茂森あゆみさん「うたのおねえさん」を育てた“音楽一家”と“本物のステージ” 

歌手・茂森あゆみさんインタビュー「私の“音育”」#1〜生い立ち編〜

絶対音感は音楽家でも必須ではない?

歌手として今の自分があるのは、すべてではないにせよ、こうした幼少期の習い事のおかげもあるかもしれないと茂森さんは振り返ります。ピアノや聴音で音楽的な素養を伸ばすのはもちろん、水泳での肺活量の鍛錬(たんれん)が歌に活きていると感じることもあり、スポーツ系の習い事もやっていてよかったと考えているそうです。

幼少期から学んだピアノやソルフェージュによって、茂森さんは相対音感(特定の音のみ識別でき、そこから相対的に別の音を識別できる能力)を習得。音楽高校の入学試験で聴音の課題があるため受験に役立ったそうですが、音楽にまつわる能力として有名な「絶対音感」の必要性については首をかしげます。

「個人的な考えなので『何を言ってるんだ!』と怒られちゃうかもしれませんが。子育て世代の方が『子どもに絶対音感を身に付けさせたい』とか、習得プログラムがある幼稚園がテレビで紹介されているのを目にしますが、音楽家として絶対に必要な能力ではないのかな? と。

私が通った高校・大学でも、相対音感や部分的絶対音感(ピアノの音でなら識別できるなど限定的)がある人ならそこそこいましたが、絶対音感の人は少なかった印象です。絶対音感を持たない音楽家はたくさんいらっしゃいますし。それに、絶対音感がある人って、自分が間違えた音もわかるから歌いづらいと聞いたことがあります。『今日は調子が悪いな』って萎縮して声が出なくなったり、自分でピッチの悪さが分かっちゃったりするそうですよ」

「私の勝手な考えですが、声楽家はだいたい音感があるぐらいでちょうどいいぐらいじゃないかなと思っています(笑)」(茂森さん)
写真:内田龍

好き嫌いを尊重しつつほめると 子どもは伸びる

幼い頃からの訓練が必要な絶対音感と違い、相対音感は大人になってからでも身に付く能力だとされています。そのため、音楽家を目指すにあたって絶対音感が必須ではないのであれば、無理に習得させる必要がないというのが茂森さんの考えです。茂森さんがそれよりも大切だったと振り返るのは、「音楽をずっと好きでいられたこと」だと振り返ります。

「いろんな習い事をさせてもらいましたが、強要された覚えが一度もないんです。音楽高校への進学も私が望んだことですし、そもそも『勉強しなさい』とも言われませんでした。『無理矢理させても身にならない』というのが父の考えだったので。そのおかげか、3歳から習っていたピアノですが、好きな曲は積極的に練習するけど、そうでない曲はよくサボっていましたよ。親の前では真剣にやるフリをして、母がキッチンに行ったらマンガを読みながら弾くとか(笑)。子どものやることなのでバレていたかもしれませんけど。

サボるのはいいこととは言えませんが、両親が私の好き嫌いを尊重してくれたからこそ、私はずっと音楽が好きでいられたと思います。あと、母が私をすごくほめてくれる人で、歌に関しても『上手だね』ってよく言ってくれたのが好きでいられた要因かも。それでずっと、自分はすごく歌がうまいと疑わずに生きてきたんですが、音楽高校はうまい人が集まる場所なので『あれ、私そこまででもない?』ってびっくりしました(笑)」

小5で世界的歌手に衝撃! オペラ歌手を志し音大&ミラノをめざす

もうひとつ、茂森さんの両親が大切だと考えていたのは「良いものを経験させる」ということ。そしてそれが、茂森さんが歌手を目指す大きなきっかけとなりました。

「オペラ歌手を志したのですが、きっかけは、小学5年生のときに観たレナータ・スコット(世界的な人気を誇るイタリアのソプラノ歌手)のリサイタルです。ピアノとクラシックバレエを習っていた関係で、私自身、発表会で年に何度か舞台に立つことがあり、コンサートやリサイタルを観に行く機会もたくさんありました。そんななかで両親としては『せっかくなら小さいうちから本物を聴かせた方がいい』というのがあったようです。ただ、小さい頃って公演中だろうが寝てしまうことがあるので、当時の私がちゃんと楽しめていたかは謎です(笑)。

それでも、小学5年生ともなると、ある程度真剣に観られるようになり、そんななかで観たレナータ・スコットのステージに衝撃を受けて、オペラ歌手を夢見るようになりました。中学の卒業文集にキャリアパス(キャリアアップの道筋)を細かく書いていたので、かなり本気だったんでしょう。武蔵野音楽大学に入学して24歳で大学院を卒業。27歳までの3年間でイタリアのミラノに留学して、27歳で結婚するって書いていました。途中までは予定通りでしたが、大学在学中に『うたのおねえさん』になるとは夢にも思っていませんでした(笑)」

衣装/セレクトショップ アプト
ヘア/モリオカ マリン
メイク/モリモト マイ

取材・文/井上良太(シーアール)

※茂森あゆみさんインタビューは全3回。次は21年6月24日8:00〜公開です(公開日時までリンク無効)。
【第2回】茂森あゆみさん“絶対に叱らない先生”の導きで「うたのおねえさん」になれた

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しげもり あゆみ

茂森 あゆみ

歌手・女優・タレント

1971年12月15日生まれ。熊本県出身。歌手、女優、タレント。1993年から6年間、『おかあさんといっしょ』(NHK Eテレ)の17代目「うたのおねえさん」として活動する。同番組で発表された「だんご3兄弟」は子ども以外の世代からも支持を集める大ヒットとなり『第50回NHK紅白歌合戦』に出場。現在は3人の子どもの母親として日夜奮闘している。

1971年12月15日生まれ。熊本県出身。歌手、女優、タレント。1993年から6年間、『おかあさんといっしょ』(NHK Eテレ)の17代目「うたのおねえさん」として活動する。同番組で発表された「だんご3兄弟」は子ども以外の世代からも支持を集める大ヒットとなり『第50回NHK紅白歌合戦』に出場。現在は3人の子どもの母親として日夜奮闘している。