「3つ」の具体的なポイント
まず1つめのポイントはなんでしょうか。
「それは『不妊治療は個別性が高いもの』ということです。年齢が若い卵子のほうが妊娠しやすい、ということは研究から分かっていますが、同じ年の友達ができたから私も、妹ができたから私も、とはならない。人と比べられるものではない、と理解してほしいです」(古賀先生)
2つめのポイント。古賀先生は、治療に「全振り」しすぎないことも大切、と説明します。
早く授かるために治療に集中したいから、と女性が仕事を辞めた結果、心のバランスを崩して鬱になってしまうケースは、少なくありません。
「仕事や夫婦仲、人間関係よりも治療を優先して全振りすると、万が一不成功に終わったときに、『私ってなんなんだろう』と抜け殻のようになってしまうリスクがあります。女性たちには治療中も、自分の糧になるものは手放さないで、人生を主体的に生きる中で不妊治療を考えてもらいたい。この30年、不妊治療を専門にしてきた医師として、そう願っています」(古賀先生)
そして3つめのポイント。女性が人生を主体的に生きる中で不妊治療を考える、そのためには不妊治療を始めるにあたって、「これまでの自分のストーリー」を整理しておくのを勧めたい、と古賀先生は強調します。
自分はどんな経験や生活をしてきて、不妊治療を望んだのか。どんな経緯を辿ってきて、これからどんな人生を生きていきたいのか。そのストーリーに、医師が医学的な情報を与えて、治療を一緒に考える時間を持つことができます。
古賀先生のクリニックで掲げているのは、「不妊治療後の人生にも寄り添う」とのメッセージ。「妊娠出産がすべてではない」不妊治療のリアルを知っているからこそ、産後ケア事業にも取り組んでいるそうです。
不妊治療を始める前に「自分の体を知る」方法
不妊治療をよりよく生きる、心の状態を守るには、主体的に自分の人生を考えること。その一環として、結婚して不妊治療を現実的に考える前から、「自分の人生の中で、子どもを持つこと」に向き合ってみるのがいい、と古賀先生は勧めます。
「子どもが欲しいと感じたとき、先を急がずにいられるためには、若いうちから自分の体を知る機会を持つのが大切です。その機会を作る選択肢の一つとして、卵子の数を調べるAMH検査があります」(古賀先生)
古賀先生のクリニックがある福岡市では、「福岡市プレコンセプションケア推進事業」として、AMH検査の費用助成を行っています。[対象者(本年度30歳になる女性)に、AMH検査のクーポン券を発行、検査費用及び結果説明費用を助成(自己負担500円)]
卵子の数や卵巣の状態は個人によって大きく変わりますが、「自分はどうなのか」を知っている人は、実はあまり多くありません。不妊治療に取り組んで初めて、自分の卵巣の状態や卵子の数を知る、という人がほとんどです。
「ですがこの検査は、不妊治療を始めなくてもできるもの。不妊専門のクリニックで希望すれば受けられますので、これからキャリアを築く20代の方にも、自分の体を知る方法の一つとして役立つはずです」(古賀先生)
また東京都が助成を始めて注目を集めた「卵子凍結」も、自分の人生を主体的に考える方法の一つと、古賀先生は見ています。
「アメリカのテック系企業では、女性社員が不安少なく仕事に集中できるよう、卵子提供を福利厚生として整えているところもあります。凍結卵子による不妊治療はまだ実例が少なく、有効性を判断するには早いですが、年齢に比例して卵子の数が減る傾向は確かにあるので、一つの安心材料にはなるでしょう」(古賀先生)
不妊治療で傷つきやすい心と夫婦関係を守るには、少し立ち止まって、考える時間を持つこと。これまで生きてきた人生の先で、子どもを持つ暮らしを、自分はどう望むのか──
「全員が結婚して、子どもを持つ」という時代ではなくなり、不妊治療のハードルが下がった令和の今。だからこそ、「自分はどう生きたいのか」を考える機会が、より大切になっていると言えそうです。
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「終わりから考える妊活」をテーマに、「不妊治療のその後」を研究する心理学者の香川香先生(関西大学 人間健康学部 教授)に、不妊治療の終わりとその後・当事者のストレス症状など心の問題について伺った前回に続き、今回の記事では、不妊専門クリニックの院長・古賀文敏先生(医師、日本生殖心理学会・理事長)に、心や人間関係を守りながら治療に取り組むポイントを伺いました。次回の記事では、不妊治療当事者の声を取り上げます。

