「きょうだい児」当事者の弁護士が未来に寄せる思い

「きょうだい児」当事者が歩む道のりとは? 新刊『君の火がゆらめいている』(落合由佳・著) (2/3) 1ページ目に戻る

弁護士:藤木 和子

きょうだい児が抱くリアルな葛藤

主人公の葉澄は小学6年生。双子の菜々実に自閉スペクトラム症と知的障害があります。葉澄の願いは「何かいいことあるといいな、なんてぜいたくは言わない。だからどうか、菜々実が何もやらかしませんように」というささやかな平穏です。

ところが、ある日、仲の良い友だちの倫ちゃんから、誕生日会に来るのは葉澄だけにしてほしいと言われてしまいます。菜々実は音や光に敏感でこだわりが強く、パニックやトラブルを起こしてしまうからです。葉澄の胸はじりじり焼かれるように熱くなり、「私も行かない」と言ってしまいます。後悔しても、あとには引けません。

お母さんは「葉澄だけいっておいで」と言いますが、葉澄は「わたしだけ楽しむのはいけないと思って」と反発します。何を選べば正しいかなんて誰にも決められません。

私も似たような問題で悩んだ経験がありました。今ならこう言いたいです。「どれを選んでも正しいけれど、自分の火が伝えてくれることがきっと正解」だと。

物語では、不思議な力がわいてくる日もあれば、できることの少なさに落ち込む日もあります。しかし、葉澄は状況に合わせて、時に熱く体当たりで、時にクールに現実的に、時にポップでライトに、向かっていきます。

たとえ完璧にわかりあえなくても、きょうだい児同士で交流することの価値

葉澄にとって、心の支えになる居場所が「きょうだい会・つなぎび」です。同級生の恵太、お姉さんのようなジュジュ、会長の倉木さん。きょうだい児同士で「わかる!」と通じ合える不思議な感覚があります。会えるのが楽しみで、何かあったら話したいと思える仲間です。みんなで作ったあげたてのフライドポテトをほおばるシーンは最高にうらやましいです。

しかし、たとえ仲間や友だちでも、それぞれの火のゆらめきや望むやさしさがぴったりと重なるわけではないことを葉澄たちは知っています。「全部が全部わかりあえないからって、友だちじゃないわけじゃないしさ」は恵太の言葉です。

この互いを大切にしながら、互いを守るための車間距離のようなものは、きょうだい会を運営、参加していく中でも、普段の人間関係でも一番気を付けたいことだと私も感じています。

恵太は軽い口調の裏に、両親の別居や障害のある弟の聖人が不安定になると力が他者に向いてしまうなどの複雑な事情を抱えています。

そんな彼は「おれ、ときどき考えるんだ。生存する人の全員が健常者で、障害者は排除されて成り立つ社会があるとしたらって。そこに豊かさとか、発展とか、やさしさはあるんかなって。そこは本当に、人間の住む世界なんかなって」と問いかけます。

きょうだい児同士の葉澄と恵太、友だちの倫ちゃん、いじめっ子だった柳沼くんたちは、時にかみ合わなかったり、ぶつかり合います。それでも、そばにいてくれる誰か、少しでも力を貸してくれる誰か、どこかでつながっていると信じられる誰かの存在、それは確かな希望だといえます。

家族を放っておけないけれど、自由になりたい
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