『香川照之プロデュース インセクトランド こん虫 まなぶっく』の監修を担当した、神崎亮平先生(東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻および東京大学先端科学技術研究センター教授)は、あらゆる環境下で生息する昆虫に着目し、その行動を引き起こす脳を研究。
昆虫の優れた能力をヒントに人や生物、そして地球環境に優しい新たな科学と技術を創出し、地球の将来を考えたモノづくりの在り方を考え続けています。
昆虫と直に触れ合うことで、子どもたちに表れる変化とは――。ご自身の実体験も踏まえてお話しいただきました。
昆虫たちを見て考えることで育まれる能力
インタビュー1回目(「虫ってすごい!東大・神崎教授が解説「人間が昆虫から学べる能力」https://cocreco.kodansha.co.jp/general/topics/education/A9NIc)では、虫たちに目を向けることで、“考え、発見する力”が育つという興味深い話が出ました。その話について、神崎先生はさらに言葉を続けます。
「現代の人は、答えがひとつに決まっている問題に回答するのは得意ですが、答えがわからないものについてあれこれ思考を巡らせ、答えを探し出す作業は苦手です。ましてや、自分で課題を見つけるなんて、至難の業(笑)。
しかし物事をじっくり観察して対象を正確にとらえる認識力や、蓄えた知識や判断力を用いて推察する洞察力は、これから求められる局面が確実に増えてくると僕は思っています」
「虫たちをふくめ自然には、人間にとって知らない世界、わからないことがたくさんあります。その世界に飛び込んで自分の目で見て、『こんな反応をするんだ!』『なぜ、こういう行動をするんだろう?』と発見したり疑問を抱いたりする経験を重ねていくうちに、観察力や記憶力、判断力などさまざまな能力が育まれていくのです。
もちろん、単に自然の中に身を置いてぼんやりしているだけではダメ(笑)。自然に触れて遊ぶ=自ら自然に働きかけることが大事です。
そうやって自然の中で身につけた能力は、人間と向き合う際にもきっと役立ちます。相手の特徴や変化にすぐ気づけるから、たとえば『髪形を変えたんですね!』『今日のピアス、ステキですね』と自分から声をかけるなどコミュニケーションの糸口をすぐに見つけられるでしょう」
手軽なインドアの娯楽が増えた今は、自然の中で遊ぶ機会も減りがち。しかし自然の中にあるよりワクワク&ドキドキできる要素にもっと目を向けてほしい、と神崎先生は言います。
「たとえばデジタルゲームの世界は、言ってみればゲームの作り手が生み出した世界です。その中でスピードアップやレベルアップはできるかもしれませんが、あくまでもゲームの中という想定された世界での話。作り手の想像力の範疇内で踊っているだけとも言えます。
しかし自然の中には、ゲームとは比べものにならないくらい、人間の想像もつかないような未知の世界があります。そこで自分の目で見て脳で考え、答えに辿り着くというのは、胸躍る体験ではないでしょうか」
子どもの虫嫌いは親の虫嫌いから⁉
子どもたちに自然や科学に興味を持ってもらおうと、神崎先生は「子ども実験科学教室」など子ども向け講座を積極的に開催しています。子どもたちを通じて気づいたことについて、尋ねてみました。
「講座にはだいたい親が応募して子どもを連れてくるのですが、その子どもたちはだいたい虫嫌いです(笑)。おそらく親が虫嫌いで、子どもに昆虫を触らせていないのでしょう。
でも僕が教室で使うカイコなんかは、白くて、飛べない小さな羽がついていて、すごくかわいいんですよ。実際に触れ合っていると、初めは恐る恐るだった子どもたちも次第にカイコに愛着がわいてきて、講座が終わるころには『かわいい』『これ、もらって帰ってもいい?』と聞いてくれる。その心境の変化がとても嬉しいですね」
親自身、虫が苦手だと、虫に近づこうとする子どもに対して「汚い!」「危ない!」などついつい制止しがちですが、その何気ない行動は、子どもたちから学びの機会を奪うことにもなりかねないと、神崎先生は警鐘を鳴らします。
「虫が苦手な親御さんもいるかと思うのですが、昆虫に対してむやみに『ギャー!』と悲鳴を上げたり(笑)、『触っちゃダメ!』『汚い』と言うのは、ちょっと我慢していただきたいなと思います。そういう何気ない親の反応やひとことを子どもたちはよく見て覚えていて、影響を受けます。
せっかく子どもが興味をもったのですから、虫への偏見を持たないよう、その好奇心を大事にしてあげてください。たとえば“有害な虫”というのも、あくまでも“人間にとって”という観点での話で、昆虫たちからすれば彼らの世界に侵出し、環境を変えている人間こそが天敵ですからね(笑)。
SDGsという共生の時代において、いまだに虫が毛嫌いされるのはなぜだろう、かわいそうだと思います。ほかの生物たちと同じように、地球上の仲間だと思えたらいいですね」
親子での虫の向き合い方
神崎先生に、親子での虫の向き合い方についていくつかヒントを教えてもらいました。
「子どもが虫を連れて帰ってきたら、『足は何本あるかな?』『どんな顔をしている?』と一緒に観察して、図鑑で調べてみるのはどうでしょうか。
家で飼えそうな虫であれば、飼ってみて観察日記をつける。飼うのがどうしても難しいのであれば、殺すのではなく野に放す、など。家に入ってきてしまった虫も、捕まえられるのであればできるだけ殺さず、ティッシュでつかんでそっと外に放してあげるといいですね。昆虫もまた、命ですから」
【神崎亮平先生PROFILE】
1957年、和歌山県生まれ。1986年、筑波大学大学院生物科学研究科博士課程を修了。1991年、筑波大学生物科学系助手、講師、助教授を経て、2003年、筑波大学生物科学系教授。2004年、東京大学大学院情報理工学系研究科教授、2006年より、東京大学先端科学技術研究センター教授。生物の環境適応脳(生命知能)の神経科学に関する研究に従事。
神崎亮平先生インタビュー
#1:昆虫ってすごい!東大・神崎教授に聞く「人間が昆虫から学べること」
https://cocreco.kodansha.co.jp/general/topics/education/A9NIc
#2:子どもの虫嫌いは親の虫嫌いから⁉昆虫との触れ合いで表れる変化とは←今回はココ
#3:昆虫は命を知る最後の砦…これからの社会を生き抜くうえで必要なこと
(2021年11月19日公開予定)
https://cocreco.kodansha.co.jp/general/topics/education/bSuR6
関連書籍
関連記事
香川照之さんが昆虫愛を注いだ「インセクトランド」絵本の世界
https://cocreco.kodansha.co.jp/general/news/picture-book/IgZJd
木下 千寿
福岡県出身。大学卒業後、情報誌の編集アシスタントを経てフリーとなる。各種インタビューを中心に、ドラマや映画、舞台などのエンターテイメント、ライフスタイルをテーマに広く執筆。趣味は舞台鑑賞。
福岡県出身。大学卒業後、情報誌の編集アシスタントを経てフリーとなる。各種インタビューを中心に、ドラマや映画、舞台などのエンターテイメント、ライフスタイルをテーマに広く執筆。趣味は舞台鑑賞。