髙崎 順子
1974年東京生まれ。東京大学文学部卒業後、都内の出版社勤務を経て渡仏。書籍や新聞雑誌、ウェブなど幅広い日本語メディアで、フランスの文化・社会を題材に寄稿している。著書に『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮新書)、『パリのごちそう』(主婦と生活社)、『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』(KADOKAWA)などがある。得意分野は子育て環境。
1974年東京生まれ。東京大学文学部卒業後、都内の出版社勤務を経て渡仏。書籍や新聞雑誌、ウェブなど幅広い日本語メディアで、フランスの文化・社会を題材に寄稿している。著書に『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮新書)、『パリのごちそう』(主婦と生活社)、『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』(KADOKAWA)などがある。得意分野は子育て環境。

ハラユキ
雑誌、書籍、Webなどの媒体で執筆しつつ、コミックエッセイも出版。2017年から約2年間バルセロナに住んだことをきっかけに、海外取材もスタートさせる。著書に『王子と赤ちゃん』(講談社/カワハラユキコ名義)、『オラ! スペイン旅ごはん』(イースト・プレス)、『ほしいのは「つかれない家族」』『ワンオペ育児モヤモヤ脱出ガイド』(講談社)、『誰でもみんなうつになる』(KADOKAWA)などがある。 オンライン・コミュニティ「バル・ハラユキ」も主宰。 ハラユキ公式サイト https://suikyo.amebaownd.com/ バル・ハラユキ https://note.com/harayukinote/membership/join
雑誌、書籍、Webなどの媒体で執筆しつつ、コミックエッセイも出版。2017年から約2年間バルセロナに住んだことをきっかけに、海外取材もスタートさせる。著書に『王子と赤ちゃん』(講談社/カワハラユキコ名義)、『オラ! スペイン旅ごはん』(イースト・プレス)、『ほしいのは「つかれない家族」』『ワンオペ育児モヤモヤ脱出ガイド』(講談社)、『誰でもみんなうつになる』(KADOKAWA)などがある。 オンライン・コミュニティ「バル・ハラユキ」も主宰。 ハラユキ公式サイト https://suikyo.amebaownd.com/ バル・ハラユキ https://note.com/harayukinote/membership/join


































古賀 文敏
昭和42年5月15日生まれ。日本産科婦人科学会専門医、臨床遺伝専門医、元福岡大学産婦人科臨床教授 大分医科大学(現大分大学)卒業。1999年、国立小倉病院成育センター周産期病棟医長、生殖医療部門立ち上げに関わる。2004年、久留米大学病院にて不妊・内分泌部門主任を経て2007年、「古賀文敏ウイメンズクリニック」開院。2014年胎児診断部門を増設を機に移転・拡張。同時に託児・教育施設キッズフォレストを開設。 2021年助産師と保育士が共に母子を支える産後ケアスタート、計画的卵子凍結開始。 2025年美容とエイジングケアに特化したリセル福岡開設。 日本生殖心理学会理事長、日本生殖ホリスティック医療学会副理事長、日本IVF学会常任理事、日本受精着床学会評議員、生殖バイオロジー東京シンポジウム理事、日本生殖内分泌学会評議員、母体保護法指定医、日本産科婦人科遺伝診療学会 周産期認定医
昭和42年5月15日生まれ。日本産科婦人科学会専門医、臨床遺伝専門医、元福岡大学産婦人科臨床教授 大分医科大学(現大分大学)卒業。1999年、国立小倉病院成育センター周産期病棟医長、生殖医療部門立ち上げに関わる。2004年、久留米大学病院にて不妊・内分泌部門主任を経て2007年、「古賀文敏ウイメンズクリニック」開院。2014年胎児診断部門を増設を機に移転・拡張。同時に託児・教育施設キッズフォレストを開設。 2021年助産師と保育士が共に母子を支える産後ケアスタート、計画的卵子凍結開始。 2025年美容とエイジングケアに特化したリセル福岡開設。 日本生殖心理学会理事長、日本生殖ホリスティック医療学会副理事長、日本IVF学会常任理事、日本受精着床学会評議員、生殖バイオロジー東京シンポジウム理事、日本生殖内分泌学会評議員、母体保護法指定医、日本産科婦人科遺伝診療学会 周産期認定医