなく、電子書籍を活用してもOKです。その場合も、親が管理してコンテンツをそろえることが必要です。
【ヒント④】子どもが好きなものを共有しよう
小塩先生:本に興味がなかったら、映画やドラマ、アニメなどのコンテンツを共有するのもいいと思います。テレビで動画配信サービスを観る機能を使うと、家族みんなで観ることができますよね。そんなふうに、親子で同じ体験をすることが大切なのです。
特に、子どもが「これ読んだよ」と持ってきた本などは、ぜひ親も一緒に読んでみてください。そうすると子どもとその内容についての話ができるようになり、じゃあ次は何を読もうかと相談もできる。そのやり取りを続けていくと、だんだんと良質な作品を選ぶ力がついてきます。映像コンテンツも同様に、同じ作品を観て話すということを繰り返しているうちに「見る目」が養われて、良質のコンテンツを観るようになります。
「子ども向け」という部分にとらわれずに、子どもと同じものを見たり読んだりしたらいいと思います。だって、そのコンテンツを作っているのは大人なんですから。
【結論】子どもになにかをしてほしかったら、まずは親がやっている姿を見せる!
今回は勉強や読書のお話でしたが、「子どもになにかをしてほしかったら、まずは親がやっている姿を見せる」のは、習い事やスポーツにも対応できるメソッドです。またいくら環境を整えても、子どもが興味を持たないこともある、その場合は諦めて別の環境を用意するのが心の落とし所。親子でいっしょの体験をすることが大事ということなので、親子で「推し活」するのもよさそうですね。
【今回の心理学のヒント】#性格
子育てがちょっとラクになる「こども心理学」連載
「イヤイヤ期」をラクに 〔こども心理学・第1回〕
子どもの「いじめ」 〔こども心理学・第3回〕
子どもを比較しない思考術 〔こども心理学・第4回〕
子どもの習い事 続ける・続けない 〔こども心理学・第5回〕
子どもの「ひとり言と嘘」 〔こども心理学・第6回〕
こども心理学
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〈小学上級・中学から・すべての漢字にふりがなつき〉
中村 美奈子
漫画、アニメ、映画、ゲーム、アイドルなど幅広いエンターテインメントジャンルで記事を書いているライター。漫画家や声優、役者、監督、クリエイターなど、これまでに200名以上へのインタビューを経験。
漫画、アニメ、映画、ゲーム、アイドルなど幅広いエンターテインメントジャンルで記事を書いているライター。漫画家や声優、役者、監督、クリエイターなど、これまでに200名以上へのインタビューを経験。
小塩 真司
1972年生まれ。名古屋大学教育学部卒業、同大学院教育学研究博士課程前期課程・後期課程修了。博士(教育心理学)。中部大学人文学部講師、助教授、准教授を経て、2012年4月より早稲田大学文学学術院准教授、2014年4月より教授。専門は発達心理学、パーソナリティ心理学。
1972年生まれ。名古屋大学教育学部卒業、同大学院教育学研究博士課程前期課程・後期課程修了。博士(教育心理学)。中部大学人文学部講師、助教授、准教授を経て、2012年4月より早稲田大学文学学術院准教授、2014年4月より教授。専門は発達心理学、パーソナリティ心理学。