モノで駆け引きはあり? 無視されたらどうする? 困った時の「イヤイヤ期の処方箋」

【オンラインセミナーレポート】榊原洋一先生「イヤイヤ期」子どものなかで起きていること#2

小児科医/お茶の水女子大学名誉教授:榊原 洋一

加えて、嫌な気持ちのほうへさらに追い込んでしまう恐れもあります。イヤというのは拒絶、NOという反応です。

大人も子どもも一緒ですが、人間はNOと言うときにはネガティブな気持ちになります。ましてやその理由を何度も聞かれたら、誰でもムカムカしてくるはずです。

想像してください。危険な道路で手をつなぎたくないと言っている子に理由をきいてどんな意味があるでしょうか? 「自由になりたいから」「煩わしいから」。2歳児はまだそんな気持ちを表現できませんし、問いただしてもさらに嫌な気分にさせるだけです。

お子さんの悩みを理解して、今後のために生かす目的で理由を聞いてみるのはいいかもしれません。ですが、ロジックで説得するためなら良い方法ではありません。理論では大人が勝つに決まっていますし、お子さんを追い込んでしまうだけですから。

では、どうすれば良いか?

ほめると大人も気持ちよくなれます。  写真:アフロ​
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まずはお子さんのイヤという意見をきちんと聞き、「こうしてくれないかな」「私はこうしてほしいな」と提案をする。それに応じてくれたら、しっかりほめてあげる。

まだむずかしいようなら、モノを使うなど駆け引きをする。駆け引きに応じてくれたら、やはりほめてあげる。

相手は自己主張を訓練中の子どもなんです。できるだけ、ほめて気持ち良くさせて、ご自身もまた気持ち良くなるように過ごしていただきたいです。

Q5 無視されたらどうすればいい?

名前を呼んでも鼻歌を歌って聞こえないフリをされます。無視されたら、どうしたらいいでしょうか?

A5 温かく見守ってあげて

どういう状況でこうなったかわかりませんが、無視されるのは気分のいいものではないですよね。ましてや鼻歌まじりなら、イラっとしてしまうのも無理ありません。

でも、ぐっとこらえて、そこには子どもなりの事情があることを察してあげましょう。無視するというのは、反応したくないからなんです。名前を呼ばれて返事をしてしまうと、次に何かお願いが来ることがわかっている。だから、それを未然に防ぎたいという心理だと思います。

決してパパやママが嫌いだからではありませんし、馬鹿にしたいわけでもありませんよ。次から次へとやってくる指示やお願いをくいとめたいという子どもなりの事情がそこにはあるのです。

アメリカにパトリシア・クールという発達心理学の学者がいます。彼女は幼少時の記憶をこんなふうに語ったことがあります。

「何か悪いことをすると親は私の手のひらを軽くペチッと叩く習慣があった。親はもう遊びをやめてほしいが、私はまだ遊んでいたい。そんな時に私は叩かれる手を親に差し出しながら、遊びを続けたものです」

黙って手を差し出すのと、無視して鼻歌を歌うのは、なんとか大人の要求に対抗して自己主張したいという点で同じです。人間の子どもはとても知能が高いので、こんな駆け引きもできるのです。すごいことですよ。

普段から意識していただきたいのは、子どもはいつも親の言う通りになる存在ではないということ。「イヤ」と言うことができる、独立したひとりの人間として認めてあげてください。

逆に、いつでも何でも「ハイ」と言うことを聞く存在だったらどうでしょう? これは心配です。つまり自己主張をしないまま育っていくことになってしまいます。

極端な例ではありますが、思春期まで自分のやりたいことを抑えてすべて親に従ってきた子が、パーソナリティ障害という精神疾患を発症する例も見られます。自己主張をしない、できないという状態が長く続くのは、発達に悪い影響を及ぼす恐れがあるのです。

「イヤイヤ期」というと、すべてを「イヤ」と否定されてしまっているように感じて落ち込むかもしれませんが、実際のところは違うと思います。時には言うことを聞くシーンもあるでしょうし、対する大人によって使い分けている場合もあるでしょう。

イヤイヤという姿は、大人になっていくための大切なプロセスなんだと、温かく見守っていただきたいです。

──◆──◆──

わかっていても、なかなか理想どおりにはいかないのが子育てでもあります。イヤイヤ期の子どもに向き合っていると、我慢強い忍耐を強いられる場面もあるでしょう。

しかし、そうは見えなくても子どもの内面ではたしかな成長が進行しています。子どもができたことをしっかりほめてあげて、少しでも気持ちの良い時間を過ごしたいものですね。

次のレポート第3回では「イヤイヤ期がなくても大丈夫?」「ママだけにわがままを言う」など4つの悩みが登場します。榊原先生の回答やいかに!?

#3に続く)

構成・文/渡辺 高

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さかきはら よういち

榊原 洋一

小児科医・お茶の水女子大学名誉教授

小児科医。1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。 監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。

小児科医。1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。 監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。